263 / 1,309
卒業後
262 星暦553年 翠の月 2日 祭りの後(8)
しおりを挟む
「サリエル商会に潰されそうになっていた中小商会を助けたことが何回かあったせいか、私が魔術学院に入ることが決まった際にシェフィート商会はかなりの嫌がらせを受けたんだ」
ケーキをお皿に取り分けながらアレクが説明を始めた。
「魔術師というのは一般の人間には分からない技術がある。
ただ、普通の魔術師というのは商会とはまた違った世界で生きている。だからその技術を悪用するというのはどこかの商会に雇われてということになるから、それはまあある意味ごろつきを雇って嫌がらせをするのと同じで、気を付けておいて魔術院にもコネを作っておけば対処も難しくない。
だが、魔術師が商売をする、もしくは魔術師の家族が商会を運営するとなると内部の話になるからね。
どんな嫌がらせや違法な術をその魔術師が行っているか、発見しにくいし周りの商会にとって不利なことが起きやすいという考え方が以前からあったんだ」
ほおう。
まあ、普通の魔術師が商売をするといってもせいぜい魔道具を売る程度になるだろうから一般の商会との競合は少なそうだが、確かにアレクが自分の家族の商会に合法・違法どちらの術でもやってあげ始めたら周りの商会にとってはたまったものではないだろうな。
「だから魔術師は家族であろうと術の行使を無料で行ってはいけないことになっている。一応、魔術院には全ての術の最低料金っていうのが設定されていて、それ以下で術を施行したことが分かると魔術師とその便益を受けた商会の両方にそれなりの罰金が科されることになっているんだ。
流石に魔術師が違法行為をライバル商会に行った場合の発見は普通の違法行為と同じようにしかできないが、少なくとも術の施行に関しては、子供が魔術学院に入ると決まった時点で監査を行って商会の状態を確認し、その後は毎年監査が行われて説明のつかない収支の流れがないか、支払われていない術の施行がないかの確認が行われる」
へぇぇ。
意外と面倒だ話なんだな。
アレクは家族の役に立ちたいと魔術師になったと以前言っていたと思うが、そこまで色々あるとかえって面倒くさそう。
まあ、それでも相談とかだったら無料だし、以前の店舗根こそぎ窃盗事件のような場合の対応は術の施行とはまた違う扱いだし、やはり家族に魔術師がいると便利っちゃあ便利か。
「とは言っても魔術師になってもそれを周りの商会を潰さない程度に抑えるという暗黙の了解も商会の業界ではあるから、監査といってもよほど疑わしい位に羽振りがよくない限り形式的なものなんだけどね。
だが、私が魔術院に入ると決まった際に、強引にサリエル商会はこの監査の担当になって、監査の名目でありとあらゆる事業情報まで盗んでいった上に未だに毎年の監査でも色々情報を取っていこうとしてくれるんだ」
嫌われてるねぇ、シェフィート商会。
「だから、今回はシェフィート商会が監査の担当になるよう、母に提案してくるよ」
楽し気に笑いながらアレクが締めくくった。
ははは。
すげえな。
・・・ついでに、サリエル商会の違法の部分も潰した方が良いんじゃね?
そうしたらあの小娘が魔術師になってもそれほど心配しなくていいから。
魔術師っていうのは悪意があればそれなりに人の意を捻じ曲げる術もあるからな。
サリエル商会と魔術師の組み合わせっていうのは怖すぎる。
雇われ魔術師なら裏切る可能性があるから、あまりにも違法な術は頼む際のリスクが生じる。
だが、家族となれば捕まるまではやり放題。
従業員とか取引先にどんな術を施すか、想像したくないぜ。
「だけど、アレクの家族はまだしも、そんな後ろ暗い商会なのになんで娘さんが魔術師になれるのをそんなに喜んでたんだろ?
監査を受けたら困るんじゃないの?」
シャルロがケーキを食べながら首を傾げた。
「通常の場合の監査というのは形式的な場合が多いからね。
担当官を買収すればいいと思ったんだろう。
ウィルからシェフィート商会へ話が流れると想像もしてないのだろうな」
なるほど。
俺のことを知らないのか。
まあ、そうだよな。
幽霊《ゴースト》のことは知っているかも知れないが、幽霊《ゴースト》が魔術師になったという話は長とその周辺の人間以外は知らない。
あの小娘がアルヌへの説明を聞いていたのだったら、孤児出身の使いやすそうな魔術師が娘の魔力を見いだしたということしか知らず、ついでに俺も取り込めたら娘が一人前の魔術師になるのを待たないでも済むと思ったのかもしれない。
「だけどさ、シェフィート商会が監査の担当になると立候補した瞬間に、娘さんの魔力を封印するって言ってくるんじゃない?
何かそれはそれで、その女の子が可哀そうな気がするけど」
シャルロがちょっと眉をひそめながら声をあげた。
「魔力を封じたくないならば、家族から独立して魔術師として働いていくのは可能かもしれないな。
親から勘当されても奨学金を貰えば大丈夫だし。
しかも、笑えることに『勘当』しようと親族の商会が監査を受けなければならない義務は変わらない」
アレクが肩を竦めた。
おいおい。
それってあの小娘が魔力の封印を拒否したら親に殺されかねないということか?
それはそれで後味悪いな。
ケーキをお皿に取り分けながらアレクが説明を始めた。
「魔術師というのは一般の人間には分からない技術がある。
ただ、普通の魔術師というのは商会とはまた違った世界で生きている。だからその技術を悪用するというのはどこかの商会に雇われてということになるから、それはまあある意味ごろつきを雇って嫌がらせをするのと同じで、気を付けておいて魔術院にもコネを作っておけば対処も難しくない。
だが、魔術師が商売をする、もしくは魔術師の家族が商会を運営するとなると内部の話になるからね。
どんな嫌がらせや違法な術をその魔術師が行っているか、発見しにくいし周りの商会にとって不利なことが起きやすいという考え方が以前からあったんだ」
ほおう。
まあ、普通の魔術師が商売をするといってもせいぜい魔道具を売る程度になるだろうから一般の商会との競合は少なそうだが、確かにアレクが自分の家族の商会に合法・違法どちらの術でもやってあげ始めたら周りの商会にとってはたまったものではないだろうな。
「だから魔術師は家族であろうと術の行使を無料で行ってはいけないことになっている。一応、魔術院には全ての術の最低料金っていうのが設定されていて、それ以下で術を施行したことが分かると魔術師とその便益を受けた商会の両方にそれなりの罰金が科されることになっているんだ。
流石に魔術師が違法行為をライバル商会に行った場合の発見は普通の違法行為と同じようにしかできないが、少なくとも術の施行に関しては、子供が魔術学院に入ると決まった時点で監査を行って商会の状態を確認し、その後は毎年監査が行われて説明のつかない収支の流れがないか、支払われていない術の施行がないかの確認が行われる」
へぇぇ。
意外と面倒だ話なんだな。
アレクは家族の役に立ちたいと魔術師になったと以前言っていたと思うが、そこまで色々あるとかえって面倒くさそう。
まあ、それでも相談とかだったら無料だし、以前の店舗根こそぎ窃盗事件のような場合の対応は術の施行とはまた違う扱いだし、やはり家族に魔術師がいると便利っちゃあ便利か。
「とは言っても魔術師になってもそれを周りの商会を潰さない程度に抑えるという暗黙の了解も商会の業界ではあるから、監査といってもよほど疑わしい位に羽振りがよくない限り形式的なものなんだけどね。
だが、私が魔術院に入ると決まった際に、強引にサリエル商会はこの監査の担当になって、監査の名目でありとあらゆる事業情報まで盗んでいった上に未だに毎年の監査でも色々情報を取っていこうとしてくれるんだ」
嫌われてるねぇ、シェフィート商会。
「だから、今回はシェフィート商会が監査の担当になるよう、母に提案してくるよ」
楽し気に笑いながらアレクが締めくくった。
ははは。
すげえな。
・・・ついでに、サリエル商会の違法の部分も潰した方が良いんじゃね?
そうしたらあの小娘が魔術師になってもそれほど心配しなくていいから。
魔術師っていうのは悪意があればそれなりに人の意を捻じ曲げる術もあるからな。
サリエル商会と魔術師の組み合わせっていうのは怖すぎる。
雇われ魔術師なら裏切る可能性があるから、あまりにも違法な術は頼む際のリスクが生じる。
だが、家族となれば捕まるまではやり放題。
従業員とか取引先にどんな術を施すか、想像したくないぜ。
「だけど、アレクの家族はまだしも、そんな後ろ暗い商会なのになんで娘さんが魔術師になれるのをそんなに喜んでたんだろ?
監査を受けたら困るんじゃないの?」
シャルロがケーキを食べながら首を傾げた。
「通常の場合の監査というのは形式的な場合が多いからね。
担当官を買収すればいいと思ったんだろう。
ウィルからシェフィート商会へ話が流れると想像もしてないのだろうな」
なるほど。
俺のことを知らないのか。
まあ、そうだよな。
幽霊《ゴースト》のことは知っているかも知れないが、幽霊《ゴースト》が魔術師になったという話は長とその周辺の人間以外は知らない。
あの小娘がアルヌへの説明を聞いていたのだったら、孤児出身の使いやすそうな魔術師が娘の魔力を見いだしたということしか知らず、ついでに俺も取り込めたら娘が一人前の魔術師になるのを待たないでも済むと思ったのかもしれない。
「だけどさ、シェフィート商会が監査の担当になると立候補した瞬間に、娘さんの魔力を封印するって言ってくるんじゃない?
何かそれはそれで、その女の子が可哀そうな気がするけど」
シャルロがちょっと眉をひそめながら声をあげた。
「魔力を封じたくないならば、家族から独立して魔術師として働いていくのは可能かもしれないな。
親から勘当されても奨学金を貰えば大丈夫だし。
しかも、笑えることに『勘当』しようと親族の商会が監査を受けなければならない義務は変わらない」
アレクが肩を竦めた。
おいおい。
それってあの小娘が魔力の封印を拒否したら親に殺されかねないということか?
それはそれで後味悪いな。
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる