シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1108 星暦558年 青の月 1日 創水の魔術回路(12)

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「シェイラがこの補給機能付き水筒って疫病発生時なんかに使うと良いんじゃない?って」

工房でいつもの朝食後のお茶を一杯淹れながら、シャルロとアレクに伝える。

「ふむ。
直接回し飲みしたら危険だろうが、コップが各個人ごとにある場合だったら水を注ぐだけという使い方をする分には確かに良いかもだな」
アレクが頷いた。

「災害時なんかの避難先でも水を持って行く手間が省けて良いかもね~」
シャルロが付け加える。
引退した老人魔術師でも1人居れば水の確保はそれ程難しくないのだが、災害時だと災害対策の方の対処に駆り出されていて、避難している人間の傍には居ない可能性が高いから水を確保する手段があれば持って行かなくて済むのは助かるだろう。
時間を掛ければスープとかを作るのにも役に立つから炊き出しを始められるし。

水って運びにくい上に重いからなぁ。
スラムにいたガキの頃はそれなりに水の確保には苦労した。
下手に塒に近くて便利なところにある井戸をいつも使っていると、待ち伏せされかねないからな。
かと言って遠い不便な井戸に行くと持って帰るのが大変だし、苦労して持って帰っても3日程度で無くなるか・・・季節によっては飲むと腹が変になったし。

近所の店や家から拝借するのも水の安全性が分からないから却って危険な場合もあった。
というか、店の飲み水を盗むと捕まった場合に水を汲む役割の下っ端からそれなりな報復受けるしな。
孤児院を出たばかりで稼ぐ方法も分かって居なかった頃は、残飯をくすねるのを見逃してくれなくなったら下手をするとそっちの方が痛かった。

魔術学院で創水の術を習った時に、『こんなに簡単ならスラム時代にこれが出来たらどれ程助かったことか!!』と密かに地団駄ふんだものだ。


「とは言え、災害時と言っても山火事とかの避難だったら抽水するのが大変かもだし、疫病時も周囲が乾燥している可能性はあるから確実に活用できるとは限らない。
変に期待値を上げない様に可能性の提案程度にしておく方が良いな。
というか、まだ誰が準備しておくのかの問題もあるし」
アレクがお茶を注ぎながら首を傾けた。

「そう言えば、試作品の大量使用のテストはいつぐらいに出来そうなんだ?」
金を追加で出せば休息日でも働いてくれる工房もそれなりにあるが、そこまで急ぐ必要があるとシェフィート商会が判断したのかね?

「あと2日か3日は掛かるんじゃないか?
それにあちこちのルートに行く行商担当にも持たせてどういう状況だと使用に問題があるか確かめたいと言っていたから、軍用の集団使用のテストまでにはまだ暫く掛かるかもだな」
アレクが言った。

「水道が無いような井戸から飲み水を汲まなきゃいけない家庭なんかでも有り難く思われるだろうが、そう言う不便なところに住んでいる連中がちょっと楽をする為に魔具を買えるとは思えないから・・・そう考えると、この水筒って通常使用としては行商人と遠出が好きな暇人と、もしかしたら軍人しか販売先はない?」

便利な魔具だと思ったんだけどなぁ。

「まあ、考えようによっては変な混入物を心配しなくて良い飲み水を手軽に入手できるってことで貴族とかにはありがたられるかも?
王宮で働いている貴族とかってそれなりにドキドキしながら水を飲んでるかもだし」
シャルロが指摘した。

「王宮で毒なんぞ盛るか?
バレたらヤバいだろうに」
誰かが倒れたり死んだりしたらヤバい病気か?!ってことでかなり本格的にプロが調べるだろうし、犯人を特定しにくい様に不特定多数っぽく多数に毒を盛ろうとしてヤバい伝染病かと誤解されて王宮の閉鎖みたいなことが起きたら、王宮から業務時間中に追い出されたせいで残業時間が激増した文官たちから一族全部が二度と王都で働けなくなる位な報復を受けそうだ。

「重要な会議の前にちょっと腹下しの下剤を盛ったりするのは良くある足の引っ張り合いの一環らしいぞ?
用心して保存食っぽいのを持って行って当日はそれしか口にしなくても、水は飲まないと下手すると倒れるからな。
水が入った水筒を持ち歩いて仕事するのは中々重くて邪魔だろうし、そう考えるとその場で水を出して飲む方が安心そうだ」
アレクが教えてくれた。

うわ~。
同僚を蹴り落として上に行こうとする連中ってそこまでするんだ・・・?

気軽な自営業ちっくな魔術師で良かったぜ。
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