シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1078 星暦558年 紺の月 15日 裏からの依頼

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学院長と夏の予定を話しあい、次の開発をどうするか次の休息日まで適当に各々でアイディアを集めようと言うことになって気分転換に久しぶりにナイフを打っていたら、後ろから人が近づいてきたのでハンマーを置いて振り返った。

アレクもシャルロも実家や親戚の家にアイディア探しも兼ねて遊び(?)に行っている。
パディン夫人は台所で何やら焼き菓子を作っているので、近づいてくるのは家の人間ではない。

近所のおっちゃんにしては足音が妙な感じに大きいし。
敢えて音を立てている様に聞こえる。
そう、忍び足で歩くのが習慣な俺が、『近づいてるぜ~』と知らせるために態と足音を立てる時と似たような感じだ。

・・・最近は裏社会から呼び出されるようなことをしていない筈なんだが。
あの毒探知に使える過敏《アレルギー》体質安全用魔具はちょっとヤバいかと思ったけど、盗賊《シーフ》ギルドの長は問題ないって言っていたし。

「門の外に落ちていたので拾いましたよ」
俺が振り返っているのに気付いた男が、声を上げて左手の手袋を見せてくれた。
あらま。
あれって多分、薬指に穴のあいているんだろうなぁ。

なんだって今頃呼び出しを食らうんだ?
何か特殊な依頼でもあるんかね。

面倒だが・・・ギルドとの縁を切るのは危険かも知れないから、一応御用聞きに行ってくるか。

「ありがとう。
いつの間に落としたのか、気付かなかったよ」
立ち上がって男から手袋を受け取る。
やはり薬指に穴が開いていた。

取り敢えず、ナイフを作り終えて昼食を食べ、軽く昼寝をした後に行けばいいかな?

◆◆◆◆

「何か起きたんです?」
適当に長の使う隠し家を回り、3か所目で長を見つけたのでいつも通り忍び込んで顔を出したら普通にワインを片手に長が仕事をしていた。

特にキリキリした様子は無いが、長はあまり感情が顔に出るタイプではないからなぁ。

「良く来た、久しぶり。
ちょっと幽霊《ゴースト》に依頼が来ていてね」
書類を横に退けながら長が言った。

おいおい。
「幽霊《ゴースト》は引退したんですけど」
魔術師の方が安全に金を稼げるからね。
最近は金に困っていないし。

「お前さんたちの売り出した過敏《アレルギー》体質安全用魔具をなんだかんだ理由を付けて入手した貴族たちが家でそれを使うようになって、家族や親族による毒殺が上手くいかなくなったらしい。
お蔭で新しいタイプの複合毒が東大陸の方から入って来たんだが・・・それを持ち込んできた連中が、複合毒の扱いは難しいから素人には使えないと言い張って暗殺を請け負うようになった」
俺の言葉を聞き流して長が続ける。

あ~。
やっぱ複合毒が入って来たかぁ。
確かにあれって扱いが面倒だ(というか毒性を保ったまま保存するのが難しいらしい)から、素人が使うとうっかり自分まで毒に冒されるか、無害になっちまった毒を使って『偽物をつかまされた!!』とクレームをつけることになるかの二択が多いとゼブが言っていたな。

「毒なんて使わないのが一番だと思いま~す」
ちょっとふざけた様に応じる。
真面目に暗殺の事を裏社会の人間と論じてもしょうがないし。

「まあ、確かに毒なんぞは使っても良い事は無いと俺も思うが、手段としては常に存在していた。
素人が使う分には別に構わないんだが、扱いが難しい毒となると色々と事故が起きやすい上に、そう言う物の管理が得意だった販売ルートの業者の主なところが幾つも潰されたからね。
ちょっとした空洞が出来ていたところに新しい商品と技能を合わせてよそ者が売り込んできた訳だ」
よそ者、ねぇ。

「ある意味欲をかいた人間によって殺される奴の数っていうのはいつになっても大して変わらない定めって事でしょう」
ちょっと便利な道具があったところで、それをすり抜ける手段を見つける奴が絶対に出て来るから、死者の減少は一時的になる。

「まあ、そうなんだが。
暗殺《アサッシン》ギルドとしてはそこまで哲学的に捉えるつもりはない様でな。
自分達で手引きした連中を皆殺しにしても良いんだが、どうせだったら悪事をばらして国に取り締まらせる方が良いだろうと言う結論になったらしい。
と言うことで、手引きをしている貴族の家に忍び込んで証拠書類を盗んで、信頼できる国の人間に渡して欲しいそうだ。
勿論報酬は払うと言っているぞ?」
ぴらっと数字の書かれた紙を俺に見せながら長が言った。

なるほど。
新しく暗殺業者の取りまとめ役に名乗り出た貴族を殺すだけじゃあまた誰かが出て来るし、東大陸の連中を皆殺しにして全面戦争にするのも微妙と言うところなのか。
まとめ役が分かっているんだったら証拠書類の入手は別に難しくないだろうが、それを国の適切な人間に渡し、そいつにその証拠書類を信頼してもらう必要があるから俺を使うことにしたって訳か。

「東大陸にはちょくちょく遊びに行くんで、俺が関与したってバレない様にするのも条件の一つにしてくれ」
ケッパッサはもう暫く行く予定は無いが・・・パストン島の浮浪児連中の関係とかで行く羽目になる可能性がゼロとは言えないからな。

顔を出したら抹殺!なんて感じな賞金首にされては困る。

「当然だ」
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