シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

831 星暦557年 紫の月 29日 肩凝り対策(22)

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アスカやサラ君に頼りっきりになるのは良くないということで、まずは自力で手当たり次第に素材を混ぜていく。

色々と可能性を試す為に比較的危険ではない素材は工房に多種集めてあるので、それだけでもかなり時間がかかる。
しかも油や水で溶かしつつみたいな混ぜ方も試すと更に時間がかかるし。

とは言え、現時点ではあまり有効な組み合わせは見つかっていなかった。
油と一緒に石灰と混ぜると微妙に魔力が抜ける速度が遅くなり、温度の低下と固くなる時間が単体の時よりも2割ぐらい長くかかるのだが・・・それでも最終的には石の様に固くなるし、魔力を込めすぎるとあっさり分離してしまうのでこれもまた困る。

そう。
色々実験してみて分かったのだがこの緑熱《ジェイパル》石、砕いて混ぜて魔力を少しだけしか通さずに微妙に暖かい程度にとどめておくなら混ざったままで維持できるのだが、うっかり魔力を通し過ぎるとあっという間に液化して混ぜた素材から分離してしまうのだ。
微妙に暖かい程度の状態でもそれなりに柔らかみがあるのでその状態でマッサージに使うのも悪くはないのだが、魔力を込め過ぎると分離した上にグニャっと液化して柔らかくなりすぎるので困るのだ。

しかもそうなったら袋から取り出して砕き直さないと魔力が抜けても混ざっていた状態に戻らず、次に魔力を通しても普通に単体の時と同じ状態になる。
魔力を通して液化した状態では他の素材とも混ざろうとしないし。

「かなりこの素材って気難しいねぇ」
シャルロがため息をつきながら手袋型の袋から分離してしまった素材を取り出して、睨みつけた。
いい加減、想定以上に頑固な素材にイラついてきたようだ。

「確かに、捨てたくなるのも分かるな。
暖まって柔らくなるなんて色々使い勝手がありそうなものなのに何故・・・と思ったが、こうも気難しいとこちらが負けそうだ」
アレクが立ち上がってお茶セットの方へ向かいながら応じる。

そろそろ、ちょっと甘い物でも食べて気分転換したいな。
クッキーの缶を手に取り、ソファに向かった。

「魔力を込めて液化したら基本的に何と混ぜておいても純化してしまう感じだね。
次は魔力を込めずに高熱にしたら熔けるのか、その状態で他の素材と混ぜたらどうなるかの実験かな?」
湯沸かし器をセットし、茶葉を入れたティーポットをソファの前のローテーブルまで持ってきたアレクにシャルロが言う。

「どれもこれも全部だめだったら、アスカに何か手があるのか聞いてみよう。
まあアスカにとってはそのままの状態が一番使いやすいかもだから、人間みたいな加工をしようと考えてなくて何も知らない可能性も高いが」
というか、土の中を泳ぐ幻獣なのだ。
魔力が抜けて固い石に戻ってもアスカにとっては固くないのかも?
人間と違って微量の魔力を出し続けて暖かくしておくのも難しくないだろうし。
つうか、アスカって熱湯のような温泉でも平気だったから、温度感覚ってかなり人間と違うっぽいんだよなぁ。

「なんかこう、魔力を込めると冷たくなるとかクルクル動くとかいった魔術回路なしでも魔力に直接反応する素材って他にもあるのかな?
難しいけど中々面白そうだよね」
シャルロがテーブルの上に置いたクッキーの缶を開けながら言った。

「まあ、単純な魔術回路だったら発熱効率はそちらの方がいいなんてこともあるようだが。
そう考えると冷やす方の効率も普通に魔術回路を使う方がいいかも知れないよ?」
お湯が沸いたポットを取りに立ち上がったアレクが指摘する。

「魔術回路って言うのは加工に金がかかるしいつかは壊れるからなぁ。
『魔力を流し込む』ってだけの単純な仕組みとスイッチで済むんだったらそちらの方が製造費は少ないだろ。
ただまあ、魔力消費の効率が劣っていたら微妙だし、考えてみたら魔術回路じゃないとしたら魔術院での特許登録が出来ないかもだが」
魔力に反応する素材の製造方法に関する特許なんてあるんかね?

「・・・確かにな。
この素材が上手く使えるようだったら、アンディ・・・いや、学院長経由で魔術院に相談した方が良さそうだ。
もしも新たに魔力反応素材関連の特許制度が出来上がり、それが儲かるとなったら大地系の幻獣と契約している魔術師は他にもいるだろうから、色々と登録されるかもしれないな」
アレクがポットにお湯を注ぎながら言った。

「まあ、実用性があるか否かだよねぇ・・・。
というか、使い勝手のいい魔具に造り上げられるかが問題だね。
現時点ではちょっと見通しが暗いかも~」
ぱくりとクッキーを口に放り込みながらシャルロがため息を吐いた。

考えてみたら、過去の文明とかでそう言う素材って使われてなかったのかな?
遺跡が見つかった際に魔術回路は確認しているって聞くが、素材に魔力を通してみるっていうのは誰もやって無さそうだが・・・そんな遺物があるにしてもどうやって見つけるかは難しそうだ。

明日にでもシェイラに相談しに行こうかな?


【後書き】
デート決定w
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