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卒業後
890 星暦557年 萌葱の月 15日 久しぶりに遠出(11)
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「なあ、ここの書類や書籍の保存を手伝っているんだろ?
こう、陶磁器《セラミック》の作り方とかを書いた手引書とか教科書みたいのってないのか?」
天井裏の空間をさっと見て回り、特に俺に何か分かる目新しいことは無かったのでアルマを捕まえて隠し金庫その他の隠し場所探しを再開して欲しい場所を確認して探し回っていた俺は、腹が減ったので昼食を食べようかとアレクの所に行った際についでに聞いてみた。
ちなみにアレクは半刻ごとの交代用の鐘を鳴らすために縄梯子の下あたりで本の固定化・復元作業をやっていた。
「あぁ。何やらベルファウォードから予算を得てそこら辺っぽい資料があったら集中的に解読作業をしているそうだが、貴重な紙をそう言う見習いが使うような情報を書き留めるのには使っていなかったようだな。
私が聞いた範囲では、法律やら税金やら相続関連の書類や書籍が多いらしい。
後は神話関係だな」
アレクが教えてくれた。
残念~。
そう言えば、このオーパスタ神殿文明ってかなり宗教に重点を置いていた社会なんだったっけ?
考えにそぐわなかった人間を牢屋に押し込めたまま飢え死にさせた連中よりはここの街の方が多少は頭が柔らくなっていてもう少し商業ベースな社会だったっぽいそうだが、それでもそれなりに宗教が重要だったんだろうな。
「そうか、そう言う職人の学校みたいのは無かったのか。
まあ、このサイズも街だったら工房に弟子入りして学ぶ方が効率的かな?」
魔術学院だって、アファル王国全体から魔術師の才能がある子供を集めてやっとあの人数なのだ。
それでも魔術関連の教科書は余りなかった。
歴史とか地理の教科書は一般の学校のと共通のを貸し出していたが、魔術に関しては黒板に教師が書いた内容を手で書き写してって事が多かったな。
試験前になったら図書館にある書籍を調べることもあったが。
陶磁器の工房で働く人間と魔術師とでは違うだろうが、一つの町が抱えられる工房の人数だって限界があるだろう。
つうか、考えてみたら情報漏洩防止を考えると誰かが簡単に持ち去れる教科書なんて作らない方が良いだろうから、それもあるのかも知れない。
「そうだな、人口的な数を考えると職人の技能的な話を書籍に残す意義は余りなかっただろうし・・・それなりに他の集団との軋轢があった社会だったらまかりなりにも金属の代わりになるような素材の技術は競争力の根源にもなっただろうから、機密保持的にも書き残したりはしなかったんじゃないか?」
アレクが俺が思っていたのと似たようなことを指摘した。
「まあそうだよなぁ。
集団が大きくなって国家規模になった今ですら、魔術師を見つける手段を漏らさない様に色々制限しているんだし」
過去の文明の規模が今の国家よりも大きかったか小さかったかは不明だが。
「通信機や転移門のような魔具は過去の遺跡では見つかっていないから、多分過去の文明の規模は今の国家よりも小さいとは思うが・・・どちらによせ、いつの世でも人間は競争して勝つために技術を磨き上げ、そしてそれを競争相手に広めないために制限を掛けるんだろうな」
アレクが肩を竦めながら言った。
なんとも矛盾しているよなぁ。
「そう言えば、ここにその本を持ってきちゃって良いのか?
前に来た時はあっちの奥で作業していなかったか?」
アレクが保存用に固定化の術を一ページごとに根気よくかけている書籍の残骸(とまでは言わないけど本の形が残っているとも微妙に言い辛い)を指しながら聞く。
「まあ、どうせ本体に一度固定化の術を掛けて元々あった本棚からは動かしてあるんだ。
ここでやろうとあっちでやろうと大して違いはない。
それよりも公正な誰にも贔屓の無い第三者の立場で鐘を鳴らすことの方が重要だと言われてね」
手許の時計を見て鐘を鳴らす小さなハンマーを持ち上げながらアレクが応じる。
なるほど。
他の連中がいなくなったからそれなりに落ち着いたかと思っていたら、ここで鐘を鳴らすアレクを信用して自分の作業に戻っているのか。
カカーン。
鐘の音が響く。
「・・・誰も降りてこないな?」
まあ、次に上がる連中がまだ出て来てないんだから不思議は無いか?
「今のは2ミル前の警告音なんだ。
普通に半刻ごとに鳴らしていたら、『鐘が鳴った瞬間直ぐに上がりたい!!』とか言ってうろうろする連中が多かった上に、上にいる人間も『もうちょっと!!今ちょうど良い所なんだ!!』とか言って中々降りてこなくてね。
2ミルの警告音を出して、本番の音が鳴ったら直ぐに移動ってことにした」
アレクが説明していたら、奥の方から早足で何人かが現れてきた。
なるほど。
交代の瞬間に鐘が鳴るんじゃあ前もってここにきておきたいって連中が多すぎて邪魔なのか。
皆好きだねぇ。
大したものはないと思うんだが。
こう、陶磁器《セラミック》の作り方とかを書いた手引書とか教科書みたいのってないのか?」
天井裏の空間をさっと見て回り、特に俺に何か分かる目新しいことは無かったのでアルマを捕まえて隠し金庫その他の隠し場所探しを再開して欲しい場所を確認して探し回っていた俺は、腹が減ったので昼食を食べようかとアレクの所に行った際についでに聞いてみた。
ちなみにアレクは半刻ごとの交代用の鐘を鳴らすために縄梯子の下あたりで本の固定化・復元作業をやっていた。
「あぁ。何やらベルファウォードから予算を得てそこら辺っぽい資料があったら集中的に解読作業をしているそうだが、貴重な紙をそう言う見習いが使うような情報を書き留めるのには使っていなかったようだな。
私が聞いた範囲では、法律やら税金やら相続関連の書類や書籍が多いらしい。
後は神話関係だな」
アレクが教えてくれた。
残念~。
そう言えば、このオーパスタ神殿文明ってかなり宗教に重点を置いていた社会なんだったっけ?
考えにそぐわなかった人間を牢屋に押し込めたまま飢え死にさせた連中よりはここの街の方が多少は頭が柔らくなっていてもう少し商業ベースな社会だったっぽいそうだが、それでもそれなりに宗教が重要だったんだろうな。
「そうか、そう言う職人の学校みたいのは無かったのか。
まあ、このサイズも街だったら工房に弟子入りして学ぶ方が効率的かな?」
魔術学院だって、アファル王国全体から魔術師の才能がある子供を集めてやっとあの人数なのだ。
それでも魔術関連の教科書は余りなかった。
歴史とか地理の教科書は一般の学校のと共通のを貸し出していたが、魔術に関しては黒板に教師が書いた内容を手で書き写してって事が多かったな。
試験前になったら図書館にある書籍を調べることもあったが。
陶磁器の工房で働く人間と魔術師とでは違うだろうが、一つの町が抱えられる工房の人数だって限界があるだろう。
つうか、考えてみたら情報漏洩防止を考えると誰かが簡単に持ち去れる教科書なんて作らない方が良いだろうから、それもあるのかも知れない。
「そうだな、人口的な数を考えると職人の技能的な話を書籍に残す意義は余りなかっただろうし・・・それなりに他の集団との軋轢があった社会だったらまかりなりにも金属の代わりになるような素材の技術は競争力の根源にもなっただろうから、機密保持的にも書き残したりはしなかったんじゃないか?」
アレクが俺が思っていたのと似たようなことを指摘した。
「まあそうだよなぁ。
集団が大きくなって国家規模になった今ですら、魔術師を見つける手段を漏らさない様に色々制限しているんだし」
過去の文明の規模が今の国家よりも大きかったか小さかったかは不明だが。
「通信機や転移門のような魔具は過去の遺跡では見つかっていないから、多分過去の文明の規模は今の国家よりも小さいとは思うが・・・どちらによせ、いつの世でも人間は競争して勝つために技術を磨き上げ、そしてそれを競争相手に広めないために制限を掛けるんだろうな」
アレクが肩を竦めながら言った。
なんとも矛盾しているよなぁ。
「そう言えば、ここにその本を持ってきちゃって良いのか?
前に来た時はあっちの奥で作業していなかったか?」
アレクが保存用に固定化の術を一ページごとに根気よくかけている書籍の残骸(とまでは言わないけど本の形が残っているとも微妙に言い辛い)を指しながら聞く。
「まあ、どうせ本体に一度固定化の術を掛けて元々あった本棚からは動かしてあるんだ。
ここでやろうとあっちでやろうと大して違いはない。
それよりも公正な誰にも贔屓の無い第三者の立場で鐘を鳴らすことの方が重要だと言われてね」
手許の時計を見て鐘を鳴らす小さなハンマーを持ち上げながらアレクが応じる。
なるほど。
他の連中がいなくなったからそれなりに落ち着いたかと思っていたら、ここで鐘を鳴らすアレクを信用して自分の作業に戻っているのか。
カカーン。
鐘の音が響く。
「・・・誰も降りてこないな?」
まあ、次に上がる連中がまだ出て来てないんだから不思議は無いか?
「今のは2ミル前の警告音なんだ。
普通に半刻ごとに鳴らしていたら、『鐘が鳴った瞬間直ぐに上がりたい!!』とか言ってうろうろする連中が多かった上に、上にいる人間も『もうちょっと!!今ちょうど良い所なんだ!!』とか言って中々降りてこなくてね。
2ミルの警告音を出して、本番の音が鳴ったら直ぐに移動ってことにした」
アレクが説明していたら、奥の方から早足で何人かが現れてきた。
なるほど。
交代の瞬間に鐘が鳴るんじゃあ前もってここにきておきたいって連中が多すぎて邪魔なのか。
皆好きだねぇ。
大したものはないと思うんだが。
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