シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
794 / 1,309
卒業後

793 星暦557年 赤の月 23日 一斉調査(10)

しおりを挟む
「入港している船をいつまでも足止め出来ないから、一斉調査は取り敢えずこのまま続ける。
普通の密輸品程度だったら税関の職員で何とかなる筈だ。
という事で、今日はこちらの倉庫から頼む」
地下通路の先の建物を立ち入り検査して捕えられていた人たちを救出し(やはり地下室の人影は一人を除いて全員誘拐もしくは騙されて連れて来られた被害者だった)、色々見つかった帳簿や書類を調べる為に運び出すのにも時間が掛かるという事で昨日は1日休みになった。

まあ、休みだったのは俺だけで、目の下の隈を見る限りヴェルナス達は働いていたようだが。

このまま数日休みでも良いんだけどな~と思いつつどうするのかの今後の予定を聞きにいつもの時間に港へ来たら、調査実行を言い渡されたのだ。

「了解。
まあ、そう幾つも地下通路は掘らないよな」
人知れず穴を掘って通路を造るのもそれなりに時間と資金を要するのだ。
密入出国する必要がある人間の需要はそれなりに限られているだろうし、普通の密輸だったら通路まで掘らなくてもいいだろうからそう幾つもあっても足が出るだろう。

まあ、密輸業者の間でライバル関係が合ったりする場合は競争相手の地下通路なんて怖くて使えないからもう一つ掘っている可能性もあるが。

そう考えると、港の倉庫地帯の外周をぐるっと調べて回るのが良いのかも知れないが・・・まあ、俺の契約は倉庫の木箱調査なんだ。
地下通路が倉庫にあったら教えるが、それ以外の場所にあるならそれを教えなきゃいけない謂れは無い。

「・・・この箱が中身が一様でないだけだな」
最初の倉庫はある意味退屈な位、何もなかった。
二重底の箱も魔具も呪具も無し。
中身が一様じゃあないのにしても、多分普通に荷造りした結果なのだろう。

これが正しい姿なんだろうが・・・調べる方としたら退屈だ。

「そんじゃあ次~」
地図の指示にあった次の倉庫へ行く。

「これとこれとこれは二重底。
そっちとあっちは中が一様じゃないな」
どうもこちらは意図的に上に別の物を詰めたような並べ方になっている気がする。

まあ、気のせいかも知れないが、二重底の木箱も多かったし、こちらは密輸に多少は手を染めているのだろう。
「ちなみに、密輸って見つかったらどうなるんだ?」

国によっては即縛り首なんてところもあるとアレクから以前聞いたことがあるが、アファル王国はそこまで厳しく取り締まっている印象はない。

今回の一斉調査で見つけても、誰かの命が掛かっているような緊迫感が倉庫側の人員からも漂ってこないし。

「まあ、繰り返しやっているんじゃない限りお叱りと罰金ってところかな?
一斉調査で連続摘発されるとだんだん厳しくなって3回目ぐらいで首が物理的に飛び始める。
だから一度摘発されると次の一斉調査が終わるまでは綺麗にするのが普通だな。
そこら辺の常識を弁えてない奴が次にも連続して見つかったら罰金を搾り取る際にそっと『次は命で払ってもらうぞ』って教えておく。
それでも分からん奴は、生きている価値は無い。
見つかった船員や店員は縛り首で船は没収、商会は係留権を失う」
ヴェルナスがあっさりと教えてくれた。

まあ、確かに国の収入源である関税を捕まっても懲りずに脱税し続けようとするような業者は要らないよな。

偶々偶然3回目だけ船に乗っていた奴がいたら可哀想だが・・・そこら辺は国も考慮して士官クラスだけ縛り首なんじゃないかね?

「地下通路を掘るのは?」
2回も金で見逃してもらえるなんて、考えようによっては意外と甘い。
でも普通の木箱に隠した密輸と、恒常的な地下通路を使った密輸では扱いが違うだろう。

「聞き取り調査の結果次第だが、船長と甲板長あたりは縛り首だが、船員の方はそれで許されるかもな。
商会側は全員縛り首だろ」
肩を竦めながらヴェルナスが答えた。

だよなぁ。
「人身売買なんて、そこまで危険を犯すほどの金になるのか?
娼館なんてどこにでもあるだろうに」
貧しくて娼婦になるしか選択肢が無い人間が絶えない現実なんだから、態々違法に人間を買い付ける必要も無い気がするが。

「あ~。
ああいうのは娼館じゃなくって変態な金持ち相手に売るんだよ。
娼館でやってヤバい性癖を弱みとして握られたら困るような金持ちが、自分の屋敷の地下室なり窓が無い寝室なりに閉じ込めてお楽しみする為用なのさ」
吐き捨てるようにヴェルナスが言った。

なるほど。
スラムにはあまり関係の無い客層だったから思い至らなかった。
確かに、鞭で打つ程度ならまだしも死に至るような傷をつける行為はどれだけ金を払おうと違法だ。

そう言うのを好む輩が居るというのは知っていたし、そう言うのに殺された人間の死体も時折見かけたが、そう言う歪んだ性癖はスラムの住人だけのモノではないということなんだな。

スラムだったら殺されても誰の報復も招かないような弱者が狙われるが、金持ちは足のつかないような被害者を金で買うのか。

なんとも気分が悪い。
・・・一応仕事の最後に港の外周を全部確認して、他に地下通路が無いか視ておこう。


【後書き】
これでついでに売り先も捕まると良いんですけど・・・

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...