シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

750 星暦556年 桃の月 20日 年末の予定(8)

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【前書き】
シェイラ視点です

【本文】

>>>サイド シェイラ・オスレイダ

ウィルが確保しておいてくれた宿はちょっとした坂の上にあって、港が見えるものの水夫たちの騒々しい騒ぎからは多少離れた中々良い処だった。

考えてみたらヴァルージャの宿も悪くない場所を選んでいたし、意外とウィルって宿を選ぶのが上手いのかな?
服に関しては基本的に無難なのを選び、食事処に関しては仲間からの情報に頼っているようだけど。

まあ、この宿の情報も誰かから入手したのかも。
それでもちゃんと良い情報を選択しているんだから感謝だよね。

「そう言えばさあ、アファル王国って今までは南回りの航路で香辛料を入手していた訳だろ?
直通するようになってザルガ共和国とかってかなり損したのかな?」
宿の部屋に入って荷物をほどいていたら先に作業が終わった(と言うか荷物が少なかった)ウィルがベッドに腰かけながら聞いてきた。

「う~ん、アファル王国の香辛料の半分ぐらいは自前の船で南回りの航路を使って買い出しに行っていたから、そっちに関しては単に補給する船が減っただけで極端に大きな影響は無かったんじゃない?
水や食料をぼったくったところでたかが知れているから。
ただ、残りの半分はザルガ共和国の商会が東大陸に行って購入してきたのをアファル王国の商家がザルガ共和国まで来て買っていたか、もしくはザルガ共和国の商家がアファル王国まで売りに来ていたかだから、そっちに関してはそれなりに大きかった利益がゼロになったからかなり痛手だったでしょうねぇ」
祖父の時代までは殆どの香辛料はザルガ王国の商家が独占していて、アファル王国の船は補給をさせてもらえないどころか私掠船に狙われて沈められてしまっていたらしい。

祖父の時代に、あの国の主だった商家が変に好戦的な王家に嫌気がさして王族を追い出して共和国化した際のドタバタや交渉に紛れてやっと交易の独占が破られたという話だ。

父も祖父と一緒に南回りの航路を手探りで進んで東大陸へ交易に行ったものだと幼いころに聞いた。
金儲けには平和が一番と言う信念のザルガ商人なので王族が居なくなってからは私掠船も減ったらしいが、事業でしのぎを削っている相手の足を引っ張る為に現地の香辛料商人にアファル王国の人間と取引をしない様に圧力を掛けたり、補給に寄った船の食糧に態とカビの生えた劣化品を売りつけたりなんかは四六時中だったらしい。

そんな父の若き頃の冒険談もどきな話を聞いて育った兄は、どうも商売と言う物に関する考え方が時代遅れになってしまった。
父の時代のような半ば命がけな冒険物語のような時代はもう過ぎ去ったのに、未だにそれをしっかりと受け入れていない。
だから開戦の兆しありと国から警告が出ているのに他の時代遅れな商家と集まって船を出すなんてアホをしたのだ。
今はどのような商品がどこでいつ、高く売れるかを分析・予測して儲ける時代なのに。

まあ、偶にはちょっと冒険チックな儲け話もあるようだが。
でもそれはウィル達みたいな特殊能力がある人間でないととんでもない苦労と危険が伴う。

はっきり言って、完全に新しい航路を探し始めた最初の航海でほぼ最短距離で見つけるなんて、普通の人間からしたらふざけるな!!!という話である。

そういう運命(というかここでは上位精霊だけど)に愛された人間以外はちゃんとリスクとリターンをしっかり綿密に分析して行動しなければ大損することになるのだ。

「そういう痛手を負った商会って代わりにどうするんだ?
一部は呪具を売り込んできたと思うんだが、他に何か危険な物がザルガ共和国なり東大陸から売り込まれる可能性ってあるのかなぁ?」
ウィルがちょっとうんざりした顔をしながら聞いてきた。

「そうねぇ。
考えてみたら金蔓だったガルカ王国の王族と、テリウス教の神官も居なくなったんだし、ザルガ共和国にとってはここ数年は本当についてなかったわね。
麻薬って結局最終的にはボロボロになって金も払えなくなるからあまりザルガ共和国の商人は扱うのを好まないんだけど、潰れそうになって手を出すのもいるかもね。
後はお家騒動とかで活躍する暗殺用の毒薬とか。
惚れ薬系の薬や魔具も良く扱っているって話だったし・・・あとはでっち上げの宗教で騙す用の呪具や麻薬かしら?」
指を折りながら儲かるがヤバい事業を例に挙げる。

「へぇぇ、ザルガ共和国ってあまり麻薬を扱わないんだ?
毒薬は大丈夫なのに麻薬はダメってちょっと不思議な考え方だな。
惚れ薬系の魔具は既に入ってきたが・・・でっち上げの宗教ってなんだ?
神様がいるんだからでっち上げなんて無理だろ?」
ウィルが少し首を傾げて聞き返してきた。

「う~ん、ちょっと不運が続いた人とか、人生の岐路に立っていて不安に感じている人に、『先祖の不幸が血族にこびりついているのでそれを祓う』みたいな感じで騙す手法なんか、よくある詐欺よね。
上手く騙せば信者が他の信者を誘ってくるし、証明のしようの無い先祖の不幸とか血族の呪いとかを祓うって路線で行けばかなりの金を騙し取れるらしいわよ?
ある意味、ガルカ王国のテリウス教だって王に逆らう人間を暗殺した癖に天罰が下ったって言って国民を畏れさせて抑圧していたでしょ?
神官の行動を神が不快に思っていてもそうそう天罰なんて下らないけど、それを知らない人間は多いからねぇ。
第一、神がいたとしてもあの沈没した海神の神殿みたいに神殿長が私腹を肥やすみたいな事もあるし」
神がいてもいなくても、宗教は金になるのだ。



【後書き】
息子に冒険物語的な自分の若い頃のワクワクしそうな話を語って聞かせちゃったシェイラのお父さんは、息子の教育に失敗したと気づいてシェイラにはある意味必要以上にシビアで現実路線な話をして聞かせたせいで滅茶苦茶対照的な兄妹になったんでしたw
他の子は教育方針が入り混じった感じで、現実路線だけど少しは夢がある大人に育ったんですね~。
そんでもって夢が足りなかったシェイラは考古学に惚れ込んじゃったと。

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