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六
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六
セーフハウスのドアを符丁に合わせてノックする。
ドアはすんなりと開いた。まぁ、監視カメラの映像もあるのだから、私だと分かったのだろう。
「やぁ、ケイト」
「ヘイ、イアン。元気そうじゃねーか」
「そんなに息を切らして、どうしたの?」
私はイアンを押しのけるように、中へ入る。
セーフハウスは、郊外の一軒家だ。それも木造平屋で、だいぶ古い。しかし設備はしっかりしている。木造と言っても、その内側で壁はほとんど防弾素材になっているし、地下もある。インターネットも高速回線が敷かれていた。
私は広い部屋にある二台のベッドの片方に腰を下ろす。もう一方には、良司が怯えた顔でしゃがみこんでいた。私はそれを見ながら、持ってきたタブレットを布団の上に投げ出し、イアンにケーブルを持ってこさせる。
「ケイト、マザーとイクトシは?」
「二人は市街で私を捨てて、ホテルへ行ったよ」
「ん? あぁ、そうか、一之瀬グランドホテルか」
イアンが納得した表情で、私にケーブルを渡した。タブレットが有線でネットと接続される。私の手からイアンがタブレットを取り上げ、操作を始める。
ホテル、というのは、そのままホテルである。一之瀬市にある一番高いビルに入っている超一流ホテルである。うちではよく、そこを指令室に使ったりする。
「繋がったよ」
イアンがタブレットを壁に立てかける。私と良司もそれを覗き込む。画面にはイクトシの顔が映り、その向こうにミスリードもいた。
『見えている? イアン』
「見えていますよ、イクトシ。マザーもご無事なようで」
『イアン、無事で何よりだ。車の件は不問にしてやる』
「おいマザー、本気かよ! あの車で私のなくした銃が相当買えるぞ!」
私の言葉に、ミスリードは答えなかった。私は舌打ちしてそっぽを向く。
「マザー」イアンが言う。「そちらにはハーミットは現れなかったのですね?」
『あぁ、出てこなかった。人間は二十人はいたが。そちらは?』
「ハーミット一体です。しかし、道路は完全に封鎖されていましたし、ハーミットの装備もそこらで手に入るものではありません。いえ、正確に言えば、少し探せばどこかで手に入るでしょう。問題は、その装備に特別なところがないことかと」
ミスリードが考え込む。
『つまり、計算された装備を持っている、とイアンは思うんだな?』
「そうです」
「そりゃ当たり前だ。相手は国なんだろ? そんなところから正体が露見するようなヘマをするわけがない。問題はうちのオフィスを襲った連中だ。あいつら、まともじゃねぇ」
私の言葉に、画面の中のイクトシ、ミスリード、そして隣のイアンの顔がこちらを向く。
「軽く撃ち合ったが、連中、まともに訓練なんてしてねぇよ。あれだけいて、まともに銃を撃ってたやつは、五人くらいだ。残りは適当にばら撒いていただけ。景気が良いのは結構だが、少しはこっちにもその経済力を回してほしいね。私だってもっと撃ちたかったなぁ」
ミスリードが冷たい視線を向けてくるが、画面の向こうなのでそれほど怖くない。
『ケイト、お前の感覚は、間違いないな?』
「冗談言ってどうするよ」
『なら、相手は訓練されていないという事になる。仮に国家機関からの制圧だと考えれば、もっと手際も良いはずだ。それに私もうかつだったが、よく考えなくても、気付けたはずだ。あの襲撃者どもの攻撃の仕方は、まるでなっていない。あれは素人に毛が生えたようなものだ』
私はミスリードの言いたいことが分かってきた。
「つまり、敵は素人と玄人、両方いる、って寸法だ」
『その通り。イクトシ、今、どこを攻めている?』
『いくつもやっているよ。防衛省の新谷氏の関係部署その他。次に新谷氏がチップを預けた貸金庫の利用情報だ』
私がミスリードの先を制して言う。
「イクトシ、貸金庫を経営している組織の情報を追え」
ミスリードが頷く。イクトシも遅れて頷いた。
『なるほど。あれは意趣返しか』
「そうだ。その可能性が高い。そうだろ、マザー」
『そうだな。イクトシ、そっちの組織と連絡を取れるようにしろ。国防省の方はどれくらいで情報が上がりそうだ?』
『まぁ、もう少しかな。核心は近いような気がする』
『そうか。では、素人の集団の方は私が交渉する。ケイト、イアンは、新谷さんを連れて、港へ向かえ』
私とイアンは顔を見合わせる。モニターの中ではイクトシが笑っていた。
『新谷氏を海外へ逃走させるんだ。飛行機は危ない。だから、船で密かに東南アジアへ逃がす。そこからは飛行機だ。ちゃんとチケットも偽造パスも作ったよ。間に合ってよかった』
「ふん。だってよ、おっさん」
「あ、あぁ……」
良司は不安そうな顔をしている。私は枕を持ち上げて、良司へ投げつける。良司がまともに受けて、ばたりと倒れた。私は笑いながら、画面に向き直る。
「マザーはどうするんだ?」
『私はその素人の集団と話をつける。あとはイクトシの情報次第で動くことにする。ケイト、お前はイアンを連れて新谷氏を港まで護衛しろ』
「な、なにぃ? ここから一番近い駐車場にあるのは、無改造の普通車だぞ。あれでか?」
ミスリードが苦々しい顔をする。
『他に車はない。あれで行け』
「相手は国家機関だって言ってんのに、ただの車とは、死亡フラグだぜ」
『死亡フラグ? どんな旗だ? まぁ、良い。その代わり、弾薬は制限なしで良い。そっちに機関銃が一丁、あったはずだ。弾もベルトで二千発ある。それを持って行って良いぞ』
私はぎょっとしながら、思わず画面に近づいてしまう。
「まじかよ、マザー! ハッハー! そりゃ最高だぜ。それなら軽トラックでも文句は言わねぇ。もう訂正できないからな、マザー!」
『あぁ、訂正はしない。絶対に、新谷さんを守れ。良いな?』
「リョーカイリョーカイ、早い方が良いな? じゃあ、さっさと支度だ!」
モニターの中でミスリードが「死ぬなよ」と行ってから、通信を切った。
それから十分後、私とイアン、良司はセーフハウスを重装備で出ると、夜闇に紛れて、自動車に乗って港へと移動を開始した。
セーフハウスのドアを符丁に合わせてノックする。
ドアはすんなりと開いた。まぁ、監視カメラの映像もあるのだから、私だと分かったのだろう。
「やぁ、ケイト」
「ヘイ、イアン。元気そうじゃねーか」
「そんなに息を切らして、どうしたの?」
私はイアンを押しのけるように、中へ入る。
セーフハウスは、郊外の一軒家だ。それも木造平屋で、だいぶ古い。しかし設備はしっかりしている。木造と言っても、その内側で壁はほとんど防弾素材になっているし、地下もある。インターネットも高速回線が敷かれていた。
私は広い部屋にある二台のベッドの片方に腰を下ろす。もう一方には、良司が怯えた顔でしゃがみこんでいた。私はそれを見ながら、持ってきたタブレットを布団の上に投げ出し、イアンにケーブルを持ってこさせる。
「ケイト、マザーとイクトシは?」
「二人は市街で私を捨てて、ホテルへ行ったよ」
「ん? あぁ、そうか、一之瀬グランドホテルか」
イアンが納得した表情で、私にケーブルを渡した。タブレットが有線でネットと接続される。私の手からイアンがタブレットを取り上げ、操作を始める。
ホテル、というのは、そのままホテルである。一之瀬市にある一番高いビルに入っている超一流ホテルである。うちではよく、そこを指令室に使ったりする。
「繋がったよ」
イアンがタブレットを壁に立てかける。私と良司もそれを覗き込む。画面にはイクトシの顔が映り、その向こうにミスリードもいた。
『見えている? イアン』
「見えていますよ、イクトシ。マザーもご無事なようで」
『イアン、無事で何よりだ。車の件は不問にしてやる』
「おいマザー、本気かよ! あの車で私のなくした銃が相当買えるぞ!」
私の言葉に、ミスリードは答えなかった。私は舌打ちしてそっぽを向く。
「マザー」イアンが言う。「そちらにはハーミットは現れなかったのですね?」
『あぁ、出てこなかった。人間は二十人はいたが。そちらは?』
「ハーミット一体です。しかし、道路は完全に封鎖されていましたし、ハーミットの装備もそこらで手に入るものではありません。いえ、正確に言えば、少し探せばどこかで手に入るでしょう。問題は、その装備に特別なところがないことかと」
ミスリードが考え込む。
『つまり、計算された装備を持っている、とイアンは思うんだな?』
「そうです」
「そりゃ当たり前だ。相手は国なんだろ? そんなところから正体が露見するようなヘマをするわけがない。問題はうちのオフィスを襲った連中だ。あいつら、まともじゃねぇ」
私の言葉に、画面の中のイクトシ、ミスリード、そして隣のイアンの顔がこちらを向く。
「軽く撃ち合ったが、連中、まともに訓練なんてしてねぇよ。あれだけいて、まともに銃を撃ってたやつは、五人くらいだ。残りは適当にばら撒いていただけ。景気が良いのは結構だが、少しはこっちにもその経済力を回してほしいね。私だってもっと撃ちたかったなぁ」
ミスリードが冷たい視線を向けてくるが、画面の向こうなのでそれほど怖くない。
『ケイト、お前の感覚は、間違いないな?』
「冗談言ってどうするよ」
『なら、相手は訓練されていないという事になる。仮に国家機関からの制圧だと考えれば、もっと手際も良いはずだ。それに私もうかつだったが、よく考えなくても、気付けたはずだ。あの襲撃者どもの攻撃の仕方は、まるでなっていない。あれは素人に毛が生えたようなものだ』
私はミスリードの言いたいことが分かってきた。
「つまり、敵は素人と玄人、両方いる、って寸法だ」
『その通り。イクトシ、今、どこを攻めている?』
『いくつもやっているよ。防衛省の新谷氏の関係部署その他。次に新谷氏がチップを預けた貸金庫の利用情報だ』
私がミスリードの先を制して言う。
「イクトシ、貸金庫を経営している組織の情報を追え」
ミスリードが頷く。イクトシも遅れて頷いた。
『なるほど。あれは意趣返しか』
「そうだ。その可能性が高い。そうだろ、マザー」
『そうだな。イクトシ、そっちの組織と連絡を取れるようにしろ。国防省の方はどれくらいで情報が上がりそうだ?』
『まぁ、もう少しかな。核心は近いような気がする』
『そうか。では、素人の集団の方は私が交渉する。ケイト、イアンは、新谷さんを連れて、港へ向かえ』
私とイアンは顔を見合わせる。モニターの中ではイクトシが笑っていた。
『新谷氏を海外へ逃走させるんだ。飛行機は危ない。だから、船で密かに東南アジアへ逃がす。そこからは飛行機だ。ちゃんとチケットも偽造パスも作ったよ。間に合ってよかった』
「ふん。だってよ、おっさん」
「あ、あぁ……」
良司は不安そうな顔をしている。私は枕を持ち上げて、良司へ投げつける。良司がまともに受けて、ばたりと倒れた。私は笑いながら、画面に向き直る。
「マザーはどうするんだ?」
『私はその素人の集団と話をつける。あとはイクトシの情報次第で動くことにする。ケイト、お前はイアンを連れて新谷氏を港まで護衛しろ』
「な、なにぃ? ここから一番近い駐車場にあるのは、無改造の普通車だぞ。あれでか?」
ミスリードが苦々しい顔をする。
『他に車はない。あれで行け』
「相手は国家機関だって言ってんのに、ただの車とは、死亡フラグだぜ」
『死亡フラグ? どんな旗だ? まぁ、良い。その代わり、弾薬は制限なしで良い。そっちに機関銃が一丁、あったはずだ。弾もベルトで二千発ある。それを持って行って良いぞ』
私はぎょっとしながら、思わず画面に近づいてしまう。
「まじかよ、マザー! ハッハー! そりゃ最高だぜ。それなら軽トラックでも文句は言わねぇ。もう訂正できないからな、マザー!」
『あぁ、訂正はしない。絶対に、新谷さんを守れ。良いな?』
「リョーカイリョーカイ、早い方が良いな? じゃあ、さっさと支度だ!」
モニターの中でミスリードが「死ぬなよ」と行ってから、通信を切った。
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