シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
274 / 1,309
卒業後

274 星暦553年 翠の月 20日 お手伝い(2)

しおりを挟む
>>>サイド ラルト・サリエル

サリエル商会の本店は、ごく小さな商品スペースがあるほかは事務所や倉庫からなっている。元々、後ろ暗い事が多かったサリエル商会の事業はそれ程大量に商品を表立って見せるようなタイプではなかったからだ。

セビウス・シェフィートはさっさと奥へ進み、1階にある事務員用のオフィス・スペースをのぞき込むと、部下に資料の確認を命じて出てきた。

まあねぇ。
表向きの帳簿なんぞ調べるのに、セビウス自身が関与する必要は無いだろう。
少なくともこの段階では。

とは言え、貸金庫や隠し財産探しに彼が関与する必要があるのかというのも微妙な点だが。

セビウスは商品スペースにも首を突っ込んでちらっと中を見たものの、通信機を手にそのまま次の部屋へと向かっていた。
さて。
奥の倉庫の下には隠し部屋があるのだが、見つかるだろうか?
勿論見つかったら困る物は既に処分してあるが。

建物の壁を全て叩いて周り床板を全部剥がせば、当然隠し金庫も隠し部屋も全て見つかる。
絶対にあるはずだと主張して数年前の初期監査の際に父はシェフィート商会の本邸と本店を荒らしまくったのだが、普通にあるような防犯用の隠し金庫しか見つからず、単なる嫌がらせとしては復旧の費用が掛った上に本店での事業にも支障を起こさせたとして商業ギルドではかなりの顰蹙を買った。

シェフィート商会が同じレベルまで落ちてくるとは考えにくいが、サリエル商会が隠し金庫や隠し部屋を持たないと考えるのも非現実的だ。

としたら、どうするのだろうか?

セビウスの取り得る手段を考えながらのんびり後を追ったら・・・倉庫の奥にあった本棚が回され、下に隠れていた床板がずらされて隠し部屋へ続く階段が見えていた。

え??
もう扉を見つけたのか????

地下の隠し部屋というのは、そこへの階段がある部分の床の響きが変わってしまって見つかる可能性が高い。

だからその部分の床をたたけないように、上に本棚を置いていたのだが・・・。

本棚を横に回転させてどける仕組みを自分がのんびり数十メタ歩いていた間に見つけたというのか??
・・・もしかして、誰か内通者がいるのだろうか。
だが、あの隠し部屋のことを知る人間は少ない。
しかも今では大した物は置いていないのだから、内通者がいると言うことを分からせてしまうリスクを犯してまでしてこんなに早く暴く必要は無いように思える。

隠し部屋への行き方を知っていて、かつ最近の『掃除』のことを知らぬ人間は誰だろうか?
頭の中で該当する人間をリストアップしながら部屋へ入っていったら、ちょうどセビウスが出てきたところだった。
「こんなに工夫された地下室をワインセラーとして使うなんて、勿体ない気がしますね」

「いえいえ、良いワインというのは従業員に盗まれる可能性が高いので、隠す必要があるのですよ。
地下室だと温度も一定に保てますし」
にこやかに答えたが、セビウスから冷たい一瞥を食らっただけだった。

まあなぁ。
ガルヴァ・サリエルから高級ワインを盗む度胸がある従業員はあまり居ないだろう。
他の商会ならまだしも、数年前までだったらウチでそんなことをしたら、数日後には人知れず海に沈む羽目になる可能性が高かったのだから。

とは言え、言い訳としては悪くはない。
流石にこんな仕組みまである隠し部屋を、普通の掃除道具置き場に使うというのは無理があるし。

通信機を手にセビウスがそのまま隣の部屋へ進む。
何か話しているようだが、こちらに背を向けて声を低めているため、何を言っているのか聞こえない。

内通者と連絡を取り合っているのか?
だが、態々通信機なぞ使って本店を探している最中に説明するよりも、最初から分かっていることを全部教えておけば良いのに。

一体何が起きているのやら。

不思議に思いながら隣の部屋に行ったら、今度は壁に掛けてあったタペストリーをどけて羽目板を外し、隠し金庫を露わにしていた。
「開けて貰えますか?」

◆◆◆◆

そんなこんなで、昼食までに本店の隠し金庫は全て暴かれていた。
中には自分が知らなかった隠し場所もあり、冷や汗を流しながらセビウスが暴くのを見守る羽目になった場面もあったが、幸い出てきたのはちょっと怪しげな手紙だった。

多分脅迫か保険用に保管していたのだろうが、脅迫していいたという証拠はないし、今となってはどういう状況での手紙なのかも分からないからあからさまに胡散臭いものの悪事の証拠ではなかった。

「では、昼食に行ってきますので、11刻ぐらいからまたよろしくお願いしますね」
にこやかに笑いながらセビウスが挨拶をして出て行った。

「・・・親父、他にも俺が知らない隠し場所なんて、無いんだよな?」
セビウスを見送りながら父親に低い声で尋ねる。

一体何が起きているのだろうか。
確かに、襲撃された時用に隠し場所が各部屋に複数あるサリエル商会の本店の構造もちょっと不自然だが、自分ですら知らない隠し場所を午前中だけでああもあっさり暴いて回るなんて、どう考えてもおかしい。

内通者がいたにしたってここまで知る事なんて出来ないだろう。

「・・・無いと思いたい」
深くため息をつきながら父親が答えた。

「有名な盗品をほとぼりが冷めるまで放置しよう、なんて思って隠して忘れたりしていないだろうな?
セビウス・シェフィートの後ろをついて回っていた壮年の男は、盗難関係を主に扱っている審議官だぜ。
古い盗品でも知っている可能性が高そうだ」

深くため息をつきながら親父が側にあったチェストに腰掛けて頭を抱えた。
「アレシアと再婚した頃からそういうヤバい品を扱うのを止めたからなぁ。
もう10年近く前のことなんて、忘れていたとしたら今すぐは思い出せん」

『一応の保険』として保管していて忘れた手紙はいいが、盗品が出てきたらヤバい。
・・・だが、皮肉なことに隠し場所を全て暴いて回っているセビウス・シェフィート以外にその場所が分からないから、自分達には前もって隠せない。
「なんだってああも完全に全ての隠し場所が分かるんだ??」

ため息をつきながらガルヴァが立ち上がった。
「もしかしたら、盗賊《シーフ》ギルドに依頼して、ここと本邸の隠し金庫の一覧表を作成させたのかもしれんな。
そんな依頼が来たと言う話はウチの情報源からは聞いていないから、依頼したとしたら情報漏洩防止用に追加報酬を払っているんだろう」

やっぱり、アレク・シェフィートが魔術学院に入った際の監査での嫌がらせはやり過ぎだったんだよ、親父・・・。

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...