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卒業後
925 星暦557年 緑の月 7日 熟練の技モドキ(7)(第三者視点)
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今回はシェフィート商会のベテラン従業員視点の話です
【本文】
>>>サイド アルガン・ヒルジーグ
「アルガン。
ちょっとこれを卸売り用の仕入れが届いた際に使ってみて欲しいんだが」
昼食後に職場に戻り、本店長室の前を通ったところで中から声を掛けられた。
中を覗き込んだら本店長のホルザック氏とその弟のアレク氏が居る。
「お久しぶりです。
何か新しい商品ですか?!」
何年か前、出張時に見送りに来た息子が新店の金庫に閉じ込められた時に何やら凄い伝手を使って息子を助け出してくれた魔術師のアレク氏は、ちょくちょく斬新な魔具の商品を仲間と共に開発して売りに持ってくる。
売りに出す前に使ってみて使用上の問題や改善点を教えて欲しいと、シェフィート商会で試用する為に持って来ることも多いのだが、今回もそれだろうか?
暫く前に持ってきた水除けの魔具は荷下ろしの際に商品が濡れずに済むようになって中々便利だったし、特に問題も無かったが・・・今回は何だろうか。
「塩や小麦粉などの不純物が含まれやすい商品を仕入れた際に、正規な成分の割合が確認できる魔具だそうだ」
ホルザック氏が机の上に置かれたトレーと魔具を手で示しながら教えてくれた。
「成分の割合確認、ですか?」
一体どう言う話なのだろうか?
「ああ。
このトレーに乗せた物の成分割合が分かるんだが・・・例えば、これは純度ほぼ100%の超高級な小麦粉だ」
アレク氏がそう言いながら手許の鞄から小さな箱を取り出して、白い粉を取り出してそのトレーの上に掛けて見せる。
「そして、こちらに販売されている小麦粉に含まれる成分として考えるサンプルを幾つか入れるんだが・・・今回は正規成分な小麦粉、あとは胚乳、表皮、白い砂なんかだな。
で、それらをここに入れておいて起動すると、横の部分が含有量に対応して光るんだ」
アレク氏が微量の粉っぽい何かを魔具本体の右側に少しずつ付けて魔具を起動させたところ、その粉の左側に光がともった。
小麦粉部分は光る点が9つほどあり、その下に薄く光る点が1つずつある。
「この右側に入れたサンプルと同じ物がどれだけ入っているかを目で見ることが出来るんだ。
で、今度は市場で見かけた質の悪い安物で同じことをすると・・・」
純白に近かったトレーの上の小麦粉を箱に戻し、丁寧にトレーを拭いてからアレク氏が別の箱を取り出してトレーの上に出す。
今回は明らかに不純物が多く、色からして茶色と灰色が白に混じったような微妙な色合いになっている。
アレク氏が魔具を起動させたら、小麦粉部分だと言われていた一番上の部分の光が4つ、その下の胚乳が1つ、表皮が2つに砂が2つ程光った。
「つまり、この安物は純粋に小麦粉な部分が4割しかないってことなのか?
光の総数が最初のと違うがそれは何故なんだ?」
ホルザック氏がアレク氏に尋ねる。
「小麦粉部分が4割、表皮や胚乳が合計3割ぐらい、後は砂を追加でかさ増ししているんでしょうね。
全ての成分を此方のサンプルの所に入れられたら合計で光の数が10になるか、弱い光が複数あって11になるけど、調べていない成分があると10以下になります。
今回は光の数が足りないのは砂の成分が私が持ち込んだのと微妙に違うからなんだろうね」
アレク氏が肩を竦めながら応じた。
「安物の小麦粉には砂が混ぜられているっていうのは都市伝説だと思っていたんだが、本当だったのか・・・」
ホルザック氏が魔具の上の光を見ながら呟く。
下町のパンなんぞは食べると微妙にじゃりじゃりすることが多いのだが、あれは料理人が悪いのではなく仕入れている小麦粉その物に問題があるということなのだろう。
ある意味、それを誤魔化すために下町のパン屋はパンをガチガチに固く焼いているのかも知れない。
「塩なんかでも、砂や塩を抽出する前の不純物なんかの割合を調べられます。
ただ、塩の場合は多少は不純物がある方が美味しい場合もあるので砂が入っていなければ多少の不純物は正当な商品の一部だと考えるべき場合もありそうですが」
アレク氏がトレーの上の安物な小麦粉を箱に戻しながら続ける。
ふむ。
確かに塩の精製職人が、純度を上げるだけが職人の腕ではないと昔言っていたことがあった。
アレク氏と仲間で海水から真水を抽出する魔具を開発して、それの廃棄物から塩を取り出す作業を確立する際にそんなことを言っていたが・・・本当だったのか。
「これが今度の新しい商品なのかい?」
ホルザック氏がアレク氏に尋ねる。
「いや、更に掘り下げた使い方を考えているんだが、取り敢えず仕入れ商品の確認にも使えるかな?と思ってね。
シェフィート商会の方で使って使い勝手とか問題点を教えて欲しい」
兄弟間の気軽そうな口調でアレク氏が新しい魔具について何やら色々と話し合い始めた。
ふむ。
時折仕入れでかさ増しをやっているのに認めようとしない図々しい職人や農家がいるのだが・・・これは中々良いかも知れない。
どうやって調べるのか、ベテランの味見係が休みの時だけ入荷に来てかさ増ししまくるあのおっさんの悔しがる顔が見られるかも知れないと思うと、あいつの次の入荷日が中々楽しみだ。
【後書き】
ちなみに金庫に閉じ込められた少年は特にトラウマになる事もなく元気にやっています。
学生時代にちらっと名前だけ出てきたアルガン氏は支店長から本店の仕入れ担当トップへ昇進してます
【本文】
>>>サイド アルガン・ヒルジーグ
「アルガン。
ちょっとこれを卸売り用の仕入れが届いた際に使ってみて欲しいんだが」
昼食後に職場に戻り、本店長室の前を通ったところで中から声を掛けられた。
中を覗き込んだら本店長のホルザック氏とその弟のアレク氏が居る。
「お久しぶりです。
何か新しい商品ですか?!」
何年か前、出張時に見送りに来た息子が新店の金庫に閉じ込められた時に何やら凄い伝手を使って息子を助け出してくれた魔術師のアレク氏は、ちょくちょく斬新な魔具の商品を仲間と共に開発して売りに持ってくる。
売りに出す前に使ってみて使用上の問題や改善点を教えて欲しいと、シェフィート商会で試用する為に持って来ることも多いのだが、今回もそれだろうか?
暫く前に持ってきた水除けの魔具は荷下ろしの際に商品が濡れずに済むようになって中々便利だったし、特に問題も無かったが・・・今回は何だろうか。
「塩や小麦粉などの不純物が含まれやすい商品を仕入れた際に、正規な成分の割合が確認できる魔具だそうだ」
ホルザック氏が机の上に置かれたトレーと魔具を手で示しながら教えてくれた。
「成分の割合確認、ですか?」
一体どう言う話なのだろうか?
「ああ。
このトレーに乗せた物の成分割合が分かるんだが・・・例えば、これは純度ほぼ100%の超高級な小麦粉だ」
アレク氏がそう言いながら手許の鞄から小さな箱を取り出して、白い粉を取り出してそのトレーの上に掛けて見せる。
「そして、こちらに販売されている小麦粉に含まれる成分として考えるサンプルを幾つか入れるんだが・・・今回は正規成分な小麦粉、あとは胚乳、表皮、白い砂なんかだな。
で、それらをここに入れておいて起動すると、横の部分が含有量に対応して光るんだ」
アレク氏が微量の粉っぽい何かを魔具本体の右側に少しずつ付けて魔具を起動させたところ、その粉の左側に光がともった。
小麦粉部分は光る点が9つほどあり、その下に薄く光る点が1つずつある。
「この右側に入れたサンプルと同じ物がどれだけ入っているかを目で見ることが出来るんだ。
で、今度は市場で見かけた質の悪い安物で同じことをすると・・・」
純白に近かったトレーの上の小麦粉を箱に戻し、丁寧にトレーを拭いてからアレク氏が別の箱を取り出してトレーの上に出す。
今回は明らかに不純物が多く、色からして茶色と灰色が白に混じったような微妙な色合いになっている。
アレク氏が魔具を起動させたら、小麦粉部分だと言われていた一番上の部分の光が4つ、その下の胚乳が1つ、表皮が2つに砂が2つ程光った。
「つまり、この安物は純粋に小麦粉な部分が4割しかないってことなのか?
光の総数が最初のと違うがそれは何故なんだ?」
ホルザック氏がアレク氏に尋ねる。
「小麦粉部分が4割、表皮や胚乳が合計3割ぐらい、後は砂を追加でかさ増ししているんでしょうね。
全ての成分を此方のサンプルの所に入れられたら合計で光の数が10になるか、弱い光が複数あって11になるけど、調べていない成分があると10以下になります。
今回は光の数が足りないのは砂の成分が私が持ち込んだのと微妙に違うからなんだろうね」
アレク氏が肩を竦めながら応じた。
「安物の小麦粉には砂が混ぜられているっていうのは都市伝説だと思っていたんだが、本当だったのか・・・」
ホルザック氏が魔具の上の光を見ながら呟く。
下町のパンなんぞは食べると微妙にじゃりじゃりすることが多いのだが、あれは料理人が悪いのではなく仕入れている小麦粉その物に問題があるということなのだろう。
ある意味、それを誤魔化すために下町のパン屋はパンをガチガチに固く焼いているのかも知れない。
「塩なんかでも、砂や塩を抽出する前の不純物なんかの割合を調べられます。
ただ、塩の場合は多少は不純物がある方が美味しい場合もあるので砂が入っていなければ多少の不純物は正当な商品の一部だと考えるべき場合もありそうですが」
アレク氏がトレーの上の安物な小麦粉を箱に戻しながら続ける。
ふむ。
確かに塩の精製職人が、純度を上げるだけが職人の腕ではないと昔言っていたことがあった。
アレク氏と仲間で海水から真水を抽出する魔具を開発して、それの廃棄物から塩を取り出す作業を確立する際にそんなことを言っていたが・・・本当だったのか。
「これが今度の新しい商品なのかい?」
ホルザック氏がアレク氏に尋ねる。
「いや、更に掘り下げた使い方を考えているんだが、取り敢えず仕入れ商品の確認にも使えるかな?と思ってね。
シェフィート商会の方で使って使い勝手とか問題点を教えて欲しい」
兄弟間の気軽そうな口調でアレク氏が新しい魔具について何やら色々と話し合い始めた。
ふむ。
時折仕入れでかさ増しをやっているのに認めようとしない図々しい職人や農家がいるのだが・・・これは中々良いかも知れない。
どうやって調べるのか、ベテランの味見係が休みの時だけ入荷に来てかさ増ししまくるあのおっさんの悔しがる顔が見られるかも知れないと思うと、あいつの次の入荷日が中々楽しみだ。
【後書き】
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学生時代にちらっと名前だけ出てきたアルガン氏は支店長から本店の仕入れ担当トップへ昇進してます
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