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第3章 吸血鬼と死霊術師
第35話 血の誘惑
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伝令にたたき起こされ、幾人かの仲間と共に準備をし、回復魔法と併用して、馬に乗り続けること早丸1日。
私は再び、ストロング村前にある前線基地近くへと来ていた。
「こりゃひどいね」
双眼鏡を除きながら、ヴァルターの口から言葉が漏れる。
先に言っておくと、私は吸血鬼騒動についてはそこそこ詳しい自負がある。
吸血鬼化した師匠の討伐やら、そのための研修やら。
とにかくそういう、ごたごたを解消するために吸血鬼を相手にしたことやそれらの事件に直面したことは初めてではない。
「吸血鬼ってやつはどいつもこいつもこうなのかい?」
「もちろんそんなわけないよ」
此方に疑問を投げかけてきたヴァルターに、私はそう返答した。
かくして私たちの視線のはるか先にいたのは、元前線にいた領主の騎士団であった者たちだ。
そこで繰り広げられていたのは、或る者は血を浴びて、或る者は犯し犯され、或る者は狂気に踊り、或る者は唯々叫んでいる。
人と魔がまじりあい、狂乱の宴を行う。
まさしくサバトという名にふさわしい光景が、そこには広がっていたのであった。
「つまりは、無差別な吸血鬼化テロというわけか。
なかなかに地獄みたいな光景だねこれは」
「え、えっと、その、……吸血鬼って太陽の光に弱いのでは?
太陽神の加護で」
「一応はね。
でもまだ彼らは生まれてから数日しかたってない、新生児みたいなもんだよ?
さすがにまだ吸血鬼としては完成もしてないから、弱体化することはあってもすぐに太陽光で死ぬっていうのはないよ」
「な、なるほど」
自分の説明にベネちゃんが、こくこくとうなずく。
「にしても、見れば見るだけ違和感がある光景だな。
……これはやっぱり、件の吸血鬼の言う自称人間の守護者っていうのも、あながち間違いじゃないのかもね」
「は?し、司祭殿は何を言ってるのでしか!?
我らの隊があのようなことをされて……!!」
「だって、あの赤ちゃん吸血鬼と化した君の同胞達は、未だ誰も【人殺し】をしてないみたい。
少なくとも吸血鬼の新生児があんなにいたら、普通ならもうあそこの人間は大体吸い殺されているはずだからね」
自分の発言に、領主軍の生き残りはぎょっとした顔をする。
それ以外の自分の連れてきた仲間たちも、各々が苦々しい顔をしており、おおむね今の事態がろくでもない事態だとは理解してくれているようだ。
「それじゃぁ、イオはどうするつもりだい?
あの吸血鬼と化した元領主軍に対して、慈悲の昇天を目指す?
それとも尻尾を巻いて逃げ出す?
……正直、あそこにいる吸血鬼は元軍人だから、かなり戦闘力高そうで、あんまり戦いたくないって気持ちもあるんだけど」
「もちろん!謙虚な神の信徒として、彼らの悪行を止める義務が私にあります!
……という冗談はさておき、流石に村あんな狂乱の吸血鬼集団を放っておくわけにはいかないでしょ。
村の安全を考えて」
「……勝てるのかい?」
「それに関しては、彼らが【吸血鬼化】してくれたから、なんとかね。
もし理性ある人間のままだったら無理だけど……。
まぁ、あんな血に酔う程度の新生児にはまず負けないよ」
自分の発言に、各々が覚悟を決めたのか装備を整える。
「今回は一応生け捕りを目指すけど、吸血鬼は生命力は強いから多少手荒にやっても大丈夫だからね。
それに、手足の1本や2本くらいなら……まぁ、許容範囲ってことで」
そして私は改めて皆に作戦を告げる。
「というわけで、囮は私が行く。
だからまぁ、私が死なないようにサポートお願いね!」
「もちろん!地獄の底までお付き合いするよ!
聖女様っと!」
☆★☆★
「やだ、いや……いやなのにぃぃぃぃ!!」
「う……あぁ……!!」
無数の人間《エモノ》の叫びが周辺をこだまする。
元々基地であった天幕が燃え、焚火となり。
元同胞《生き残り》と同胞《吸血鬼》が入り乱れ、共演を楽しむ。
或る者は拷問し、或る者は純粋に食事を楽しみ、或る者は色に溺れ、或る者は暴れ狂っていた。
――そして、彼はそれらのうち全てをやっていた。
「た、たい、……ちょう、めを、さまし……ぐああぁぁあああ!!!」
元自分の副官が、悲鳴の声を上げる。
「いや、なんで、どうして……ああぁぁぁぁ♪」
元隊の聖職者である自分の部下であった、彼女が悲鳴と嬌声の声を上げる。
そうだ、彼彼女らはもともと彼の部下であった。
領主の兵団の1つである、【導きの巻貝隊】。
この部隊の隊長であるその男は今まさに吸血鬼と化し、かつての部下を襲っていた。
「どう……して……」
副隊長であるその男が、元隊長である吸血鬼を見つめる。
その視線に元隊長は怒りと喜びが入り混じった感情が沸き立つのを感じた。
そうだ、人間であったころ、彼は自分の部下である副隊長とその聖職者の事を好ましく思っていた。
部下として、人として、友人として、ありとあらゆる面で。
――だからこそ、2人が付き合うと聞いた時は、わずかな胸の痛みを感じながらも、祝福しようと思った。
彼女へのわずかな恋心と、そんな彼女の心を射止めた彼へのわずかな嫉妬心を納めて。
「でも今は……永遠の命を手に入れた我には関係ないなぁ!!!!!
定命の物の細かい悩みなど……我には不要なのだ!!」
しかし、今の彼は違った。
隊の隊長であり、責任ある人間であった頃の彼とは違う。
超常の力を手に入れ、永遠の命となり、人を超えた今の彼には、かつての自分とは変わったことを確信していた。
だからこそ、その高揚感と本能に従うままに、彼は自分の悩みの元をすぐに襲い掛かり、それを是正すべく行動したのであった。
「な、なぜ……ぐああぁあああ!!」
それ故に彼が吸血鬼化して一番最初にやったのは、元親友であり部下であった副隊長の拷問と吸血。
「いや、やだ、いやなのにぃぃぃぃ♪♪」
それと、片思いであり自分の密かな思い人であった聖職者への強姦と吸血であった。
幸いにも、自分以外にも吸血鬼化した隊の仲間は多く、あっさり決着はついた。
それぞれ目覚めた力の度合いも、能力にも差はあったが、それでもこの陰の魔力に満ちた空気に酔い、血を求めるのには違いなかった。
残念ながら、【人間を直接殺す】ことは禁じられていたが、それ以外のありとあらゆることはできた。
特に今の彼は、その聖職者を犯し、それを元副官に見せつけることに執着していた。
この女は自分のものだと、双方にわからせるため。
吸血により【快楽の吸血】と【吸血鬼化の呪術】を併用して。
「う……ああ……♪」
もっとも、彼自身まだまだ吸血鬼としては生まれたてであり、彼女をすぐに吸血鬼にすることはできなかった。
だが、それでも男として吸血鬼として、徐々に彼女を自分の物にしていく感覚は、何物にも耐えがたい快楽であった。
元々はそこまで旨くなかった彼女の血も、徐々に自分好みに染まっていくその時間すら恋しい。
人間の時ではできなかった、禁忌の快楽。
願わくは無限にそれを続けたいとも思う程であった。
「……あ?」
――だからこそ、まさか、それ以上の欲求が出てくるなんて、予想だにしなかった。
そう、それは一筋の芳香。
吸血鬼となり鋭くなった五感で感じる、ほんのりと漂う血の匂いであった。
「……まぁ、そろそろ休憩も必要か」
そのように彼は自分に言い訳して、その胸の中にいた執着すべきその女をあっさりと手放し、ふらふらとその匂いの元へと向かった。
ふと周りの吸血鬼の同胞を見ると彼らも、同じらしい。
自分の向かう方向へと歩いているのが分かる。
そして、近づけば近づくほど、彼らにはその匂いの正体が分かった。
それは、血。
しかもただの血ではなく、極上の、生まれて今まで自分が飲んできたちとは段違いの。
人のころでは、そんなものがるなどと想像できないほどの強力な匂いに、彼らの思考は支配されてしまった。
だからこそ、彼らは歩きから走りに、そして、滑空や全力疾走になるまでにそこまで時間はかからず。
そして、その匂いの元を見つけた時、すでにまともに思考すらできず、本能のままにその餌《罠》へと飛びかかるのでしたとさ。
私は再び、ストロング村前にある前線基地近くへと来ていた。
「こりゃひどいね」
双眼鏡を除きながら、ヴァルターの口から言葉が漏れる。
先に言っておくと、私は吸血鬼騒動についてはそこそこ詳しい自負がある。
吸血鬼化した師匠の討伐やら、そのための研修やら。
とにかくそういう、ごたごたを解消するために吸血鬼を相手にしたことやそれらの事件に直面したことは初めてではない。
「吸血鬼ってやつはどいつもこいつもこうなのかい?」
「もちろんそんなわけないよ」
此方に疑問を投げかけてきたヴァルターに、私はそう返答した。
かくして私たちの視線のはるか先にいたのは、元前線にいた領主の騎士団であった者たちだ。
そこで繰り広げられていたのは、或る者は血を浴びて、或る者は犯し犯され、或る者は狂気に踊り、或る者は唯々叫んでいる。
人と魔がまじりあい、狂乱の宴を行う。
まさしくサバトという名にふさわしい光景が、そこには広がっていたのであった。
「つまりは、無差別な吸血鬼化テロというわけか。
なかなかに地獄みたいな光景だねこれは」
「え、えっと、その、……吸血鬼って太陽の光に弱いのでは?
太陽神の加護で」
「一応はね。
でもまだ彼らは生まれてから数日しかたってない、新生児みたいなもんだよ?
さすがにまだ吸血鬼としては完成もしてないから、弱体化することはあってもすぐに太陽光で死ぬっていうのはないよ」
「な、なるほど」
自分の説明にベネちゃんが、こくこくとうなずく。
「にしても、見れば見るだけ違和感がある光景だな。
……これはやっぱり、件の吸血鬼の言う自称人間の守護者っていうのも、あながち間違いじゃないのかもね」
「は?し、司祭殿は何を言ってるのでしか!?
我らの隊があのようなことをされて……!!」
「だって、あの赤ちゃん吸血鬼と化した君の同胞達は、未だ誰も【人殺し】をしてないみたい。
少なくとも吸血鬼の新生児があんなにいたら、普通ならもうあそこの人間は大体吸い殺されているはずだからね」
自分の発言に、領主軍の生き残りはぎょっとした顔をする。
それ以外の自分の連れてきた仲間たちも、各々が苦々しい顔をしており、おおむね今の事態がろくでもない事態だとは理解してくれているようだ。
「それじゃぁ、イオはどうするつもりだい?
あの吸血鬼と化した元領主軍に対して、慈悲の昇天を目指す?
それとも尻尾を巻いて逃げ出す?
……正直、あそこにいる吸血鬼は元軍人だから、かなり戦闘力高そうで、あんまり戦いたくないって気持ちもあるんだけど」
「もちろん!謙虚な神の信徒として、彼らの悪行を止める義務が私にあります!
……という冗談はさておき、流石に村あんな狂乱の吸血鬼集団を放っておくわけにはいかないでしょ。
村の安全を考えて」
「……勝てるのかい?」
「それに関しては、彼らが【吸血鬼化】してくれたから、なんとかね。
もし理性ある人間のままだったら無理だけど……。
まぁ、あんな血に酔う程度の新生児にはまず負けないよ」
自分の発言に、各々が覚悟を決めたのか装備を整える。
「今回は一応生け捕りを目指すけど、吸血鬼は生命力は強いから多少手荒にやっても大丈夫だからね。
それに、手足の1本や2本くらいなら……まぁ、許容範囲ってことで」
そして私は改めて皆に作戦を告げる。
「というわけで、囮は私が行く。
だからまぁ、私が死なないようにサポートお願いね!」
「もちろん!地獄の底までお付き合いするよ!
聖女様っと!」
☆★☆★
「やだ、いや……いやなのにぃぃぃぃ!!」
「う……あぁ……!!」
無数の人間《エモノ》の叫びが周辺をこだまする。
元々基地であった天幕が燃え、焚火となり。
元同胞《生き残り》と同胞《吸血鬼》が入り乱れ、共演を楽しむ。
或る者は拷問し、或る者は純粋に食事を楽しみ、或る者は色に溺れ、或る者は暴れ狂っていた。
――そして、彼はそれらのうち全てをやっていた。
「た、たい、……ちょう、めを、さまし……ぐああぁぁあああ!!!」
元自分の副官が、悲鳴の声を上げる。
「いや、なんで、どうして……ああぁぁぁぁ♪」
元隊の聖職者である自分の部下であった、彼女が悲鳴と嬌声の声を上げる。
そうだ、彼彼女らはもともと彼の部下であった。
領主の兵団の1つである、【導きの巻貝隊】。
この部隊の隊長であるその男は今まさに吸血鬼と化し、かつての部下を襲っていた。
「どう……して……」
副隊長であるその男が、元隊長である吸血鬼を見つめる。
その視線に元隊長は怒りと喜びが入り混じった感情が沸き立つのを感じた。
そうだ、人間であったころ、彼は自分の部下である副隊長とその聖職者の事を好ましく思っていた。
部下として、人として、友人として、ありとあらゆる面で。
――だからこそ、2人が付き合うと聞いた時は、わずかな胸の痛みを感じながらも、祝福しようと思った。
彼女へのわずかな恋心と、そんな彼女の心を射止めた彼へのわずかな嫉妬心を納めて。
「でも今は……永遠の命を手に入れた我には関係ないなぁ!!!!!
定命の物の細かい悩みなど……我には不要なのだ!!」
しかし、今の彼は違った。
隊の隊長であり、責任ある人間であった頃の彼とは違う。
超常の力を手に入れ、永遠の命となり、人を超えた今の彼には、かつての自分とは変わったことを確信していた。
だからこそ、その高揚感と本能に従うままに、彼は自分の悩みの元をすぐに襲い掛かり、それを是正すべく行動したのであった。
「な、なぜ……ぐああぁあああ!!」
それ故に彼が吸血鬼化して一番最初にやったのは、元親友であり部下であった副隊長の拷問と吸血。
「いや、やだ、いやなのにぃぃぃぃ♪♪」
それと、片思いであり自分の密かな思い人であった聖職者への強姦と吸血であった。
幸いにも、自分以外にも吸血鬼化した隊の仲間は多く、あっさり決着はついた。
それぞれ目覚めた力の度合いも、能力にも差はあったが、それでもこの陰の魔力に満ちた空気に酔い、血を求めるのには違いなかった。
残念ながら、【人間を直接殺す】ことは禁じられていたが、それ以外のありとあらゆることはできた。
特に今の彼は、その聖職者を犯し、それを元副官に見せつけることに執着していた。
この女は自分のものだと、双方にわからせるため。
吸血により【快楽の吸血】と【吸血鬼化の呪術】を併用して。
「う……ああ……♪」
もっとも、彼自身まだまだ吸血鬼としては生まれたてであり、彼女をすぐに吸血鬼にすることはできなかった。
だが、それでも男として吸血鬼として、徐々に彼女を自分の物にしていく感覚は、何物にも耐えがたい快楽であった。
元々はそこまで旨くなかった彼女の血も、徐々に自分好みに染まっていくその時間すら恋しい。
人間の時ではできなかった、禁忌の快楽。
願わくは無限にそれを続けたいとも思う程であった。
「……あ?」
――だからこそ、まさか、それ以上の欲求が出てくるなんて、予想だにしなかった。
そう、それは一筋の芳香。
吸血鬼となり鋭くなった五感で感じる、ほんのりと漂う血の匂いであった。
「……まぁ、そろそろ休憩も必要か」
そのように彼は自分に言い訳して、その胸の中にいた執着すべきその女をあっさりと手放し、ふらふらとその匂いの元へと向かった。
ふと周りの吸血鬼の同胞を見ると彼らも、同じらしい。
自分の向かう方向へと歩いているのが分かる。
そして、近づけば近づくほど、彼らにはその匂いの正体が分かった。
それは、血。
しかもただの血ではなく、極上の、生まれて今まで自分が飲んできたちとは段違いの。
人のころでは、そんなものがるなどと想像できないほどの強力な匂いに、彼らの思考は支配されてしまった。
だからこそ、彼らは歩きから走りに、そして、滑空や全力疾走になるまでにそこまで時間はかからず。
そして、その匂いの元を見つけた時、すでにまともに思考すらできず、本能のままにその餌《罠》へと飛びかかるのでしたとさ。
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