シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
879 / 1,309
卒業後

878 星暦557年 萌葱の月 7日 水除け(17)

しおりを挟む
「遮熱機能と冷風機は販売する為の製造の準備が夏の終わり後になりそうだから、下手に試作品として出さない方が良いと兄から助言された」
アレクがいつもの朝茶の時に徐に言い出した。

昨日は幾つか試作品を配って回ったのだが、どうやら今日は回収に回らなきゃいけないらしい。
まあ、俺は学院長の所に持って行っただけだから、一か所だけだが。

「あ~確かにね。
まあ今ってそれ程風が強くないから、あの庭用の結界は必要ないって言えば必要無いか。
程よく涼しくて気持ちいい環境で庭を楽しみながらお茶が飲めて良いと思ったんだけど、確かにあれって来年の夏まで待つんだったら色々と類似品を造る連中が出てくるだろうねぇ」
ちょっとため息を吐きながらシャルロが頷いた。

「ああ。
だからシャルロの母君やその他親族に配った分も、防風はまだしも遮熱機能は削除し冷風機能分は取り外して回収して来てくれ」
一応試作品を配る際にアイディアも実物も他に漏らさないって保証する機密保護契約は結んでいるんだけどね。
それでも使用人の誰かが夕食の際にちょっとしたネタとして話すだけでも模造品を造るアイディアにはなるからなぁ。

模造品のネタの出所を探し出して雇用主に損害賠償を請求するよりは、最初から準備が出来るまではアイディアが漏れないようにする方が良いだろう。

家族や魔術学院を損害賠償で訴えるのは微妙だし。

「そうだね。
取り敢えず、母上の所は噴水にいる精霊にちょっと水を冷やすよう頼んでおくよ。
それで庭が少し過ごしやすくなるだろうから」
あっさりシャルロが言った。

なる程。
冷水を噴水から噴き出したら、それで庭全体がそれなりに涼しくなりそうだな。
噴水じゃなくてもちょっとした水撒き用の魔道具で冷水を撒くことで周囲の気温も下げられそうだが・・・まあ、これを大々的に設置するのは難しいかな。

それこそ軍の訓練所とかの傍でそう言うのを設置したら暑さで倒れる連中が減るだろうが、軍の連中は暑さで倒れるようなひょろい人間はもっと鍛えればいいんだ!!と言いそうだから、環境を快適にする魔具を買おうとは思わないだろうなぁ。

冬の寒さは体の動きが鈍くなるから、もしもの時の戦闘に差し支えるってことで防寒用機能付きの防御結界の購入に踏み切ったらしいが、暑いのは倒れる前にしっかり水分補給すれば何とかなるって感じなのだろう。

それに実際の遠征とかに行った時に暑さに負けて倒れるんじゃあ困るし。

「代わりにケレナに却下された冷やす下着機能を普段着用のシャツにでもして配っておけばいいと思うんだが、どれがいいかな?」
アレクが提案する。

あ~。
シャツ程度だったら別にアイディアを模造されてもそれ程痛くはないし、折角快適に過ごせる魔具を試作品として配ったのに翌日に回収しようとしたら相手が不満に思うかもだからな。
ちょっと不具合が発覚したので回収、代わりにこちらを使ってくださいと涼しくなるシャツを配れば良いか。

「直接冷やすのよりは、風が出るタイプの方が汗をかいたらそれが乾いて涼しく感じる程度で丁度良いんじゃないか?」
単に冷えるだけって言うのは体に触れていないと効果が無いし、シャツの折れ目とかの所の冷えたのが動いた際に突然触れるとちょっとぎょっとすることもあるからな。

「確かにそうだね。
微風程度だったら大して魔力が必要無いし、冷やすだけのって下手すると水が垂れてくるしね」
シャルロが頷く。

「薄い下着タイプのシャツを入手して、ちゃちゃっと風吹き下着の試作品を仕上げて冷風機を回収がてら配って来るか。
ちょっとパディン夫人に魔術回路の縫い付けを手伝ってもらう必要があるかも」
アレクが立ち上がりながら言った。

「ついでに下着タイプな薄いシャツを買いに行くのも同行を頼んだら?
幾ら服の下に着ると言っても、野暮ったすぎて着たくないって言われるようなのじゃあ困るが、無駄にお洒落なのを買ってもしょうがないから。
丁度いいぐらいにそっけない女性用下着を見つけるのは俺らにはハードルが高いんじゃないか?」
まあ、アレクだったらシェフィート商会に行ったらお袋さんなり義姉さんなりに頼めるかもだが。

とは言え、あの二人もそれなりに裕福な部類だからなぁ。
少なくとも魔術学院で配る分は多分事務所のおばちゃん連中が強奪しそうだから、安い素朴なタイプで良いと思うんだが。

シャルロの実家だったらもう少し良いのが必要かも。
というか、考えてみたら貴族だったら絹以外は肌に触れるのも嫌とか言い出すか?
綿でも大丈夫かもだが、この時期の下着ってどんなのを着ているんだろ?
そう考えると一言で風吹き下着と言っても、サイズだけでなく素材も何種類か揃えないとダメそうだな。


【後書き】
そっと微風が静かに流れるシャツ。

汗疹対策に良さそう。
とは言え、大量に汗をかいたら塩分が肌に残って不快感はあるのかな?

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...