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卒業後
629 星暦556年 赤の月 5日 とばっちり(16)
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>>>サイド とある小国にある商会の会長
「アルダから連絡がありません」
「ですが、ベルファからの連絡は『問題無し、もうそろそろ役に立つ情報が手に入りそう』とのことです」
「シルダからは盆地の通信機の故障率が急激に上がったようだとのことです」
部下たちからの報告を聞き、思わず頭を抱える。
「バレただろ、これ。
ベルファは裏切ったか、泳がされているかだ。どの程度相手がこちらのことを知っているか判断する為にも連絡は取り続けるが、絶対にどこかで会う約束やこちらを特定できるような情報は漏らすな」
ペルファウォードを担当していたアルダは捕まったのはほぼ間違いない。
現地入りするのは基本的にプロとは言え商会に直接関係のない人間なので、情報を漏らさない為に自害なぞする義理もない。うっかりアファル王国側が逮捕時に殺していない限り、アルダの知っていた情報は全て向こうに伝わったと考えるべきだ。
アルダから情報が漏れて情報を取りまとめる役割をしていたベルファも見つかり・・・命を助ける代わりに協力することになったか、情報を得るために泳がされているか。
シルダはベルファーナが盆地でよそ者が目立つために、通信用魔具を設置しまくった後は山向こうの街に潜伏して只管盗聴していたので本人は見つかっていないようだ。
「え、アファル王国って誓約魔術は使いすぎですけど、呪具に関して無頓着という話だったじゃないですか。
どこで漏れたんですか??」
信じたくないのか、部下が不満そうに聞き返してくる。
数十年前に東大陸で入手できるようになった安価な呪具を使った情報収集や世論操作は我々商会の得意とする特殊業務だ。
暫くはザルガ共和国内での内部闘争でがっつり稼がせてもらったが、呪具の情報が広まってしまったせいであの国での商売が危なくなったので今度はアファル王国あたりを狙ったのだが・・・。
3年弱か。
バレるのが早かった。
「そう言えば・・・王都の方で何か変な発表がありましたね」
部下の一人が思い出したように声をあげた。
「どんな?」
下手に国の中枢部近くで『仕事』をすると発覚して国その物から追い出される可能性があるので、王都での『仕事』は禁じている。
一応国としての大きな動きを知っておくために定期的に何か新しい事があったら知らせるようあちらの人間に金を払っているのだが・・・
「確か・・・東大陸から精神汚染を引き起こす呪具が流れ込んでいるので、市民は定期的に掲示板か各ギルド、もしくは神殿に行くべしという布告でしたね。
そこで解呪してもらえるとか」
「それだ!!
それって我々の業務に直接影響するじゃないか!!!
もっと早く報告しろ!!!!!!」
思わず頭を抱える。
何分、情報を集めて分析し、売り払うのが我々の商売だ。
アファル王国だけでなく他の国でも依頼を請けて仕事をしている。各地の担当者が集めた情報を利用できそうな相手へ個別に売り払う為にも、膨大な量になる集まった情報のある程度の振り分けと重要度の評価を部下に任せているのだが・・・。
コイツがこれほどバカだとは。
次の賞与は大幅減額だ!!!!!
「ですが、まだ王都だけの話ですよ?
解呪用の魔具の製造に時間が掛かるから今年中に順次各都市に広めていくという話だったんで、我々の標的《ターゲット》はまだ大丈夫だと思って・・・」
怒鳴られた部下がぼそぼそと言い訳を呟く。
口と顔が良いので姪っ子が気に入っている為、見極めようと本部で使っていたが・・・バカな血が一族に入っては困る。
さっさと遠方へ飛ばそう。
「確かにペルファウォードもベルファーナも比較的小さな街だが、国にとっての税収ベースで見た重要性は大きい場所だろうが!!!
第一、呪具の存在を知られたら我々の活動が一気に危険になるだろう!?」
重要度を鑑みて国が対処すると考えたら不思議は無い。
そして使える人材というのはうっかり不注意から対象国で捕縛されるには惜しい資源なのだ。
危険になってきたら欲を張らずにさっさと次の国へ移るか、新しい手法を見つけるのが我が商会のやり方なのだ。
それを分かってないバカだとは思ってもいなかったのは失敗だった。
それはさておき。
単に呪具でこちらの提案に耳を貸しやすくなった人間が一斉に正気に返ったとしたところで、アルダが捕まる理由にはならない。
ベルファウォードの領主は被害妄想と言っても良いぐらいに用心深かったから、アルダだって十分に注意を払っていた筈なのだ。
それがこちらに連絡を寄越せない状態になり、ペルファーナの通信用魔具まで見つかっているとなると・・・我々の活動がバレて、アファル王国が大々的な防諜活動を始めたと考えるべきだろう。
「アファル王国に入れている呪具と通信用魔具担当の人間を全員引き抜け。
取り敢えず、国が一通り調べ終わるまでは大人しくして、商売も停止だ!」
元々、成功報酬が大きい契約とは言え、失敗した場合は単に足が出るだけで罰金の様な物はない。
とは言え。
それなりに金をつぎ込んで、あと少しの所だったのに・・・・。
年初から、幸先が悪すぎる!!!
【後書き】
結局犯人は産業スパイを含めた情報収集業務委託を専門で受ける中堅どころの商会でした。
国は南の方の小さな島国で、まだ名前も出てきていません。
「アルダから連絡がありません」
「ですが、ベルファからの連絡は『問題無し、もうそろそろ役に立つ情報が手に入りそう』とのことです」
「シルダからは盆地の通信機の故障率が急激に上がったようだとのことです」
部下たちからの報告を聞き、思わず頭を抱える。
「バレただろ、これ。
ベルファは裏切ったか、泳がされているかだ。どの程度相手がこちらのことを知っているか判断する為にも連絡は取り続けるが、絶対にどこかで会う約束やこちらを特定できるような情報は漏らすな」
ペルファウォードを担当していたアルダは捕まったのはほぼ間違いない。
現地入りするのは基本的にプロとは言え商会に直接関係のない人間なので、情報を漏らさない為に自害なぞする義理もない。うっかりアファル王国側が逮捕時に殺していない限り、アルダの知っていた情報は全て向こうに伝わったと考えるべきだ。
アルダから情報が漏れて情報を取りまとめる役割をしていたベルファも見つかり・・・命を助ける代わりに協力することになったか、情報を得るために泳がされているか。
シルダはベルファーナが盆地でよそ者が目立つために、通信用魔具を設置しまくった後は山向こうの街に潜伏して只管盗聴していたので本人は見つかっていないようだ。
「え、アファル王国って誓約魔術は使いすぎですけど、呪具に関して無頓着という話だったじゃないですか。
どこで漏れたんですか??」
信じたくないのか、部下が不満そうに聞き返してくる。
数十年前に東大陸で入手できるようになった安価な呪具を使った情報収集や世論操作は我々商会の得意とする特殊業務だ。
暫くはザルガ共和国内での内部闘争でがっつり稼がせてもらったが、呪具の情報が広まってしまったせいであの国での商売が危なくなったので今度はアファル王国あたりを狙ったのだが・・・。
3年弱か。
バレるのが早かった。
「そう言えば・・・王都の方で何か変な発表がありましたね」
部下の一人が思い出したように声をあげた。
「どんな?」
下手に国の中枢部近くで『仕事』をすると発覚して国その物から追い出される可能性があるので、王都での『仕事』は禁じている。
一応国としての大きな動きを知っておくために定期的に何か新しい事があったら知らせるようあちらの人間に金を払っているのだが・・・
「確か・・・東大陸から精神汚染を引き起こす呪具が流れ込んでいるので、市民は定期的に掲示板か各ギルド、もしくは神殿に行くべしという布告でしたね。
そこで解呪してもらえるとか」
「それだ!!
それって我々の業務に直接影響するじゃないか!!!
もっと早く報告しろ!!!!!!」
思わず頭を抱える。
何分、情報を集めて分析し、売り払うのが我々の商売だ。
アファル王国だけでなく他の国でも依頼を請けて仕事をしている。各地の担当者が集めた情報を利用できそうな相手へ個別に売り払う為にも、膨大な量になる集まった情報のある程度の振り分けと重要度の評価を部下に任せているのだが・・・。
コイツがこれほどバカだとは。
次の賞与は大幅減額だ!!!!!
「ですが、まだ王都だけの話ですよ?
解呪用の魔具の製造に時間が掛かるから今年中に順次各都市に広めていくという話だったんで、我々の標的《ターゲット》はまだ大丈夫だと思って・・・」
怒鳴られた部下がぼそぼそと言い訳を呟く。
口と顔が良いので姪っ子が気に入っている為、見極めようと本部で使っていたが・・・バカな血が一族に入っては困る。
さっさと遠方へ飛ばそう。
「確かにペルファウォードもベルファーナも比較的小さな街だが、国にとっての税収ベースで見た重要性は大きい場所だろうが!!!
第一、呪具の存在を知られたら我々の活動が一気に危険になるだろう!?」
重要度を鑑みて国が対処すると考えたら不思議は無い。
そして使える人材というのはうっかり不注意から対象国で捕縛されるには惜しい資源なのだ。
危険になってきたら欲を張らずにさっさと次の国へ移るか、新しい手法を見つけるのが我が商会のやり方なのだ。
それを分かってないバカだとは思ってもいなかったのは失敗だった。
それはさておき。
単に呪具でこちらの提案に耳を貸しやすくなった人間が一斉に正気に返ったとしたところで、アルダが捕まる理由にはならない。
ベルファウォードの領主は被害妄想と言っても良いぐらいに用心深かったから、アルダだって十分に注意を払っていた筈なのだ。
それがこちらに連絡を寄越せない状態になり、ペルファーナの通信用魔具まで見つかっているとなると・・・我々の活動がバレて、アファル王国が大々的な防諜活動を始めたと考えるべきだろう。
「アファル王国に入れている呪具と通信用魔具担当の人間を全員引き抜け。
取り敢えず、国が一通り調べ終わるまでは大人しくして、商売も停止だ!」
元々、成功報酬が大きい契約とは言え、失敗した場合は単に足が出るだけで罰金の様な物はない。
とは言え。
それなりに金をつぎ込んで、あと少しの所だったのに・・・・。
年初から、幸先が悪すぎる!!!
【後書き】
結局犯人は産業スパイを含めた情報収集業務委託を専門で受ける中堅どころの商会でした。
国は南の方の小さな島国で、まだ名前も出てきていません。
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