304 / 1,309
卒業後
303 星暦553年 緑の月 5日 でっち上げの容疑(3)
しおりを挟む
さて。
この下っ端に悪事をしている自覚がなければ、このまま直ぐに上司に話を持って行くか、もしくは普通に上司とのアポイントメントを取るだろう。
後ろ暗い事をやっていると思っているなら夜になるまで上司に連絡を取らない可能性が高いな。
こんなことに巻き込まれるとは思っていなかったので、今日の服装は下町を歩いてもおかしくないちょっと古い普段着だ。
先程昼食を取った際に、慌てて若い用務員が着るようなつなぎを入手しておいたのだが、それに着替える必要がある。
酒場を出た下っ端を追跡し、第3騎士団本部へ入っていたのを確認した。
そのまま本部入り口の前を通り過ぎて角を曲がり、身体強化の術を使って壁に飛び乗って敷地内の外壁近辺に生えている大木へ飛び移る。
・・・敷地のど真ん中に大木があったら訓練とかに邪魔なのは分かるが、壁から飛び乗れる範囲にこんな便利な大木を残しておくなんてなってないなぁ。
それはともかく。
まずは適当な掃除道具でも拝借して、用務員が日中から掃除をしていそうな場所へ行くふりをして下っ端の側に行っておくか。あの条件を記した紙が人の手に渡れば、下っ端が誰かに今回の依頼について報告したことが分かるのでその紙を追っていけば良い。
だが、出来ればその会話も聞きたい。
こういう時に、相手の服にでも付けられる極小の通信機端末があれば便利なんだがなぁ。
流石にどれだけ短距離用にしても、それなりの重量が必要になってしまうのが問題なのだ。自分で持ち歩く分には苦にはならないが、相手の服に忍び込ませたら重さでばれてしまう。
木の上でつなぎに着替え、掃除道具置き場がありそうな場所へ歩きながら心眼《サイト》で下っ端を観察したが、どうやら自分の部屋に戻ったのか、座り込んで動いていない。
特に誰かとアポイントメントを取った様子もなかったから、夜まで待つのか??
だとしたらこの下っ端も悪事に荷担している自覚があるのか。
特級魔術師を嵌めるような案件となれば、大抵何も知らないカモを数人通して何か起きた場合はそちらに罪を負わせることが多いのだが。
それとも、黒幕はいつも悪事を働いていて、今回は何をやっているのか知らないにしても下っ端レベルですら悪事であると言うことを自覚しているのかな?
どちらにせよ、後でこいつのオフィスと自宅も調べてみた方がいいな。
悪事に荷担している下っ端というのは、賢い場合は上から切られたときの保険用にそれなりの証拠を確保していることも多い。
どうせなら一番上だけでなく関係者全てを一網打尽したい。
◆◆◆◆
結局日が暮れるまで動かなかった下っ端のお陰で、そいつが働く一角の廊下がすっかり綺麗になってしまった。
さすがに午後全てを掃除に過ごすつもりはなかったので、人通りがない間は適当な部屋に忍び込んで暇つぶしに書類に目を通していたのだが・・・。
そう言えば、第3騎士団って軍部の情報収集の部隊だったんだね。
騎士団だから、情報を集めてそれに基づいてスパイや違法取引を行っている商人・貴族を急襲したりといった事が多いのだが、どちらにせよ情報収集が主たる業務だ。
お陰で、王国に関する色々面白い話を読む羽目になった。
後ろ暗い話にはそれなりに精通しているつもりだったが、国が把握している話というのは裏社会が把握しているのとはまた少し違うようだ。
勿論、『今頃こんなことを調べているの?』と思うような裏では『暗黙の了解』的な常識のこともあったり、『おいおい、何を見当違いな結論に達しているんだ』と思うような阿呆な結論に至っている報告書もあったが。
そんなこんなで時間を潰していたら、やっとあの下っ端が条件を記した紙を手に部屋を出た。
俺もモップとバケツを手に持って、さりげなく違うルートで下っ端が向かっていると思われる方向に進む。
どこまで行くのか知らないが、ずっと後ろを用務員が着いてきたら怪しむだろうからな。
まあ、誰かにつけられているなんて夢にも思っていないのか、下っ端は一度も振り返らなかったが。
下っ端は3階のそこそこ偉い奴らがいる一角の部屋に入っていった。
誰かが来ても掃除をしていたかのように見せられるよう、すぐそばの角を曲がったところにバケツを置き、モップを手に下っ端が入っていった部屋の前の扉に忍び寄る。
下手に人よけや探知の結界を張ったら魔術を探知する魔道具に発見される可能性があるので、心眼《サイト》の精度と範囲を広げて辺り一帯に誰かが近づいたら分かるようにした。
これは魔術院に入る前からやっていた奥の手で、魔術ではないから探知されないし、魔術を知らなくても出来るのだが・・・久しぶりにやると頭に鈍い痛みが走る。
少し鈍ってきているかも知れない。
とは言え、足を洗ったはずの職業の技を磨き続ける意味も無い気がするが。
・・・長や学院長とかが頼み事をしてこなければ良いのだ!
そんなことを考えながら耳を澄ませていたら、部屋の中で下っ端の状況説明が終わった。
「何だこれは!」
どうやら条件の紙を渡したらしい。
「その条件を飲まなければ今回の依頼を請けないと相手が主張しているらしく・・・。
どうしましょう?」
がりがりと頭を掻くように部屋の持ち主の手が動いた。
ふむ。
この苛立ちようを見るに、この男にもこの条件を丸呑みする権限はないようだな?
素晴らしい。
この下っ端に悪事をしている自覚がなければ、このまま直ぐに上司に話を持って行くか、もしくは普通に上司とのアポイントメントを取るだろう。
後ろ暗い事をやっていると思っているなら夜になるまで上司に連絡を取らない可能性が高いな。
こんなことに巻き込まれるとは思っていなかったので、今日の服装は下町を歩いてもおかしくないちょっと古い普段着だ。
先程昼食を取った際に、慌てて若い用務員が着るようなつなぎを入手しておいたのだが、それに着替える必要がある。
酒場を出た下っ端を追跡し、第3騎士団本部へ入っていたのを確認した。
そのまま本部入り口の前を通り過ぎて角を曲がり、身体強化の術を使って壁に飛び乗って敷地内の外壁近辺に生えている大木へ飛び移る。
・・・敷地のど真ん中に大木があったら訓練とかに邪魔なのは分かるが、壁から飛び乗れる範囲にこんな便利な大木を残しておくなんてなってないなぁ。
それはともかく。
まずは適当な掃除道具でも拝借して、用務員が日中から掃除をしていそうな場所へ行くふりをして下っ端の側に行っておくか。あの条件を記した紙が人の手に渡れば、下っ端が誰かに今回の依頼について報告したことが分かるのでその紙を追っていけば良い。
だが、出来ればその会話も聞きたい。
こういう時に、相手の服にでも付けられる極小の通信機端末があれば便利なんだがなぁ。
流石にどれだけ短距離用にしても、それなりの重量が必要になってしまうのが問題なのだ。自分で持ち歩く分には苦にはならないが、相手の服に忍び込ませたら重さでばれてしまう。
木の上でつなぎに着替え、掃除道具置き場がありそうな場所へ歩きながら心眼《サイト》で下っ端を観察したが、どうやら自分の部屋に戻ったのか、座り込んで動いていない。
特に誰かとアポイントメントを取った様子もなかったから、夜まで待つのか??
だとしたらこの下っ端も悪事に荷担している自覚があるのか。
特級魔術師を嵌めるような案件となれば、大抵何も知らないカモを数人通して何か起きた場合はそちらに罪を負わせることが多いのだが。
それとも、黒幕はいつも悪事を働いていて、今回は何をやっているのか知らないにしても下っ端レベルですら悪事であると言うことを自覚しているのかな?
どちらにせよ、後でこいつのオフィスと自宅も調べてみた方がいいな。
悪事に荷担している下っ端というのは、賢い場合は上から切られたときの保険用にそれなりの証拠を確保していることも多い。
どうせなら一番上だけでなく関係者全てを一網打尽したい。
◆◆◆◆
結局日が暮れるまで動かなかった下っ端のお陰で、そいつが働く一角の廊下がすっかり綺麗になってしまった。
さすがに午後全てを掃除に過ごすつもりはなかったので、人通りがない間は適当な部屋に忍び込んで暇つぶしに書類に目を通していたのだが・・・。
そう言えば、第3騎士団って軍部の情報収集の部隊だったんだね。
騎士団だから、情報を集めてそれに基づいてスパイや違法取引を行っている商人・貴族を急襲したりといった事が多いのだが、どちらにせよ情報収集が主たる業務だ。
お陰で、王国に関する色々面白い話を読む羽目になった。
後ろ暗い話にはそれなりに精通しているつもりだったが、国が把握している話というのは裏社会が把握しているのとはまた少し違うようだ。
勿論、『今頃こんなことを調べているの?』と思うような裏では『暗黙の了解』的な常識のこともあったり、『おいおい、何を見当違いな結論に達しているんだ』と思うような阿呆な結論に至っている報告書もあったが。
そんなこんなで時間を潰していたら、やっとあの下っ端が条件を記した紙を手に部屋を出た。
俺もモップとバケツを手に持って、さりげなく違うルートで下っ端が向かっていると思われる方向に進む。
どこまで行くのか知らないが、ずっと後ろを用務員が着いてきたら怪しむだろうからな。
まあ、誰かにつけられているなんて夢にも思っていないのか、下っ端は一度も振り返らなかったが。
下っ端は3階のそこそこ偉い奴らがいる一角の部屋に入っていった。
誰かが来ても掃除をしていたかのように見せられるよう、すぐそばの角を曲がったところにバケツを置き、モップを手に下っ端が入っていった部屋の前の扉に忍び寄る。
下手に人よけや探知の結界を張ったら魔術を探知する魔道具に発見される可能性があるので、心眼《サイト》の精度と範囲を広げて辺り一帯に誰かが近づいたら分かるようにした。
これは魔術院に入る前からやっていた奥の手で、魔術ではないから探知されないし、魔術を知らなくても出来るのだが・・・久しぶりにやると頭に鈍い痛みが走る。
少し鈍ってきているかも知れない。
とは言え、足を洗ったはずの職業の技を磨き続ける意味も無い気がするが。
・・・長や学院長とかが頼み事をしてこなければ良いのだ!
そんなことを考えながら耳を澄ませていたら、部屋の中で下っ端の状況説明が終わった。
「何だこれは!」
どうやら条件の紙を渡したらしい。
「その条件を飲まなければ今回の依頼を請けないと相手が主張しているらしく・・・。
どうしましょう?」
がりがりと頭を掻くように部屋の持ち主の手が動いた。
ふむ。
この苛立ちようを見るに、この男にもこの条件を丸呑みする権限はないようだな?
素晴らしい。
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる