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四章

「商人の街・ゴールディ―ウォール」その⑤

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「災難だったわね、あの二つ名エルフに出くわすなんて」
「はい、災難で災害でした。村も破壊されてしまったし」
「村の事は残念だけど、金色の破壊神が暴れたのに死人が出なかったわけだから、運が良かったと思うしかないでしょ」
「そ、そうですよね」

 ホンとにアンジェリカは疫病神として有名だな。みんな知ってるし色々と諦めてる。どんだけ暴れたらそうなるのやら。

「ただ涸れたと思ってた温泉が出たわけだし、今回ばかりは女神かもしれないわね。アキト君も協力してくれたんでしょ、手紙に書いてあったし」
「一応……というか、最後にちょろっとですけど」
「村の復興のために大金を寄付してくれたみたいだけど、本当によかったの?」
「別に後悔はしてませんけど。ただ、商売をする資金がなくなったのは、正直痛いですね」
「私でよければなんでも相談に乗るわよ。アキト君はこれからどうする予定なの」
「王都に行こうと思ってたけどこの街が気に入ったから、ここに住んで商売をしようと思ってます。エマさんは不動産もやっていると聞いたので、ボロくていいので家賃が安い部屋がないかと。因みに奴隷が二人います」
「安い部屋か……色々あるけど商売したいなら店舗付きの一軒家がいいわよね。どんな商売するつもりなの?」

 将来的には大商人になって風俗王とカジノ王を目指すわけだが、今は何も決まってない。ここはテンプレの答えでいいかも。

「ダンジョンやタワー、様々な場所を冒険して、武具やアイテムの素材になる物を集めて自分で売ろうかと思っています」
「傭兵や冒険者相手となれば商売敵は多いわよ。因みに素材をそのまま売るより、鍛冶屋では武具を、魔道具師にはアイテムを作らせて、商品にして売る方が儲かるかな」
「なるほど、さっそくアドバイスありがとうございます」
「冒険者として力があるなら、儲かるのは奴隷や魔獣の売買かもね。人間に従順なエルフや珍しくて強い魔獣はモンスターがいる山奥に住んでいるから、捕まえるのが大変なのよ。その代わり高く売れる」
「その二つは考えてないですね。でも覚えておきます」
「いま問題は部屋よね……そうだ、中心部から離れていて商売に不向きだけど、店舗付きの一軒家があったわ。ただ訳あり物件だけど」
「訳ありですか……まあ安ければ大丈夫ですけど」
「じゃあ見にいきましょう。私が案内してあげる。訳ありの訳はそこで話すわ」

 話はとんとん拍子に進み、エマさん自ら操る馬車で俺と奴隷二人は物件を見にいくことになった。エマさんはノリがいいし行動力もある。流石一流の商人だ。

「場所は悪いけど商品が良ければ客は来るから、後はアキト君の腕の見せ所よ。まあ住むならの話だけど、住むならのね」

 エマさんは慣れた感じで馬車を操り笑顔でそう言ったが、最後は含みある言い方をした。もう訳ありがカオスなの確定でしょ。

「あの、家自体はどんな感じですか」
「周りに家がない二階建ての一軒家で、庭が広くて塀で囲まれてて、大きなバルコニーにウッドテラス付きかな」

 説明では一階に店舗スペース、他に部屋が一つ、キッチン、トイレ、風呂、倉庫があり、二階には部屋が六つ。敷地内には小さいが納屋と馬小屋が設置されてある。

「凄く大きな家なんじゃ」
「そこそこかな」
「前はどんな人が住んでて、なんの商売をしていたんですか」
「花屋さん、かな。六十代のダンディな男性なんだけど、若い時は凄い美形だったと思う。変わった植物の研究とかしてる人だったわ。家賃滞納が酷くて追い出そうとしたら、いつの間にか居なくなってたっけ」
「へぇ~、花屋」

 訳ありの訳は、植物かイケメンシニアに関係ありそうだ。

「ほら、あれあれ、見えてきたわよ、私のおすすめ」

 辿り着いた物件は郊外の更に奥という場所にあった。

「デカいっすね」

 エマさんの説明通りで西洋風の立派なお屋敷だった。家賃は本当に安いんだろうか。三人暮らしには大きすぎる。

「ご主人様、凄いのにゃ。凄く大きな家でお掃除のし甲斐がありそうなのにゃ。クリスチーナは家事が得意だからお任せにゃ」

 出たなお任せ星人。もうお前のお任せはお約束のように思えてきたよ。
 でも本当であってほしいよ家事のことは。俺はできないしスカーレットも冒険とかバトル以外は無理っぽい。スカーレットの地下アジトを見た時にガサツさ丸出しだったもん。食べる時もワイルドだし。その点クリスは奴隷としてちゃんと教育を受けているはず……たぶん。

「今から家の中に入るけど、後ろの奴隷、絶対に騒がないように」

 エマさんは一階店舗部分の扉の鍵を開けると、ふと思い出したかのように振り返り注意した。

「はいにゃ。お任せなのにゃ」
「はい、承知しております」

 店舗は広々としており天井も高く奥にカウンターと倉庫と住居部分に続くドアがある。
 エマさんはカウンター内の左壁の方へ移動し、庭に出るためのガラス窓の付いたドアの前で立ち止まる。そこから見える庭は芝生と色とりどりの花々で溢れ、塀際には大きな木々が立ち並んでいる。あとウッドテラスの上にシャレたガーデンテーブルとイスがあった。見たところ放置された様子もなく手入れされた庭だ。

「ねぇ、あそこ見て、あの丸くなってるとこ」

 エマさんは庭の中央辺りの円の花壇を指差している。
 なぜ小声でコソコソしてるんだろう。まるで何かに見付からないようにしているようだ。
 その花壇は不自然な感じで一輪だけタンポポみたいなものが植えてあり、黄色い花が咲いている。

「あれがなんですか?」
「ちょっと待ってね、今から見せるから。でも驚いて大きな声とか出しちゃダメよ。見つかると面倒だから」

 エマさんはそっとドアを開け庭に出ると小石を拾い、円の花壇に投げ入れすぐに店舗内に戻ってきて、そっとドアを閉めた。

「なんだ? 花壇の土がもこもこ動いてる」

 モグラが出てきそうな感じで土が盛り上がっている。すると一輪のタンポポが浮いたように持ち上がり土の中から人間の顔が現れる。
 なっ⁉ なにコレ、超キモいんですけどぉぉぉっ⁉
 その人間のような顔は何かを探すようにきょろきょろしている。因みに頭のてっぺんに位置するタンポポは生えている感じで、首を振っても落ちないし微動だにしない。と思ったら顔が地上に出たからか、花と葉は頭の中に吸い込まれるようにシュッと消えた。

「エマさん、あの顔は、というか生首は……一応は人間に見えますけど」

 この時クリスとスカーレットも声が出ないほど驚いていた。

「う~ん、なんだろね、アレ。たぶんマンドラゴラだと思うよ」
「マンドラゴラって、抜くと悲鳴を上げる、あの伝説の植物の」
「本当はあんな感じじゃないと思うけど。植物の根に顔があるものがマンドレイクで、根なんだけど大きくて人型のものは、マンドラゴラっていうの。でもアレは、ここに住んでた人が品種改良で生み出した新種だと思う。植物を何種類も掛け合わせ、そこに人間や魔人族の遺伝子を入れ込む、とか訳の分からないことを言ってた気がするし」
「新種? あの、作ったって、それは魔造のモンスターってことですか?」
「さあねぇ。モンスターじゃないとは思うけど。とりあえず植物ってことにしておけば、当たり障りないかもね」

 エマさん軽いなぁ。俺は普通に怖いんですけど。

「そもそもアレはあそこに居ても大丈夫なんですか」
「今のところ大丈夫よ。この辺り人は居ないし」
「いや、そういう問題じゃ」
「凶暴でもないし、人間に襲い掛かったりしないから害はないわよ。もしかしたらモンスターに近い存在かもしれないけどね。ははっ」
「いやいや、笑ってる場合じゃないような」

 エマさんは意外と面倒臭がりのアバウトな女性だと分かった。てかアレを今まで放置してるって、この人も変だな。しかもこれがおすすめ物件とか悪徳商人だろ。

「セバスチャンって名前で、人間並みに知能が高くて普通に喋るわよ。あと遠くへは行けないけど、庭や家の中は自由に歩き回れるみたい。この間スキップしてるの見たかな」
「名前まであるんすか」
「凄く礼儀正しくて姿勢もいいのよ。しかも超美形」
「エマさん、だからそういう問題じゃ」

 何が何でもこの物件、押し付けようとしてねぇか。借りるにしても百歩譲って美女でお願いしますよ。イケメンいらねぇ。

「ベテランの家政婦とか執事がいると思えばいいのよ。タダで使えるしある意味お得でしょ。番犬代わりにもなるし」

 いやいやエマさん、執事とかそんな良いものじゃないよね、名前だけだよね、それっぽいの。
 悪しき存在ではないんだろうが、厄介ごとを押し付けようとしている感が半端ない。

「ちょっと頭痛くなってきたかも」
「そう言わず、とりあえず話しかけてみたら。意外と仲良くなれるかもよ。超美形だしね」
「それ押してきますね。俺そっち系じゃないですから」
「あらそぉ、残念ね。じゃあどうするの、この物件。私はもう帰るわよ」
「えっ、こんなタイミングで帰るって」
「だってあいつ、個人的に面倒なんだもん」
「あなたが面倒なものは、俺も面倒だと思うんですが」
「でもさぁ、お金ないんでしょ。住む家いるんでしょ。アレを我慢したら本当に良い物件だよ。家賃も安いし」
「訳ありがちょっと変則すぎでしょ」
「わかった、じゃあこうしましょう。家賃をもっと下げるわ。激安の金貨一枚よ」
「マジっすか、一カ月の家賃が金貨一枚って」

 安い、安すぎる。店舗付き物件で考えたら他にないかも。変な植物を我慢すればいいだけだし、そもそも変なの二人いるわけだし、一人増えたところで問題ない……のか?
 いやいやいやいや、問題あるある、大ありですよこれは。騙されてますよ。
 ただ騙されてもいいか、と思ってる自分がいるんだよなぁ。考えれば考えるほどお得に思えてくる物件だ。異世界に移住してきてこうも簡単に家が決まるなんてそうそうないよ。これはチャンスと思うべきか。

「き、決めた。ここを借ります」
「ふふっ、商談成立ね。アキト君はそうすると思ったわ」

 でしょうね。選択肢少なすぎますもの。





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