シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
735 / 1,309
卒業後

734 星暦556年 橙の月 12日 確認したら、ヤバかった(12)

しおりを挟む
むっつり黙り込んでいた次男《ゼネファルト》だが、やがてふうっと深く息を吐いて顔を上げた。

「彼女の家族がどこか別の地域で中堅商会としてやり直すだけの伝手と資金を保証してくれ。
俺に関しては・・・適当に何か新しい名前で仕事をくれればそれでいいし、消えろというのなら適当に自分で仕事を見つける」

奥さんとそのうち子供の分まで金を稼ごうと思うなら、ついでに何か資金か仕事かに関して交渉した方が良いぜ~?
確かに有能かも知れないが、伝手もないよそ者が稼ごうと思ったら裏社会の仕事しかないなんて事になりかねない。

飢える思いをせずに最初から裏社会で親の手伝いをしていたせいか、こいつは表の社会でよそ者が仕事を見つけることの難しさを分かっていない気がするが、大丈夫なんかね。
なまじ有能だから、あっさり裏社会に後戻りしそうだが。
ある意味、ちょっと珍しい種類の『お坊ちゃま』だな。

「ふむ。
貴方には男爵家の違法活動部分と事業で関わりを持った全ての犯罪組織を狩り尽くすのを手伝って貰った後は・・・取り敢えずは暫くウチの騎士団で書類作業を手伝いかしら。
軍ってどうしても脳筋が多くて書類作業をおざなりにする人間が多いのよねぇ。見張るついでに仕事もやらせておけば皆ハッピーでしょう」
ファルナが提案した。

それが一番無難そうだな。

「ちゃんと父親が黒幕だっていう証拠はあるのか?」
口頭で命じていただけだったら水掛け論になるぞ?
幾ら組織の人間全てが影の権力者が誰なのか分かっていたとしても、証拠がないならば大抵の人間は証言して大ボスを売って報復を受けるより、そこまで熾烈さが無い次男を売る。

これで父親に対して子供たちが共同戦線を敷いているっていうなら邪魔な旧体質な父親を追い出すために跡継ぎに協力するっていう動きもあるかもだが、長男がお綺麗な『貴族』路線で生きているならまだ次男による下剋上は準備出来ていなかったからこそ好きな女の事も諦める羽目になったのだろう。
そうなると、どう考えても父親よりも息子の方が売った際の危険が少ないと思われるだろう。

実務担当の男だって比較的あっさりこいつを売ったし、『有能』ではあっても『危険』ではないんだろうなぁ。

裏社会では有能さよりも報復の情け容赦無さとか行動の予測不能さの方が、下を裏切らせないのに役立つ。

乗っ取った男爵家で『成金』と散々馬鹿にされた父親に比べて、既に馬鹿にするような人間を金で締め上げて表立っては誰も足蹴に出来ないだけの権力を手に入れた父親の息子として育った此奴の方が生ぬるい環境で育っただけ、『お坊ちゃま』で手ぬるいんだろう。

まあ、その分欲張らずに愛する(多分?)女と平和にさえ暮らせるなら軍なり国の機関なりで大人しく働きそうだから、協力させた後に関してあまり心配しなくて良いか。

「父は夜間に忍び込む人間がいないかを調べるために屋敷の部屋の幾つかに映像を記録する魔具を設置している。
日中もそれなりに記録しているから、その一部の魔石を抜き取ってある」
肩を竦めながら次男《ゼネファルト》が言った。

マジか。
とうとう俺たちの映像記録用の魔具をそう言う意図で使う人間が出てくるようになったかぁ。

携帯できる通信用魔具も盗聴に使われるようになったし、映像用の魔具もそのうち情事とか悪事の相談場面を記録して脅迫に使う人間が出てくるだろうとは思っていたが。

しかも夜中の侵入を確認する為に使われるとなったら、今まで以上に周囲の魔具の有無には注意しないとだな。

基本的に侵入なんてしない筈だけど。
どっかのお偉いさんがアホでまた危険な手紙をなくしたりしなければ。

「あら、斬新な証拠ね。
だけど大丈夫なの?
この屋敷には隠されて無いわよね?
そろそろここに捜査が入った情報が流れるわ。あなたの資産とか隠している情報とか、今頃根こそぎ奪われているんじゃない?」
ファルナが尋ねる。

次男が上手く逃げられればまだしも、人身御供に差し出すなら次男の財産も国に没収される前に父親が毟り取って隠す可能性が高い。

となると次男の個人的な隠れ家にある情報も一緒に持って行かれているかも知れないな。

「まあ、あの手紙が見つかるぐらいだから隠し場所が見つかる可能性もあるが・・・少なくともこれで俺がトップじゃないことは証明できると思うぞ」
次男が内ポケットからケースを取り出し、それを開けて見せた。

肌身離さず持っているとは凄いな。
掏られたらどうするつもりだったんだろ?


【後書き】
どんどんウィル達の発明品でファンタジーだった世の中が現代風監視社会になってる・・・
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...