シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
338 / 1,309
卒業後

337 星暦553年 黄の月 11日 ちょっと趣味に偏った依頼(19)

しおりを挟む
「あのデルバンってどんな奴なんだ?
学者と言うよりはどっかの商会の若者みたいに見えたが」
目的の巨樹に向いながら空を進んでいたら、何気ない風に聞いてみた。

あのデルバンって一般的な浮世離れした学者とは違って見えた。
シェイラも浮世離れしていないから、もしかしたら同じような商会出身の人間なのかな?

「もの凄く意外だと思うけど、実はあれでも軍閥の家系の変わり種なのよ。
まあ、興味の方向性が文明の推移に対する軍事的な影響というところが実家の影響かも知れないけど。
このフォラスタ文明は分からないことが多かったんだけど、ほぼ全く荒らされない遺跡が発見されたということで軍事的な面なことも分かるかも、ということで参加を頼み込んだみたいね」
シェイラが軽く笑いながら答えた。

軍事的な影響ねぇ。
まあ、確かに他の文化圏の国なり集落なりと争っていたら人材も資源もそちらにさかれて、文明そのものの発展も歪むだろうし、場合によっては立ちゆかなくなることもあるだろう。

文化の盛衰に軍事的な側面も大きな影響力を及ぼしていそうだ。

「随分と仲が良さげだったな。大学院では一緒に研究とかしていたのか?」
何か、ついつい問い詰めるような口調で尋ねてしまう。
いや。
自分は単にちょっと好奇心を感じているだけなんだよ?

尋問するつもりは無いんだが。

シェイラが肩を竦めた。
「まあ、大学院にいるのも要は学者の卵達だからねぇ。
それなりに浮世離れしたタイプが多かったから、それとは少し違うタイプの私とかデルバンはそれなりに話が合って一緒に居ることが多かったかもね」

ふ~ん。
話が合ったんだ。

・・・何か、恋人の浮気を疑う焼き餅焼きな男のような思考になっている気がするぞ。
どうしたんだ、ウィル??

シェイラはちょっと気があった程度で、別に彼女に仲の良い知り合いや同僚が居たってお前には関係ないじゃ無いか。

「ウィル達もそんな感じだったの?」
自分のモヤモヤした変な思考回路に混乱していたら、シェイラが何か尋ねてきた。

「はん?何が?」

「ウィルやアレクやシャルロも、一般的な魔術師の卵達と違ったから魔術学院で仲良くなったのかな?って思ったんだけど、そうだったの?」
シェイラが質問を説明してきた。

ふむ。
俺たちが他の連中とそれ程違ったとは思わなかったが・・・。
まあ、確かに多少は毛色が違ったかも知れないな。

「魔術師っていうのは学者と違って興味では無く、特定の能力を持っていたらそれを鍛えて魔術師になるか、封じるかのどちらだからな。
学者の世界ほど、均一的では無いと思うぞ。
でもまあ、確かに俺たちは3人とも標準的な生徒のタイプからは外れていたのは事実だな。
標準外同士で仲良くしようって付き合った訳では無いけど、お互い考え方が周りとちょっと他と違う人間だったから、魔道具開発で生計を立てよう何てちょっと変わった事業計画を一緒に実行できたのかも知れない」
まあ、俺やシャルロには『事業計画』と言うほど、論理的な計画は無かったけど。

「事業計画??
商会が新しいビジネスを展開したり、店舗を開く際に事業計画を提出して上部で話し合うっていうのは良くあることだけど、魔術師にもそんな物があるの?」
シェイラが聞いてきた。

そうなんだ。
事業計画って商会の常識なんだな。
「俺とシャルロは適当に新しい魔道具を開発できたら良いな~と考えていただけだった。だからアレクがちゃんと色々な状況を想定した資金計画表を含めた事業計画を俺たちに見せたときには、思わず目が点になったんだよね。
それのお陰で『今年は予算到達したから後は遊ぼう』と決められたんだぜ?
無理に働き過ぎなくて済むから、あの事業計画はなかなかの優れモノだな」

シェイラが笑い転げて、こちらに寄りかかってきた。
おっと。
手を繋ぐ以上に近いコンタクトにちょっとドキッとする。

「あははは。
アレクの事業計画のお陰で、今回の指名依頼を請けてくれたの??
アレク様様ね!」

「まあな。
今年は沈没船を見つけるなんてラッキーな事があったから、資金が潤沢だったんだよね」

ぐっとシェイラの手を握る力の力が強まった。
「沈没船??!!
いつの????」

相変わらずだなぁ・・・。
でも、そんなところが面白いんだよね。
変な男も現れたことだし、ちょっとシェイラに対する微妙に不思議な感情を、もう少し良く考えてみるか。


しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...