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卒業後
206 星歴553年 赤の月4日 疑問(6)
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「おや、お帰りウィル。暖房用の魔道具のテストのために出かけていると思っていたけど、行きだけでもう結論が出たの?」
魔術院で転移門から出てきたら魔術院の知り合いのセレスから声をかけられた。
ちょこちょこ特許関係のことでやり取りをしている相手だったので、俺が今何をしているかも知っていたらしい。
テストの話は俺からはしていないのでアレクあたりから聞いたのだろうが。
「テストはまあまあという所かな?多少改善点はあるものの実用には耐えうるといったところだね。
ちょっとスラフォード領で変なことに出会ってね。それの関連で調べごとをしに戻ってきたんだ」
そのままどこか都合のいい隠れ場所から見張り体制に入ろうとして、振り返った。
セレスはよく魔術院にいる。
ということは転移門を使う人間もよく見ているはずだ。
「そういえば、セレスはスラフォード領の代官を知っている?あそこって最近年に一度だけ魔術師を雇って細かい街回りの仕事をさせていると聞いたんだけど、今回行ったらなんか物凄い無茶を言われてね」
セレスが顔をしかめた。
「ああ、あの七面鳥ね。文句だけはがーがー煩い癖に支払は渋る、最低な男よね」
ぶはっ。
太った顔を真っ赤にして起こっていた男を思い出して、噴出した。
確かに七面鳥だ。
「あいつがこっちにどのくらいの頻度で来ているか分かる?どうも領地で悪いことをしていたみたいなんで、尻尾を捕まえてやりたい」
「尻尾をつまんだらついでに羽も毟り取ってつるっ禿にしてやりなさい。
あいつったら本当に感じが悪いんだから。
半年に一度程度来るけど、そういえばこないだは1か月前程に来たばかりだったのにまた来ていたわね。しかも何の苦情も言わずに出て行ったわ」
ふむ。
ということは比較的最近に来て資金をこちらに隠しているということか。
「どこに泊まっているか、知っていたりしない?」
一応聞いてみたら、驚きの返答がきた。
「あいつ、西区に家を持っているのよ。
2年ほど前に防水の術が切れたって竜の首でも取ったかごとくぎゃーぎゃー騒いでいたから、あの時魔術院にいた人間は誰でも知っていると思うわよ」
ほぉう?
それはそれは。
代官が王都へ逃げてくるまで時間を潰さなければならないかと思ったが、先に作業に取り掛かれるかな?
清早に代官が王都へ現れたらすぐ知らせてくれるよう頼んだ後、セレスにもらった簡単な地図を元に代官の王都の隠れ家へ向うことにした。
代官の別邸はなかなかどうして立派な館だった。
中には成金趣味ながらも高い美術品があちこちに置いてある。
領主にばれたらここに隠れ住むつもりだったのかね?
見つかりさえしなければ、快適な住処なりそうだ。
ベッドもフカフカなキングサイズで羽根布団がかけてあり、俺たちの発明した魔道具もあちこちに置いてあった。
流石に隠し財産であるこの館にあまり人を雇えなかったのか、年取った下男が一人いる以外誰もいない館なので俺たちの魔道具は便利だったのだろう。
「宝石と金貨か。あまり独創性はないな」
書斎にあった本をくりぬいて作った隠し場所にあったのは隠し財産としてはありがちな宝石だった。
机の下にあった隠し金庫の中は金貨。資産価値としては宝石の方が多い。金貨は宝石を換金するまでのつなぎとしておいてあるのかな?
美術品は・・・資産価値は悪くないが嵩張るからな。隠し財産としてよりは、本人の虚栄心と満足のために買ったのだろう。まあ、これらも売れば横領された資金の一部の返済にはなるだろうが。
「王都にあいつ、来たぜ」
隠し財産の一覧表を作っていたら、清早の声がした。
「こちらに向かっているか?」
「なんか変な格好をするための道具を使っているけど、こっちに向かっているね」
??
変な格好?変装のつもりか?
取り敢えず別邸を出て、外で待っていたら似合わないカツラを被った代官が現れた。
変にふわふわした金髪のカツラなんて、似合わな過ぎる。
すれ違う人のかなりの割合が代官を凝視していた。
変装したせいで周りの人間から注意を引いていたら、意味ないだろうに。
だが、あれだったら俺が代官に気が付いたのも、それを話題に挙げるのも不思議ではないな。都合がいい。
「清早。蒼流を通してシャルロに、カツラを被って物凄く怪しげな代官を見かけたんだけど、何か起きたのか?って俺から伝言があったと伝えてくれるか?」
「何か起きたって・・・そりゃあ、お前たちがちくったから慌てて領主から逃げているところなんだろ?」
清早が指摘してきた。
「いいんだよ、俺達は暗躍してないことになっているんだから、ここで代官を見張っていたという話はしたくないんだ。だが、あれだけ怪しい格好をしていたら俺が不思議に思っても可笑しくない。
だから変な格好で代官が歩いていたぜ~と俺が噂話でシャルロに連絡したという形にしてほしいんだ」
精霊ってこういう所で頭が固いからなぁ。
ま、幸いにも精霊の声は籠を与えられた人間しか聞こえないからこのわざとらしいやり取りも周りにはばれないだろう。
そういうところが疎いシャルロも、蒼流とのやり取りは声を出さないから領主にばれないし、きっととアレクが領主へさりげなく話を流すよう示唆するだろうし。
代官が籠った別邸をしばらく眺めていたら、清早から返事がきた。
「シャルロが、『へ~怪しげな感じだったんだ?スラフォード伯がちょっと会計処理の不備に関して聞こうとしたら姿を消しちゃったから代官のことを探しているらしいんだよね。場所を教えてあげたら喜びそうだから、教えてくれる?』だとさ」
魔術院で転移門から出てきたら魔術院の知り合いのセレスから声をかけられた。
ちょこちょこ特許関係のことでやり取りをしている相手だったので、俺が今何をしているかも知っていたらしい。
テストの話は俺からはしていないのでアレクあたりから聞いたのだろうが。
「テストはまあまあという所かな?多少改善点はあるものの実用には耐えうるといったところだね。
ちょっとスラフォード領で変なことに出会ってね。それの関連で調べごとをしに戻ってきたんだ」
そのままどこか都合のいい隠れ場所から見張り体制に入ろうとして、振り返った。
セレスはよく魔術院にいる。
ということは転移門を使う人間もよく見ているはずだ。
「そういえば、セレスはスラフォード領の代官を知っている?あそこって最近年に一度だけ魔術師を雇って細かい街回りの仕事をさせていると聞いたんだけど、今回行ったらなんか物凄い無茶を言われてね」
セレスが顔をしかめた。
「ああ、あの七面鳥ね。文句だけはがーがー煩い癖に支払は渋る、最低な男よね」
ぶはっ。
太った顔を真っ赤にして起こっていた男を思い出して、噴出した。
確かに七面鳥だ。
「あいつがこっちにどのくらいの頻度で来ているか分かる?どうも領地で悪いことをしていたみたいなんで、尻尾を捕まえてやりたい」
「尻尾をつまんだらついでに羽も毟り取ってつるっ禿にしてやりなさい。
あいつったら本当に感じが悪いんだから。
半年に一度程度来るけど、そういえばこないだは1か月前程に来たばかりだったのにまた来ていたわね。しかも何の苦情も言わずに出て行ったわ」
ふむ。
ということは比較的最近に来て資金をこちらに隠しているということか。
「どこに泊まっているか、知っていたりしない?」
一応聞いてみたら、驚きの返答がきた。
「あいつ、西区に家を持っているのよ。
2年ほど前に防水の術が切れたって竜の首でも取ったかごとくぎゃーぎゃー騒いでいたから、あの時魔術院にいた人間は誰でも知っていると思うわよ」
ほぉう?
それはそれは。
代官が王都へ逃げてくるまで時間を潰さなければならないかと思ったが、先に作業に取り掛かれるかな?
清早に代官が王都へ現れたらすぐ知らせてくれるよう頼んだ後、セレスにもらった簡単な地図を元に代官の王都の隠れ家へ向うことにした。
代官の別邸はなかなかどうして立派な館だった。
中には成金趣味ながらも高い美術品があちこちに置いてある。
領主にばれたらここに隠れ住むつもりだったのかね?
見つかりさえしなければ、快適な住処なりそうだ。
ベッドもフカフカなキングサイズで羽根布団がかけてあり、俺たちの発明した魔道具もあちこちに置いてあった。
流石に隠し財産であるこの館にあまり人を雇えなかったのか、年取った下男が一人いる以外誰もいない館なので俺たちの魔道具は便利だったのだろう。
「宝石と金貨か。あまり独創性はないな」
書斎にあった本をくりぬいて作った隠し場所にあったのは隠し財産としてはありがちな宝石だった。
机の下にあった隠し金庫の中は金貨。資産価値としては宝石の方が多い。金貨は宝石を換金するまでのつなぎとしておいてあるのかな?
美術品は・・・資産価値は悪くないが嵩張るからな。隠し財産としてよりは、本人の虚栄心と満足のために買ったのだろう。まあ、これらも売れば横領された資金の一部の返済にはなるだろうが。
「王都にあいつ、来たぜ」
隠し財産の一覧表を作っていたら、清早の声がした。
「こちらに向かっているか?」
「なんか変な格好をするための道具を使っているけど、こっちに向かっているね」
??
変な格好?変装のつもりか?
取り敢えず別邸を出て、外で待っていたら似合わないカツラを被った代官が現れた。
変にふわふわした金髪のカツラなんて、似合わな過ぎる。
すれ違う人のかなりの割合が代官を凝視していた。
変装したせいで周りの人間から注意を引いていたら、意味ないだろうに。
だが、あれだったら俺が代官に気が付いたのも、それを話題に挙げるのも不思議ではないな。都合がいい。
「清早。蒼流を通してシャルロに、カツラを被って物凄く怪しげな代官を見かけたんだけど、何か起きたのか?って俺から伝言があったと伝えてくれるか?」
「何か起きたって・・・そりゃあ、お前たちがちくったから慌てて領主から逃げているところなんだろ?」
清早が指摘してきた。
「いいんだよ、俺達は暗躍してないことになっているんだから、ここで代官を見張っていたという話はしたくないんだ。だが、あれだけ怪しい格好をしていたら俺が不思議に思っても可笑しくない。
だから変な格好で代官が歩いていたぜ~と俺が噂話でシャルロに連絡したという形にしてほしいんだ」
精霊ってこういう所で頭が固いからなぁ。
ま、幸いにも精霊の声は籠を与えられた人間しか聞こえないからこのわざとらしいやり取りも周りにはばれないだろう。
そういうところが疎いシャルロも、蒼流とのやり取りは声を出さないから領主にばれないし、きっととアレクが領主へさりげなく話を流すよう示唆するだろうし。
代官が籠った別邸をしばらく眺めていたら、清早から返事がきた。
「シャルロが、『へ~怪しげな感じだったんだ?スラフォード伯がちょっと会計処理の不備に関して聞こうとしたら姿を消しちゃったから代官のことを探しているらしいんだよね。場所を教えてあげたら喜びそうだから、教えてくれる?』だとさ」
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