シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

953 星暦557年 黄の月 12日 新しい伝手(17)

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『これは亜鉛と銅と緑砂鉄《チュサスト》だな』

魔力消費効率ということで魔術回路の新素材も試してみたら、4倍ではなく3倍の大きさで起動できるようになったが、3倍でも大きすぎる。
なのでアスカを呼び出して素材に関して確認して貰ったのだが・・・。

「緑砂鉄《チュサスト》ってなんだ?」
聞いたことが無い。
まあ、俺は金属に関してそれ程知識がある訳ではないんだが。

『こちらの世界ではごく一部で採れる素材だな。
東大陸ならあそこの湿地の泥に特殊な加工をして抽出しているのを見たことがあるぞ』
アスカがもう少し詳細をくれた。
とは言え。

「東大陸かぁ。
アファル王国とかここ等辺近辺の国の湿地からも抽出できるかな?」
シャルロが尋ねる。

『こちらは無いな。
いや、妖精の森に繋がる時期だったらサラフォードの方から妖精の森に入って暗黒界から来た連中が倒れた場所を探せば出て来るだろう』
アスカが微妙に役に立たない情報をくれた。
妖精の森か~。
ちょっと入手困難度が高すぎる。
幻想界との境界が近づく時期じゃなきゃダメだし、誰かに収穫できる時期を知らせたとしても、下手に取りに行ったら戻ってきたらジジイになっていたなんてことになりかねないって嫌がられるだろう。

「・・・ケッパッサ付近の湿地って暗黒界に繋がったことがあったのか?」
アレクが興味深げに尋ねた。

『どっかのアホが魔獣を喚び出して、それが召喚主を殺して暴れ回った後にやっと始末されたのがあそこ等辺だったんだ。
殺した後の魔獣の遺体を街から離れた野原で燃やしたようだが・・・単に燃やすだけでは完全に毒素を除去できないからその灰が散らばった範囲で色々と生態系に異常が生じ、ついでに緑砂鉄《チュサスト》も取れるようになったようだな』
何やら凄い事を教えてくれたが・・・一体どのくらい前の話なのだろうか。

というか、魔獣って駆逐した後の死体の処理も精霊に頼まないとダメなのか?!
以前王都にヤバい木材が持ち込まれてその灰から魔獣モドキが発生し始めた時には蒼流に王都を丸洗いして貰ったが・・・考えてみたら、単に燃やすだけでよかったらガルカ王国だって浄化させるためにテリウス教の神殿に山を丸々一つ任せたりしないか。

肝心の浄化の方は時代の流れとともにすっかり忘れられていたようだったが。
というか、人間が祈るだけで魔獣の穢れを浄化できるのかもかなり怪しいよな。
神様に気に入られた神殿長とかだったら真剣に祈れば神様が対処してくれることもあるかも知れないが、穢れが残っていたってことは結局何十年か何百年かしらないがの間にガルカ王国のテリウス教神殿には神の愛し子は一度も生まれなかったってことなのだろう。

まあ、生まれても浄化する必要があるって情報が伝わってなかったら、そう願って祈ることが無かったんかもだけど。

「つまり。
東大陸と同じようなのを作ろうと思ったらシャルロがアルフォンソに頼んで妖精の森からこの緑砂鉄《チュサスト》とやらを入手しなくちゃ駄目って事か。
自分たち用に作るならまだしも、商業ベースなり恩売りベースなりで造るには現実性が無いな。
色々と他の素材で試行錯誤して、それでもダメだったら諦めるか」
溜め息を吐きながらアレクが言った。

まあなぁ。
アスカに頼んでケッパッサの湿地の辺から採ってきてもらうのも一応可能だろうが、それだったらアルフォンソに頼むとあまり違いないし、どうせ俺たちの使い魔に頼むんだったら妖精の森の方が魔獣が死んだ場所って多いだろうから緑砂鉄《チュサスト》とやらも入手しやすそうだ。

もっとも、魔獣の灰と特定の何かが反応する事で生じる素材なら妖精の森で見つけるのも大変だろうが。

他人に渡す物にそこまで手間をかける意味はないし、友人や家族だったら精霊に頼んでガードしてもらう方が確実だな。

「緑砂鉄《チュサスト》って毒なのか?」
魔獣の遺体を燃やした場所から出て来るってことは何か魔獣とか暗黒界関連な物っぽいが、あっちの世界の物って基本的に人間にとっては有害だよな?

『あ~。どうかな?
魔獣の毒素が長い時間をかけて変化した物・・・?
食べたら人間にとって良い物ではないとは思うが、毒とまで言うかどうかは知らぬな』
アスカが応じた。
まあ、普通の砂だって人間が食べるのには向いていないだろうし大量に食ったら多分死ぬだろうからなぁ。
毒の何らかの反応が魔術回路の働きに影響するっていうのなら片っ端から毒を試していくという手もあるが、特に関係ないなら態々危険な素材を使う必要も無い。

取り敢えず。
適当に手当たり次第に試して、駄目そうだったら諦めるか。


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