シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1070 星暦558年 紺の月 6日 例年の時期と言えるかも(7)

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「いや、いい。
本国用とジルダスの領事館用の転移箱は既にあるんだ。
単にパストン島の住民の手紙を郵送屋へ毎日持って行く手配に含めて貰う根回しをしなきゃいけないだけなんで、可変式?転移箱はあったら便利だが現時点で必要はないからな」
お代わりの肉を皿に取りながらジャレットが言った。

まあ、確かにジルダスの領事館とは色々とやり取りがありそうだよなぁ。
通信機だけでのやり取りするより、書類を送ってそれを見ながら話し合う方が分かりやすいし誤解も少ない。
そう考えるとあっちとの転移箱があるのは当然か。

「そう言えば、この島に転移門を設置する話は無いのか?」
ふと気になって尋ねる。

まあ、屋敷船があるんだから気分転換も兼ねて船で来るのは悪くは無いが、もしもの時に島からジルダスまででもさっと移動できる方が良い気もする。

とは言っても非常時に島の全人口を転移門で移動させるのは魔力的に無理だから、非常時用にはあまり役に立たないかな?
ジャレットは他の皆を置いて自分一人逃げるような人間じゃないし・・・ある意味、そう言う部下や頼っている人間をさっさと見捨てて逃げる人間だったらそいつは一番最初に死ねって感じだし。

魔術院の魔術師たちがちょっと団体で遊びに来ている時に偶然何かが起きたって言うならそれなりの人数を避難させられるかも知れないが、魔術師が団体でいるなら大抵のことは対応できる可能性が高いから逃げる必要はない。

まあ、魔術師ってそこまで協調性が高くないから団体で遊びになんぞ来る可能性はあまり高くないけど。

魔術学院での同期の集まりとかだったらまだしも、若いのから年寄りまでみんな一緒にって言うのはまず無さそうだからなぁ。
色んな発表があるしタダ飯も提供する毎年の総会ですら魔術院のメンバーである魔術師を集めるのに苦労するってアンディが言っていた。


「あったら便利だから、個人的に売ろうか?」
シャルロが提案する。
お人好しだよね~。

「いやいやいや。
お前らから個人的に魔具を入手できるなんて噂が流れたら、本国のお偉いさんから要らん圧力を掛けられるから冗談じゃない」
ぶんぶんとジャレットが首を横に振った。

うん?
「なんだって本国のお偉いさんから圧力??」
俺たちの魔具って言ったら・・・毒探知が出来る過敏《アレルギー》体質安全用魔具でも欲しがるのか?

「去年、防衛設備の設置に色々と手伝ってくれただろ?
それを報告の際に言ったら上司の上司から美顔用魔具を入手できないか?!って物凄い圧を掛けられたんだ」
ジャレットが顔をしかめる。

おお~。
お偉いさんの妻かぁ。
今でもまだ貴族間で普及し切っていないのか?
まあ、去年だったらまだ品薄だったかも。

それに考えてみたらジャレットの上司の上司って言ってもそこまで偉い貴族じゃあないかもだしな。
王宮内の上下関係って貴族の爵位や資金力とは必ずしも比例していないらしいからな。

というか、王宮内の役職を利用して懐を温めている奴はいるだろうが、真面な人間だったらあまり余剰の金は無いのかも?
そう言う人間だったらある意味魔具を優先販売したい気もするが、まあ変な贔屓は却って要らん嫉妬を買いそうだし、首を突っ込まないのが一番だろう。

「美顔用魔具が無くても、サウナとかも肌に良いって話だよ。
お風呂に入るのも良いんだけど、ここだとちょっと暑そうだからサウナと水風呂なんかの方が入りやすいかも?」
シャルロがのほほんと提案した。

最近、魔術学院の温泉の所に教員の一人がサウナを設置したんだが、あれって中々良いんだよね。
風呂に入るのも気持ち良いんだが、サウナと水風呂を繰り返す方が時間を掛けられるから肌がしっとりする感じ?

喉は渇くが。

「サウナ??」
ジャレットがちょっと怪訝そうな顔をした。

「ああ、ジルダスの街でも人気って話じゃない。
あちらに遊びに行った人が良いわよ~~って言っていたからこっちにも作ってみたら良いかも?」
キャリーナが手を叩きながら言った。

ああ、あれってもしかしてジルダスから流れて来た慣習なのか?
湯を沸かしてお風呂に入るよりも石を焼いて水をかけて湯気を出し、後で体を水で流す方が水も燃料も必要量が少なそうだから水も木材も少ないジルダスには向いていそうだ。

パストン島はどちらも少ない訳じゃあないけど、暖かい気候的にあまり風呂に入ろうという気が起きなそうだから、良いんじゃないかな?

シャワーだけだと肌の汚れがしっかり落ちなそうだし、時折サウナでしっかり汚れを浮かして落とすと良いだろう。
多分。

と言うか、美顔用魔具を欲しがったのは本国に居るジャレットの上司の上司って話だから、パストン島でサウナを設置してもあまり意味はないと思うけどね。

・・・サウナ用セットみたいのを作ってシェイラの所に持って行こうかな?
シェイラ本人は定期的に宿でお金を払って湯につかっているらしいが、他の連中はおざなりにシャワーで済ましているだけらしいから。

まあ、男の肌なんぞ別に表面的な汚れさえ落ちてればいい気もするが。
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