シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
926 / 1,348
卒業後

925 星暦557年 緑の月 7日 熟練の技モドキ(7)(第三者視点)

しおりを挟む
今回はシェフィート商会のベテラン従業員視点の話です

【本文】
>>>サイド アルガン・ヒルジーグ

「アルガン。
ちょっとこれを卸売り用の仕入れが届いた際に使ってみて欲しいんだが」
昼食後に職場に戻り、本店長室の前を通ったところで中から声を掛けられた。

中を覗き込んだら本店長のホルザック氏とその弟のアレク氏が居る。
「お久しぶりです。
何か新しい商品ですか?!」

何年か前、出張時に見送りに来た息子が新店の金庫に閉じ込められた時に何やら凄い伝手を使って息子を助け出してくれた魔術師のアレク氏は、ちょくちょく斬新な魔具の商品を仲間と共に開発して売りに持ってくる。

売りに出す前に使ってみて使用上の問題や改善点を教えて欲しいと、シェフィート商会で試用する為に持って来ることも多いのだが、今回もそれだろうか?

暫く前に持ってきた水除けの魔具は荷下ろしの際に商品が濡れずに済むようになって中々便利だったし、特に問題も無かったが・・・今回は何だろうか。

「塩や小麦粉などの不純物が含まれやすい商品を仕入れた際に、正規な成分の割合が確認できる魔具だそうだ」
ホルザック氏が机の上に置かれたトレーと魔具を手で示しながら教えてくれた。

「成分の割合確認、ですか?」
一体どう言う話なのだろうか?

「ああ。
このトレーに乗せた物の成分割合が分かるんだが・・・例えば、これは純度ほぼ100%の超高級な小麦粉だ」
アレク氏がそう言いながら手許の鞄から小さな箱を取り出して、白い粉を取り出してそのトレーの上に掛けて見せる。

「そして、こちらに販売されている小麦粉に含まれる成分として考えるサンプルを幾つか入れるんだが・・・今回は正規成分な小麦粉、あとは胚乳、表皮、白い砂なんかだな。
で、それらをここに入れておいて起動すると、横の部分が含有量に対応して光るんだ」
アレク氏が微量の粉っぽい何かを魔具本体の右側に少しずつ付けて魔具を起動させたところ、その粉の左側に光がともった。

小麦粉部分は光る点が9つほどあり、その下に薄く光る点が1つずつある。

「この右側に入れたサンプルと同じ物がどれだけ入っているかを目で見ることが出来るんだ。
で、今度は市場で見かけた質の悪い安物で同じことをすると・・・」
純白に近かったトレーの上の小麦粉を箱に戻し、丁寧にトレーを拭いてからアレク氏が別の箱を取り出してトレーの上に出す。

今回は明らかに不純物が多く、色からして茶色と灰色が白に混じったような微妙な色合いになっている。

アレク氏が魔具を起動させたら、小麦粉部分だと言われていた一番上の部分の光が4つ、その下の胚乳が1つ、表皮が2つに砂が2つ程光った。

「つまり、この安物は純粋に小麦粉な部分が4割しかないってことなのか?
光の総数が最初のと違うがそれは何故なんだ?」
ホルザック氏がアレク氏に尋ねる。

「小麦粉部分が4割、表皮や胚乳が合計3割ぐらい、後は砂を追加でかさ増ししているんでしょうね。
全ての成分を此方のサンプルの所に入れられたら合計で光の数が10になるか、弱い光が複数あって11になるけど、調べていない成分があると10以下になります。
今回は光の数が足りないのは砂の成分が私が持ち込んだのと微妙に違うからなんだろうね」
アレク氏が肩を竦めながら応じた。

「安物の小麦粉には砂が混ぜられているっていうのは都市伝説だと思っていたんだが、本当だったのか・・・」
ホルザック氏が魔具の上の光を見ながら呟く。

下町のパンなんぞは食べると微妙にじゃりじゃりすることが多いのだが、あれは料理人が悪いのではなく仕入れている小麦粉その物に問題があるということなのだろう。

ある意味、それを誤魔化すために下町のパン屋はパンをガチガチに固く焼いているのかも知れない。

「塩なんかでも、砂や塩を抽出する前の不純物なんかの割合を調べられます。
ただ、塩の場合は多少は不純物がある方が美味しい場合もあるので砂が入っていなければ多少の不純物は正当な商品の一部だと考えるべき場合もありそうですが」
アレク氏がトレーの上の安物な小麦粉を箱に戻しながら続ける。

ふむ。
確かに塩の精製職人が、純度を上げるだけが職人の腕ではないと昔言っていたことがあった。
アレク氏と仲間で海水から真水を抽出する魔具を開発して、それの廃棄物から塩を取り出す作業を確立する際にそんなことを言っていたが・・・本当だったのか。

「これが今度の新しい商品なのかい?」
ホルザック氏がアレク氏に尋ねる。

「いや、更に掘り下げた使い方を考えているんだが、取り敢えず仕入れ商品の確認にも使えるかな?と思ってね。
シェフィート商会の方で使って使い勝手とか問題点を教えて欲しい」
兄弟間の気軽そうな口調でアレク氏が新しい魔具について何やら色々と話し合い始めた。

ふむ。
時折仕入れでかさ増しをやっているのに認めようとしない図々しい職人や農家がいるのだが・・・これは中々良いかも知れない。

どうやって調べるのか、ベテランの味見係が休みの時だけ入荷に来てかさ増ししまくるあのおっさんの悔しがる顔が見られるかも知れないと思うと、あいつの次の入荷日が中々楽しみだ。




【後書き】
ちなみに金庫に閉じ込められた少年は特にトラウマになる事もなく元気にやっています。
学生時代にちらっと名前だけ出てきたアルガン氏は支店長から本店の仕入れ担当トップへ昇進してます

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...