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第1章 開拓村と死霊術師

第11話 最良の交渉術

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――端的に言って、死霊術師にとって、逆恨みは割と慣れっこなことである。

そもそもの死霊術という魔術そのものが、周囲の神の加護を薄くすると知られており。
そのせいで、死霊術師が存在するというだけで、ありとあらゆる不幸が死霊術のせいにされるのは、良くある話だからだ。

例えば、ある日お腹を壊したときや、怪我の直りが遅いとき。
親や子が流行り病で亡くなったときや、いつもよりも狩りの調子がうまくいかなかったとき。
農家が麦の収穫量が低いときや、旅の途中で野性のゴブリンに襲われたとき。
何なら地震や台風、悪性ダンジョン出没といった大災害まで。

ありとあらゆる不幸を、感情のはけ口として、死霊術師のせいにするのは、ある意味では人間が感情を持つ生き物である限り、避けられない問題なのだ。

「ま、これに関してはお互い不幸だったね」

「……」

だからこそ、今回の救出劇。
そこで起きた悲劇により、目の前にいる少女が、私を逆恨みをすることになってしまった。
が、その事に関して、私はそこまでイラつきはしなかったし、むしろ同情すらしているのだ。
幼いのに肉親を失った悲しさや、それにまつわる悲劇。
それらは、幼い少女が一晩で飲み込めるようなものではないだろうし、見当違いとはいえ、自分に負の感情をぶつけてしまうのは仕方がないことだと思う。

「でも、君は生き残ったんだよ!
 君のお父さんの勇気と献身のおかげで!
 だからこそ、その思いを無駄にしないためにも!
 そして、その勇者である君のお父さんを供養しなきゃいけない、そうだろ?」

「……」

「……え、えっと、その。
 ここはゾンビさん達がいるとはいえ、まだまだ危険ですので。
 あの……非難を……」

「……もう私はほっといてください。
 私はこの先、生き残っても邪魔になるだけです。
 それに、お父さんがいない世界なんて、もう、私には……」

でもさすがに、父の死に方が悪かったからと言って、拗ねてこちらの言う事を無視するのはどうかと思う。
ヴァルターやベネちゃんは、そんな彼女を真剣に心配しており、そのために一緒に来るように声をかけ、その心を解きほぐそうとしている。
が、結果は無駄。
彼女の受けた心理的ショックと頑固さは、相当のもののようだ。

「でもま、だからと言って放置するわけにもいかないんだよね。
 な冒険者として」

「……!!」

ならば仕方なしと、右手にわかりやすく紫電状に魔力を貯めて、頑固な彼女に見せつける
今まで怒りと悲しみを混ぜたかのような彼女の顔に、ようやく変化が現れる。

「……そうだよ、こちとら死霊術師。
 子供を見殺しにしたなんて、報告をしたら、それだけで悪評はうなぎのぼり。
 だから、たとえ無茶をしても、あなたには私達についてきてもらうよ」

「……っ!!」

悪評が付きやすい死霊術師。
だからこそ、我々な死霊術師は、過程よりも結果を重視するのだ。
圧倒的な成功を持って、死霊術という最低な過程を肯定する。
それがネクロマンサーという魔術師の生き方なのだ。

「まぁ、今回のこれは、あなたが私たちの言う事を素直に聞かなかったから。
 だから、あなたにはこの罰を受けてもらう!」

「………!!」

そして、おびえた表情でこちらを見る彼女の目の前で、私はその右手にため込んだ魔力と魔術を開放し、死霊術師の禁忌を犯す。



「というわけで、私たちの代わりに、説得のほうをお願いしますよ。
 お父さん」

『あ、あれ?私は確か吸血鬼になって……。
 あれ?何で体が透けて、え、え?』

「ぱ、パパァァァァァァ!!!!!!!!!」

かくして、私はこのわからずやの説得のため、昨晩死んだばかりの彼女の父の霊魂を【幽霊】として召喚。
彼女の死んだ父の幽霊に、彼女の説得を任せるのでした。

☆★☆★

「やだぁあああ!!パパがいなきゃ次の村いかないぃぃぃ!!
 パパも一緒についてきてよぉぉ!!」

『う、う~ん。パパもそうしてやりたいのも山々なんだが……
 でも、パパはもう死んじゃってるからなぁ。
 というか、もうちょっと反抗期じゃなかったか?』

「だって、それはパパが、ママがいながら他の女性とも付き合っていたから。
 しかも、それが実は村公認だったとか、年頃の娘にはめっちゃきつかったんだけど」

『ごめんなさい』

思ったより難航している交霊術による説得を尻目に、私は残る2人の元吸血鬼も降霊。
その霊魂相手に、面談、あるいは被害者たちのの最後の会話という名の説得をさせることにしたのだ。

「で、君のほうはいいの?」

『あ、俺は大丈夫っす。
 連れてきた子供たちと俺は、あんまりつながりないんっすよね。
 俺が、死ぬ前の契約であの子たちを保護した理由も、どうせ死ぬならって、かっこつけたかっただけっすし』

むしろそっちの方がかっこいいのでは?
ともかく、幸いにも降霊させた幽霊のうち一匹は、どうやら被害者の子供たちとはそこまで深い関係ではなかったらしい。
おかげで彼相手には、存分に村で起こった出来事について、事情徴収を行うことができた。

「つまりはまだ、村に生き残りが残っているかもと」

『まぁ、可能性としては?
 そもそも吸血鬼って同族の血はそこまで沢山は飲めないらしいっす。
 そのせいで、未だ生きた人間が【血袋】っていう餌扱いであの村には生きたままとらえられてるのは覚えてるっす。
 たしか、餌用の部屋に女と子供ばかり集められていたはずっす!』

そして、彼から聞くにどうやらストロング村がほとんど絶滅したのは間違いないが、それでも未だ生き残りはいるそうだ。
もっともそれは、あくまで吸血鬼の餌として、人の尊厳とやらが捨てられた状態での生存であるため、無事であるとは言い難いが……。
それでも、まったく希望がないわけではなさそうだ。

『やっぱり、俺としてはできれば俺たちの村と人質解放。
 それと死んでしまった村のみんなの供養してほしいんっすが……お願いできるっすか?』

「今すぐとはいかないけど、前向きに検討はする。
 そもそも隣村だから、放置するわけにもいかないし」

『おお!ありがたいっす!
 ありがとうっす!』

「でもその時は、君に道案内とかの協力してもらうけど……。
 それで構わないよね?」

『あ!もちろん構わないっす!
 ……あ~、でも、ちょっと聞きたいことが……』

その幽霊は、最初は力強く返事をしたが、何かを思い出したのか頬をかきつつ、こちらに質問をした。

『あの……確か死霊術師に使役される幽霊って、確か死後、天の国じゃなくて、地獄に堕ちるって聞いたんっすが、あれってホントっすか?
 いやまぁ、子供たちや他の村のみんなの供養をできるんなら、その位の我慢できるんっすが……』

「あぁ、それに関しては安心して。
 こちとら、聖職者との兼業死霊術師だから。
 事が終わったら、君の供養や葬式はちゃんとやるつもりだよ。
 それに、君達が吸血鬼になったことによる魂の汚れはすでに洗浄済みだし。
 ほら、これが証拠の聖印、少なくとも君たちを地獄行には絶対にしないから」

なお、この世界において、死霊やらゾンビになることは、基本的にあまりよくないこととされている。
それこそ長く魂が死霊を続けていると、魂が汚れ、精神が損耗。
更には悪逆にまで染まった死霊の魂は、天の国には行けず、邪神の元へとひきつけられやすくなるとされているのだ。

『え、あ、おぉ~!!
 ほ、本当っすか姐御!いや~~よかった~~!!死んだ後吸血鬼になって神様の事けっこう罵倒しちゃったんすよね~!!
 だからん本当に感謝っす!むしろ一生ついていくっす!』

「いや、そこは頃合いを見て成仏してもらうつもりだから。
 一生はむしろ困る」

まぁ、でも一応こちとら魔導学園出身の善良な死霊術師なのだ。
きちんと手懐けた魂もキャッチ&リリースの精神は忘れずに。
あくまで善良な人間の魂の力を借りるときは、一時的を心掛けて!
え?ゴブリンの魂?魔物の魂は邪神の元に行かないように、存分に使いつぶす所存です。

「まぁ、そういうわけで、次に君たちの村に行くその時まで君には休んでいてもらうよ。
 というわけで、この中に入って、休んどいてくれ」

『えっと、これは?』

「封魂筒。まぁ、ちょっとした死霊用の持ち運び棺桶みたいなもんだから」

この協力的な死霊を持ち運びの筒の中へと回収し、一息つく。
そして、自分がこの死霊との交渉を行った頃合いに、ちょうどほかのメンツの交渉もひと段落したようだ。
一組は幽霊として蘇った家族との最後の別れ話を済ませ、もう一組の子供たちはヴァルター達の熱い説得により、大分正気を取り戻していた。
そして最後の、やけにこちらを敵視していたあの女の子と彼女の父との会話も終わったようだ。
彼女は相変わらず、こちらを見る眼はややきついが、それでも大部正気が戻っているのが眼に見えてわかる。

「……というわけで、非常~~に不本意ですが、あなた達のおかげで、お父さんとも会話できました。
 そして、私達が真にあなた達に救われたことに一応の心の区切りができました」

「だから、改めてお礼を言います。
 お姉さん達、こんな私達を助けてくれて、ありがとうございます!」

彼女は頭を下げてこちらに礼を言い、その横で彼女の父である霊がうんうんとうなずいている。

「で、も!
 私個人としては、まだまだ納得できていません!
 そもそも、なんで私とお父さんがこんな目に合うのか!
 そして、これでお父さんとお別れにならなきゃいけないということが……」

「だから、誠に勝手ながら!そこの死霊術師のお姉さんにお願いがあります!
 どうか私に死霊術を教えてください!
 私はまだ、お父さんと別れたくない!
 だからそのために、どうか私の魔法の師匠になってください!」

かくしてその少女は、洞窟に床に頭を擦り付けて、私にそう宣言するのであった。



「いや、普通に私利私欲による、身内の蘇生や降霊とか。
 一般善性死霊術師の倫理的に、タブー中のタブーだからね?
 というわけで、動機が不純すぎるため、弟子入りは不可です」

「ええええぇぇぇえええ!!!!」

なお、当然その弟子入り願いは、当然却下。
おかげで、その少女を洞窟から出すために、またひと悶着あったのであったとさ。
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