シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

243 星暦553年 紺の月 27日 幽霊屋敷?(6)

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>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット

「魔道具は、魔術院の査定価額で買い取って好きに登録すれば良い。
売りに出した魔道具に特許権を登録できる回路があるかどうかを調べるのは売る側の責任で、それを買う側が事前に相手に知らせる必要はない。
屋敷の魔術回路そのものは、持ち主以外は登録できん。
しかも、魔道具と魔術を組み合わせて初めて効果を生じさせている物の場合、登録自体ができんぞ」

魔術回路の特許登録は、魔術師が開発した回路を一般の職人がその設計図に基づいて再現して魔道具を作成して売り、それに対して発明者の魔術師へ手数料を払うという魔術師の権利を守る制度だ。

だから魔術院はその登録及び保護にとても熱心だ。

だが、魔術というのはどうせ魔術師しか使えない。
だから登録して権利を守るとしても、守られる側も侵害する側も魔術師であるため、最初から魔術院は関与しないのだ。

魔術は見て盗むか、自分で開発するか、報酬を払って教えて貰う。
だからこそ、利便性の高い魔術はそれなりに偽装されて真似しにくいように設計されているし、魔術学院で教える以上のレベルの高い術を習おうとする場合は師にそれなりの費用を払う。

昔は魔術とは師が弟子に教える師弟制度で伝える学問だった。だが、必ずしも優れた魔術師が優れた教師であるとは限らない。現実では優れた魔術師というのは性格的に人に教えるのに向かぬ者も多く、魔術を使うことに対する需要も多くなるために、教えを請う人間が多いものの上手く知識の伝達が出来ないという結果になることが多々あったと聞く。

しかも、師であった魔術師も利便性が高く報酬を得やすい術は中々教えようとしなかったために、不測の事態が起きた場合などに術が失伝することもあった。

年月と共に先細りする魔術師の人口と技術に憂えて魔術学院が設立されたのだが、その際には魔術院内部からかなりの反対があったらしい。

師弟制度であれば、弟子を取った際に纏まった礼金が貰える上に、幾らでも酷使できる便利な雑用係が食費だけで使えたのだ。当時の魔術師が反対したのも理解は出来る。しかも当時の魔術師は自分達が魔術師になるために多額の礼金を払い、雑用を散々こなしてきたのだ。若い世代が『楽をして』魔術師になることに憤慨を感じた人間も多かったのだろう。

流石にその部分は声に出す魔術師は少なかったようだったので、取り敢えず魔術院が割安で雑用女中を派遣した。すると、それなりに有能な魔術師であれば弟子を教えるよりもその時間を魔術を掛けるなり魔道具を作るなりして働く方が総収入が増えることに魔術師達が気付き、苦情が減ったらしい。

その名残なのか、今でも魔術院では雑用女中を斡旋してくれる。今では特に割引は無いが、派遣された女中の信用に関しては魔術院が保証してくれるので利用している者も多い。

それはともかく。
魔術は登録できない。
つまり、魔術と併用しないと使えない魔道具の魔術回路も特許登録できないのだ。

「ああ、そうでしたっけ。
だとしたら、あの幽霊騒動の魔道具は魔石にしか実質価値はないのですね。
考えてみたら、俺もあれを活用しようと思ったら術を魔道具にするために魔術回路に落とし込まなきゃならないのか・・・」
考え込みながらウィルがお茶のお代わりを注ぐ。

「魔術というのは術士の意思で魔力を自分の思う形に発現させる。だから術が多少いい加減でも意図通りに起動する。
魔道具は魔術回路を使って魔石からの魔力を発現させるから、術士の意図という物は存在しない。だから術を魔術回路に落とし込んでちゃんと発動させるのは大変だぞ?」

「あちゃ~」
ウィルが頭を抱えた。
「そういえば、最初にランプを作った頃に術から回路を作ろうとして全然駄目でしたわ・・・。面白い術なんだけど、解体するに任せるしかありませんねぇ」

「どんな術なんだ?」

「メルタル師は元々、映像記録の魔道具を開発していたらしくてその試作品に奥様の映像を沢山記録していたみたいなんです。
で、奥様が亡くなれた後にそれを見るのに一捻り付け加えて、人の余剰魔力を使って書斎に設置してある記録用魔道具から映像を引き出して投影する仕組みを家の中のあちこちに作ったんですよ。
当然ながら、そんなのが四六時中起動していたら客人が混乱するでしょうからね。
屋敷の中に一人しか人が居ない状況でのみ起動するよう条件付けされた、中々凄い術なんですが・・・考えてみたら起動させている主な部分は魔道具では無く術だから登録できないし、そのうち魔力が薄れたら術そのものも消えてしまうのでしょうね」

ふむ。
余剰魔力を実用的に使える術というのは確かに中々凄い。
「余剰魔力を活用しようと研究する魔術師は数多くいるが、それを実用レベルまで完成できた術は少ない。
魔術院にそう言った術があることは伝えておいて、何らかの形で記録でもした方が良いのでは無いかとあっちの研究科にでも伝えておいたらいいかもしれぬな」


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