276 / 1,309
卒業後
272 星暦553年 翠の月 19日 記録用魔道具(6)
しおりを挟む
「どうしようか?」
3日間掛けて魔術院で特許の記録を色々調べた俺たちは、妨害用魔道具に使えそうな魔術回路を発見できずに敗北を認めることになった。
「まあ、考えてみたら魔術や魔道具というのは色々必要だから使っているものだからな。それを妨害出来たりしたら場合によっては危険だから、登録してないのは当然なのかも知れない」
アレクがため息をつきながらソファに身を投げ出した。
「かといって探知の方もなぁ。
それこそ、部屋の中とか半径10メタ以内に魔道具があるかを確認する道具なら作れるかも知れないが、結局これって全ての魔力を探知しちゃうから通信機も湯沸かし器も照明具も社印《シール》も、何もかもがひっかかって実用性がないだろう」
俺が心眼《サイト》で視る分には、魔力の流れや回路に見覚えがあるので大抵の屋内においてあるような魔道具に関しては何があるのか、何が起動中なのかははほぼ一目で分かる。
だが。
これを魔道具でやろうとするのは・・・厳しい。
というか、俺たちの技能では不可能だな。
魔力を探知する魔道具はあるし、それを大きな画面に映し出すことも可能だ。が、いくら何でも働いている場所の周りにある魔道具全部の場所を認識して、想定外の物がないかを確認しろと求めるのは無理がある。
残念ながら魔力を探知する魔道具は『照明具は除く』とか『通信機は除く』といった除外項目を設けられるほど賢くはない。
「ある意味、周囲の魔道具と魔術を全部無効化するっていう方が楽だね」
シャルロがクッキーを缶から取り出しながら言った。
「確かに。
授業で理論は習ったね。王宮にも何カ所かそんな場所があるから、ウィルが忍び込んで魔術回路を盗み見してくれば良いし」
アレクが笑いながら合意した。
おいおい。
捕まったらどうしてくれる。
それに無効化の魔道具だって、魔術回路や魔術をかき消して壊してしまうタイプは多いが、壊さずに無効化するのってもっと高度だから模倣も難しいぞ。
湯沸かし器を手に取り、お茶を淹れながらアレクが肩を竦めた。
「探知や妨害は無理と。
ちょっと考え方を変えよう。
結局、セビウス兄さんが嫌がっているのは、書類を見られたり、会話を盗聴されることだ。
だから、これを防ぐ何らかの結界を作る魔道具を作れば良いのではないか?」
確かにな。
防音結界は普通の家にも設置ことがある。
こないだの防寒魔道具に使った結界に少し手を加えれば声の伝播を止める結界は簡単にできるだろう。
「防音結界の中で通信機を使っても特に問題が無いことだけ確認出来れば、それで盗聴の方が大丈夫な訳だね。
一応、部屋での会話とかの為に大きさを何段階かで調節できるようにすると良いかも。
書類を覗き見させない結界は・・・光を反射させる?」
ティーカップをアレクから受け取りながらシャルロが合意した。
「いや、別に反射までさせなくても、少し光を揺らがせる膜を作れば、書類の文字程度なら読めなくなるだろう」
シャルロが渡してくれたティーカップを受け取りながら俺も口を挟む。
「反射させちゃうと、その結界の中に光源が無いと中が暗くなっちまって仕事がしにくくなるぜ。
揺らぐ程度だったら明るさは変わらないから、仕事にも特に差し支えはないだろう。
側から見ている人がいたら目がチカチカしてくるかも知れないが」
「上方だけ常に揺らぐようにして、他の方向は必要があるときだけにしたらどうだ?
天井からの覗き見以外はあまり気にしなくていいだろう?」
アレクが提案した。
「まあ、机の後ろに人が入れるような甲冑でも飾ってない限り、誰かが後ろから覗き見しようとしたら分かるよね」
シャルロがクッキーをかじりながら同意する。
おい。
・・・普通の家や事務所には甲冑なんておいてないから。
「では、そちらの方向で頑張るか。
明日は光を揺らがせるような膜を作るのに利用可能な魔術回路が登録されているか、確認だな。
あ、ウィル。そういえば、兄がサリエル商会の監査に手伝ってくれと言っていたから、明日はシェフィート商会の方へ行ってくれないか?」
おや?パラティアが入学したらやるのかと思っていたが、もう始めるのか。
「了解。朝から行けば良いのか?」
「ああ。よろしくね」
おいおい、アレク。その笑顔、黒いぞ~。
3日間掛けて魔術院で特許の記録を色々調べた俺たちは、妨害用魔道具に使えそうな魔術回路を発見できずに敗北を認めることになった。
「まあ、考えてみたら魔術や魔道具というのは色々必要だから使っているものだからな。それを妨害出来たりしたら場合によっては危険だから、登録してないのは当然なのかも知れない」
アレクがため息をつきながらソファに身を投げ出した。
「かといって探知の方もなぁ。
それこそ、部屋の中とか半径10メタ以内に魔道具があるかを確認する道具なら作れるかも知れないが、結局これって全ての魔力を探知しちゃうから通信機も湯沸かし器も照明具も社印《シール》も、何もかもがひっかかって実用性がないだろう」
俺が心眼《サイト》で視る分には、魔力の流れや回路に見覚えがあるので大抵の屋内においてあるような魔道具に関しては何があるのか、何が起動中なのかははほぼ一目で分かる。
だが。
これを魔道具でやろうとするのは・・・厳しい。
というか、俺たちの技能では不可能だな。
魔力を探知する魔道具はあるし、それを大きな画面に映し出すことも可能だ。が、いくら何でも働いている場所の周りにある魔道具全部の場所を認識して、想定外の物がないかを確認しろと求めるのは無理がある。
残念ながら魔力を探知する魔道具は『照明具は除く』とか『通信機は除く』といった除外項目を設けられるほど賢くはない。
「ある意味、周囲の魔道具と魔術を全部無効化するっていう方が楽だね」
シャルロがクッキーを缶から取り出しながら言った。
「確かに。
授業で理論は習ったね。王宮にも何カ所かそんな場所があるから、ウィルが忍び込んで魔術回路を盗み見してくれば良いし」
アレクが笑いながら合意した。
おいおい。
捕まったらどうしてくれる。
それに無効化の魔道具だって、魔術回路や魔術をかき消して壊してしまうタイプは多いが、壊さずに無効化するのってもっと高度だから模倣も難しいぞ。
湯沸かし器を手に取り、お茶を淹れながらアレクが肩を竦めた。
「探知や妨害は無理と。
ちょっと考え方を変えよう。
結局、セビウス兄さんが嫌がっているのは、書類を見られたり、会話を盗聴されることだ。
だから、これを防ぐ何らかの結界を作る魔道具を作れば良いのではないか?」
確かにな。
防音結界は普通の家にも設置ことがある。
こないだの防寒魔道具に使った結界に少し手を加えれば声の伝播を止める結界は簡単にできるだろう。
「防音結界の中で通信機を使っても特に問題が無いことだけ確認出来れば、それで盗聴の方が大丈夫な訳だね。
一応、部屋での会話とかの為に大きさを何段階かで調節できるようにすると良いかも。
書類を覗き見させない結界は・・・光を反射させる?」
ティーカップをアレクから受け取りながらシャルロが合意した。
「いや、別に反射までさせなくても、少し光を揺らがせる膜を作れば、書類の文字程度なら読めなくなるだろう」
シャルロが渡してくれたティーカップを受け取りながら俺も口を挟む。
「反射させちゃうと、その結界の中に光源が無いと中が暗くなっちまって仕事がしにくくなるぜ。
揺らぐ程度だったら明るさは変わらないから、仕事にも特に差し支えはないだろう。
側から見ている人がいたら目がチカチカしてくるかも知れないが」
「上方だけ常に揺らぐようにして、他の方向は必要があるときだけにしたらどうだ?
天井からの覗き見以外はあまり気にしなくていいだろう?」
アレクが提案した。
「まあ、机の後ろに人が入れるような甲冑でも飾ってない限り、誰かが後ろから覗き見しようとしたら分かるよね」
シャルロがクッキーをかじりながら同意する。
おい。
・・・普通の家や事務所には甲冑なんておいてないから。
「では、そちらの方向で頑張るか。
明日は光を揺らがせるような膜を作るのに利用可能な魔術回路が登録されているか、確認だな。
あ、ウィル。そういえば、兄がサリエル商会の監査に手伝ってくれと言っていたから、明日はシェフィート商会の方へ行ってくれないか?」
おや?パラティアが入学したらやるのかと思っていたが、もう始めるのか。
「了解。朝から行けば良いのか?」
「ああ。よろしくね」
おいおい、アレク。その笑顔、黒いぞ~。
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる