シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1013 星暦558年 藤の月 15日 棚以外にも使えるよね?(10)

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「新しく作ったあのオモチャ、中々良かったけど今度は赤ちゃんがそもそも泣き出さない様にオシッコやウンチをしたらそれを勝手に綺麗にする魔具は作れないかしら~だって」
幾つか試作品を造り、それを従姉妹の所に持って行ったシャルロが更なる要望を持って帰って来た。

取り敢えず今回の赤ちゃん用じゃらし(?)は魔石を使わない上に本体の構造が単純なことから魔具としては比較的安価に作れそうだし、平民の家庭でも働いている母親が手を離さずに赤ちゃんをあやせるということで需要は沢山ありそうだとシェフィート商会ではかなり本腰を入れて売り出すことにしたらしい。

なんかあそこも売り出す物の種類が幅広いよなぁ。
今回はアレクの長兄の奥さんが何やら感激したらしくて製造・販売に参加したいと言い出したそうで、アレクの母親に補助してもらいながら色々と頑張っているとアレクが言っていた。

あそこはアレクの言葉から察する感じ、母親の押しの強さに嫁が負けて微妙に引っ込んでいる印象だが、将来的なことを考えるとアレクの世代で女性が上層部にいないのはそれはそれで問題だろうから、セビウス氏次男やアレクが商会でガンガン働くような女性とさっさと結婚するつもりが無いんだったらアリサ夫人長男の妻がやる気を出したのは良い事なんじゃないかな?

それはさておき。
「オシッコやウンチが勝手に消えるような魔具なんぞ、無いだろ」
物が消える魔具なんて存在しない。
ゴミを放り込んだらさっさと燃やし尽くすなり水分を吸いだすことで嵩を減らして捨てやすくするゴミ箱ぐらいだったら造れないことは無いかも知れないが、赤ちゃんの肌に着ける物でそれは危険すぎる。

「だよねぇ」
ちょっと困ったようにシャルロがため息を吐いた。

「水分を吸収する魔具は作れないことは無いかも知れないが、そんな物を身に着けたら赤ちゃんの肌がガビガビに乾いてしまって大変なことになるぞ」
アレクが指摘する。

確かに。
人間の肌って適度に湿っている必要があるんだから、それをオシッコと一緒に乾かしたらヤバいだろう。
赤ちゃんの肌なんて敏感《やわ》だろうし。

「それに、水分を乾かしたってオシッコの成分が肌に残ったら却って肌が荒れて大変なことにならないか?」
黄色いのだ。
どう考えてもオシッコは純水ではないんだから、水分を吸収して無理やり乾かしたところで、排泄された体の不要物がお尻の肌の上に残る筈。
それだと汗疹みたいな感じになって肌が荒れるんじゃ無いか?

「それこそ、暖かい部屋で裸にして美顔用魔具の結界の中に寝かせておけば汚れもそのうち消えると思うけど、ずっと裸で過ごすのって赤ちゃんの為に良いのか分からないからね~」
シャルロが何とも贅沢な提案をした。

起動させた魔具の中で裸で寝かせるって・・・。
確かにオシッコの汚れもそのうち魔具の機能で綺麗に洗浄されるし赤ちゃんの肌も艶々のもちもちになるかもだが・・・魔石の使用量が半端ない事になるだろ。
それに母親とかメイドとか、周囲の女性が一緒に美顔用魔具の結界の中に入ろうと喧嘩しそうだし。

「何事もやりすぎって言うのは良くないことが多いから、あの美顔用魔具の結界の中にずっと赤ちゃんを寝かせておくのもあまり良くないと思うぞ?」
アレクが微妙な顔で言った。

良くないだろうし、まず不可能だろう。

「吸水力の高いふかふかなタオルをパンツの中に入れておいて、泣いたらそれを取り換えるのが一番手っ取り早いんじゃないか?」
まあ母親的には泣きだして欲しくないから、不快感を生じさせない様にオシッコが出たら魔具で即座に綺麗にしたいってことなんだろうが。
流石にそれは無理だろう。

「魔具で凄い事をするとなったら、無理やり水分を吸収して乾かしちゃった後に絨毯の清掃用魔具みたいので埃の代わりに肌に着いた汚れを吸着させて落とすってところかな?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言う。

「いや、絨毯用清掃具はブラシでゴミや埃を一度絨毯から離して、どこにも付着していない物を除去って感じだっただろう?
赤ちゃんの場合は汚れをまず肌から離さないとダメだから、それだったら普通に洗うなり濡れタオルで拭いた方が良い」
アレクが問題点を指摘した。

考えてみたら寝転がった体勢でウンチをしたらべっとりお尻に便が張り付いているよな。
その状態で便だけを除去する魔具なんぞ、マジで無理だろう。

そう考えると、赤ちゃんのおしめ交換って中々大変な作業だな。
しかも一日2、3回だけって訳じゃなくって適当に垂れ流しているんだろうし。

どうりで金がある連中が乳母を雇う訳だ。

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