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卒業後
607 星暦555年 橙の月 9日 忠誠心?(8)
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「お久しぶり!
今年の収穫は中々良かったからもうすぐ収穫祭をする予定だが、一緒に参加するか?」
パストン島での生活があっているのか、開拓責任者(実質もう代官みたいなもんだが)として残ったジャレットは中々血色のいい健康そうな顔をしていた。
ちょっと太り気味だったのも徐々に解消してきたみたいだし、仕事で色々歩き回ることが増えて丁度良かったのかな?
「久しぶり~。
最近はどう?」
シャルロも呑気に挨拶しながら土産の氷菓子を手渡す。
ジャレットの奥さんは料理が上手いから焼き菓子系もそれなりに自分で美味しく作れるので、今回はちょっと奮発して氷菓子を買って来たのだ。
冷凍機能付きの箱に入れられたお土産を興味深げに開けてみたジャレットが感嘆の声を上げた。
「おお~!
これが王太子の結婚式で流行ったという氷菓子か!?」
元々氷菓子は存在していたが、やはりちょっと割高だったので富裕層以外にはあまり馴染みが無かった。
だが今年は普段よりも暑い夏だった上に民が王室の結婚式で盛り上がっていた事で、割高でも結婚記念を謳った氷菓子が大量に売れたことで全般的に氷菓子の単価も少し下がって一般市民にも手が出やすくなったのだ。
今年の夏は王太子の結婚式に備えた警戒網のせいで風の流れが少なくなり、一応ある程度は協力的な風精霊が風は吹かせてはくれていたものの、通りすがり系の精霊がいなくなったせいでやはりかなり風の少ない、くそ暑い夏になった。
俺たちはそれなりに快適に温度管理した工房でかなりの部分の時間を過ごしたからそれ程被害は及ばなかったが、アレク曰く冷却用の魔具が例年の倍近く売れたらしい。
警戒網がズタズタにされて原因が精霊だと分かった段階で、冷却関係の商品を多めに仕入れるようアレクに言われていたシェフィート商会は母親の笑いが止まらなかったと言っていた。
「最近は案外とお手頃な値段で本体も冷却用の箱も手に入るようになったから、試しにお土産に持って来てみた。
とは言え、あと2日以内ぐらいには食べた方が美味しいと思うから、今晩にでも家で食べてくれ」
アレクがにこやかに答える。
凍っているので一応溶けさえしなければいつまででも食べられるのだが、やはり時間経過とともに香りが抜ける感じがして美味しさが劣化していくので、さっさと食べるのが正解だ。
勿体ないとずっと保管用の冷却箱に入れていたら魔石を消費するし、うっかり魔石の交換を忘れたら溶けて台無しになる。
「ちなみに、ちょっと聞きたいことがあるんで時間を貰えるか?」
明日の午後にはパストン島を出て東大陸の方へ行く予定なので、あまり時間に余裕はない。
その予定をジャレットにも通信機で伝えてあったので、ジャレットはすぐに執務室の扉を閉めて俺たちに座るように言った。
「何か問題でも?」
「王都の方で、忠誠心を植え付ける機能があるらしい東大陸産の魔具を使って情報収集をされたり有利な条件で契約を結ばせられた案件が幾つか発覚した。
こちらでも何か違和感のある行動をしている人間に気が付いたことは無いか?
もしくはそういう魔具について何か聞いているなら教えて欲しい」
ジャレットに尋ねる。
王都を出る直前の夕方に聞いたところだと、高位神官総出で軍部や行政部を確認し始めたら早速数人の汚染された人間が見つかったという話だった。
まだチェックを始めたばかりなのでこれから全貌がはっきりするのだろうが、それなりの人数になっていても不思議は無い。
今日の午後と明日の朝に行政館やシェフィート商会の支店を回って精神汚染されている人間がいないかを心眼《サイト》で確認して回る予定だが、ジャレットが何か既に気が付いていたり耳にしていたのだったらそれを先に聞いておきたい。
「東大陸では新規に人を雇う際に『他者の下にはいない』という事を誓う魔具を使うのが慣行だと聞いて、最近はそれを使うようにしているんだが・・・それと関係あるのかな?」
立ち上がって壁際の棚の方に向かいながらジャレットが答えた。
何それ。
もしかして、禁忌の癖に誰も彼もがこの精神汚染の魔具を使いまくっているせいで、基本的な慣行としてそれの防止策みたいのが行われているのか??
とは言え、雇い入れる時だけでは片手間落ちだが。
「雇う時だけでは後から精神汚染されたらダメだろう。
そこら辺はどうなるんだ?」
アレクも同じ疑問を抱いたのか、ジャレットに尋ねる。
「毎回ボーナスを払う際に同じことをやるらしい。
流石に以前からいるアファル王国の人間にそれをやらせるのはどうかと思うし、かといって出身地域の違いで信用度が違うような扱いをするのも問題かと思ってやっていないが」
いや、それは全員にやるべきだろ!!!
変な遠慮なんぞして大損こいたら駄目だろうが!
今年の収穫は中々良かったからもうすぐ収穫祭をする予定だが、一緒に参加するか?」
パストン島での生活があっているのか、開拓責任者(実質もう代官みたいなもんだが)として残ったジャレットは中々血色のいい健康そうな顔をしていた。
ちょっと太り気味だったのも徐々に解消してきたみたいだし、仕事で色々歩き回ることが増えて丁度良かったのかな?
「久しぶり~。
最近はどう?」
シャルロも呑気に挨拶しながら土産の氷菓子を手渡す。
ジャレットの奥さんは料理が上手いから焼き菓子系もそれなりに自分で美味しく作れるので、今回はちょっと奮発して氷菓子を買って来たのだ。
冷凍機能付きの箱に入れられたお土産を興味深げに開けてみたジャレットが感嘆の声を上げた。
「おお~!
これが王太子の結婚式で流行ったという氷菓子か!?」
元々氷菓子は存在していたが、やはりちょっと割高だったので富裕層以外にはあまり馴染みが無かった。
だが今年は普段よりも暑い夏だった上に民が王室の結婚式で盛り上がっていた事で、割高でも結婚記念を謳った氷菓子が大量に売れたことで全般的に氷菓子の単価も少し下がって一般市民にも手が出やすくなったのだ。
今年の夏は王太子の結婚式に備えた警戒網のせいで風の流れが少なくなり、一応ある程度は協力的な風精霊が風は吹かせてはくれていたものの、通りすがり系の精霊がいなくなったせいでやはりかなり風の少ない、くそ暑い夏になった。
俺たちはそれなりに快適に温度管理した工房でかなりの部分の時間を過ごしたからそれ程被害は及ばなかったが、アレク曰く冷却用の魔具が例年の倍近く売れたらしい。
警戒網がズタズタにされて原因が精霊だと分かった段階で、冷却関係の商品を多めに仕入れるようアレクに言われていたシェフィート商会は母親の笑いが止まらなかったと言っていた。
「最近は案外とお手頃な値段で本体も冷却用の箱も手に入るようになったから、試しにお土産に持って来てみた。
とは言え、あと2日以内ぐらいには食べた方が美味しいと思うから、今晩にでも家で食べてくれ」
アレクがにこやかに答える。
凍っているので一応溶けさえしなければいつまででも食べられるのだが、やはり時間経過とともに香りが抜ける感じがして美味しさが劣化していくので、さっさと食べるのが正解だ。
勿体ないとずっと保管用の冷却箱に入れていたら魔石を消費するし、うっかり魔石の交換を忘れたら溶けて台無しになる。
「ちなみに、ちょっと聞きたいことがあるんで時間を貰えるか?」
明日の午後にはパストン島を出て東大陸の方へ行く予定なので、あまり時間に余裕はない。
その予定をジャレットにも通信機で伝えてあったので、ジャレットはすぐに執務室の扉を閉めて俺たちに座るように言った。
「何か問題でも?」
「王都の方で、忠誠心を植え付ける機能があるらしい東大陸産の魔具を使って情報収集をされたり有利な条件で契約を結ばせられた案件が幾つか発覚した。
こちらでも何か違和感のある行動をしている人間に気が付いたことは無いか?
もしくはそういう魔具について何か聞いているなら教えて欲しい」
ジャレットに尋ねる。
王都を出る直前の夕方に聞いたところだと、高位神官総出で軍部や行政部を確認し始めたら早速数人の汚染された人間が見つかったという話だった。
まだチェックを始めたばかりなのでこれから全貌がはっきりするのだろうが、それなりの人数になっていても不思議は無い。
今日の午後と明日の朝に行政館やシェフィート商会の支店を回って精神汚染されている人間がいないかを心眼《サイト》で確認して回る予定だが、ジャレットが何か既に気が付いていたり耳にしていたのだったらそれを先に聞いておきたい。
「東大陸では新規に人を雇う際に『他者の下にはいない』という事を誓う魔具を使うのが慣行だと聞いて、最近はそれを使うようにしているんだが・・・それと関係あるのかな?」
立ち上がって壁際の棚の方に向かいながらジャレットが答えた。
何それ。
もしかして、禁忌の癖に誰も彼もがこの精神汚染の魔具を使いまくっているせいで、基本的な慣行としてそれの防止策みたいのが行われているのか??
とは言え、雇い入れる時だけでは片手間落ちだが。
「雇う時だけでは後から精神汚染されたらダメだろう。
そこら辺はどうなるんだ?」
アレクも同じ疑問を抱いたのか、ジャレットに尋ねる。
「毎回ボーナスを払う際に同じことをやるらしい。
流石に以前からいるアファル王国の人間にそれをやらせるのはどうかと思うし、かといって出身地域の違いで信用度が違うような扱いをするのも問題かと思ってやっていないが」
いや、それは全員にやるべきだろ!!!
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