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四章

「商人の街・ゴールディ―ウォール」その④

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「それではこれより女神の祝福をおこないます。立ったままでいいので、動かないでくださいね」

 巫女さんは俺の頭の上あたりに赤い魔石が先に付いた杖をかざした。

「この者に、女神エルディアナの祝福あれ」

 言葉と同時に魔石が輝くと体が光の粒子に包み込まれる。光は十秒ほどで弾けるように消し飛んだが、今のところ体に異常はない。

「これであなたは商人です」
「えっ、終わり?」

 随分とあっさり、というか簡単に商人になってしまった。

「今後、女神の祝福を受けた商人かを誰かに証明しなくてはならない時は『紋章』と念じれば、手の甲に商人の紋章が浮かび上がります」
「それ便利ですね」

 早速やってみる。

「ほんとだ、浮かび上がった」

 サッカークラブのエンブレムみたいでカッコいい感じだ。そして消えろと念じればすぐに紋章は消えた。

「自分のレベルとかが見れるステイタスも念じればいいのかな」
「はい、ステイタスと念じればいいのです。そうすれば、あなただけに見えるものが表示されます」

 簡単だな。よし、やってみよう。

「おっ⁉ 出た出た」

 もうホンとにゲームだよ。それに意外と邪魔にならない。こりゃ冒険が楽しくなるね、特に向こうの世界から来た奴らには。
 しかしこのステイタスの感じ少し古い。アドバイザーはオッサン勇者かレトゲー好きだな。まあ嫌いじゃないけど。
 てか基本設定のヒットポイント数値、商人は30しかないのかよ。これ一撃で死ぬだろ。元々の身体能力の強さは表向きの数値には考慮されてないってことか。俺みたいな超人、本来はイレギュラーだもんな。
 商人の防御力は村人レベルだけど、バトルでダメージ負ったらどのぐらいHP減るんだろ。体が頑丈だからダメージ負わないだろうし、ほとんど数値減らなかったりして。

「例えば魔法使いなら、スキルや魔法の発動はどうするんですか?」
「魔力を溜めたり詠唱や儀式が必要なもの以外は、念じるか言葉にするだけで発動します」
「じゃあ次は」
「あのちょっと、もうこのぐらいで」

 更に質問しようとしたら、困った顔した巫女さんに制止された。人の気配がして後ろを振り返ると、二人が順番待ちしていた。

「あっ、ごめんなさい。もう色々聞いたし大丈夫なので行きます。ありがとうございました」

 巫女さんにそう言って後ろの人たちに軽く頭を下げてから、そそくさとその場を後にした。
 とにかくこれで冒険者登録が終わり、職業が商人になった。
 自分の持っているダガーナイフの価値を見てみようとしたが、まだレベル1の状態では何も分からなかった。
 神殿の外に出て山の中腹から美しい街並みを見渡す。本当に異世界で冒険者になったし、またテンションが爆上がりだ。
 チュートリアルを済ませたし、次は長老の孫娘に会いに行きますか。凄く可愛いらしいので楽しみだ。
 そしてコソコソと街の中を移動して、孫娘の会社があるという港の方へと向かった。
 なんとかアンジェリカに遭遇せず港に辿り着き、近くにいた船乗風のごつい東南アジア系男性に話しかけた。

「フォスター商会を探してるんですけど」
「あそこに見えるデカい建物あるだろ、あれがフォスター商会だ」
「あぁ、あの五階建ての。ども、助かりました」

 長老の言ってた通り有名人らしい。港にきたらすぐに見つかった。
 目的地までは三十メートル程で、歩き出すとすぐにクリスとスカーレットが現れた。見たところ怪我もなく無事のようだ。けどクリスは号泣している。

「流石スカーレット、うまく回収して逃げられたようだな」
「はい。ただ時間がかかってしまいました、申し訳ございません」
「いいよそんなの。てか命令しといてなんだけど、よくクリスを連れて逃げてこられたな」
「私は何もしていません。エルフがバカ猫のお仕置きに飽きたころに隙を突いて、盗賊スキルの『忍び足』を使って回収し、逃げただけです」
「うん、それを凄いというんだぞ。ホンとスカーレットは優秀だよ。マジで頼りにしてるからな」
「はい。これからも頑張ります」

 スカーレットは赤面し、大きな尻尾をバタバタと振って喜びを表現した。素直で可愛いけどこの尻尾振り、凄い砂ぼこりが舞い上がって目立つんだよな。

「それで、お仕置きに飽きたって、何されてたんだよ」
「エルフは一心不乱にバカ猫のお尻を平手で叩いていました」

 おいおい、お尻ぺんぺんかよ。

「町中でなにやってんだよお前らは。恥ずかしいなぁ」
「うわああああんっ‼ アンジェリカちゃん酷いのにゃ、いっぱいいっぱいお尻をぶたれたのにゃ。お猿さんのお尻みたいになっちゃったのにゃ」

 クリスはマントを捲り上げデカ尻を見せる。お尻全体が真っ赤である。いったいどんだけ叩かれたんだよ。

「っていうかパンツどうした⁉」

 なんでノーパンなんだよこの猫は。俺のパンツどこいった⁉

「ぷんぷこぷんのアンジェリカちゃんに破られちゃったのにゃ。ご主人様のパンツなのに酷すぎるにゃ」

 あいつそんなに怒ってたのかよ。あぁ怖。いなくて良かった。

「クリスさん、ここは路地裏とはいえ街の中なので、その大きなお尻を隠そうか。俺が変態と思われるからね」
「ごめんなさいなのにゃ、クリスチーナはダメな子なのでお仕置きを受けますのにゃ」

 話をまったく聞いてないクリスは四つん這いになり、赤く腫れあがった生尻を突き出す。

「だから止めなさいっての。凄いもの見えてるからね、完全に丸見えだからね」
「やめろバカ猫、ご主人の目が腐る」

 スカーレットはそう言ってクリスのお尻に噛み付いた。するとお尻にダメージを負っているクリスは絶叫し跳び上がった。

「パンツとお仕置きはもういいから。とにかく今は用事を済ませるのが先だ。とろとろしてたらアンジェリカに見つかるっての、行くぞ」

 俺が歩き出すと二人も騒ぐのをやめてついてくる。
 クリスは当分の間ノーパンでいいや。前も後ろもマントでギリ見えないし。それに奴隷の半獣人の事など、この街の人間は気にしてないしな。騒がないかぎり見もしないはずだ。
 すぐにフォスター商会の建物に辿り着き一人で中に入った。何故一人かと言うと、スカーレットの助言を聞いたからだ。この街の建物の多くが奴隷や半獣人は立ち入り禁止らしい。
 フォスター商会は大通りに面しており、奴隷の二人を建物の前で待たせるのは目立つので、アンジェリカ対策として路地裏に移動させた。
 一階の広いフロアには受付があり、紹介状があると受付嬢に話し社長に連絡してもらう。この時、長老の紹介状も渡した。
 俺たちの世界なら、いきなりアポなしで来た謎の高校生に社長が会うとか無理だろうが、少し待たされただけで会えることになった。これは手紙を読んでくれたって事だろう。
 受付嬢は白のポロシャツにタイトスカート、サンダルというラフな格好だ。二十代前半のアジア系で、長い黒髪と切れ長の目が特徴的で仕事ができそうな人に見える。
 社長室のある五階までは階段ではなく移動専用魔法陣を使う。設置部屋に行き魔法陣に入ると光の柱に包み込まれ、次の瞬間には辿り着いていた。これはエレベーターより便利だ。日常生活に使われている魔法は科学並に万能かも。

「こちらでお待ちです」

 受付のお姉さんは丁寧にドアを開けて招き入れてくれた。
 広々とした部屋には応接セットと社長テーブルがあり、奥の椅子に腰かけていた女性が立ち上がる。

「私はこの会社の社長で、エマ・フォスターよ。祖父からの手紙、読ませてもらったわ。随分とお世話になったみたいね。私からもお礼を言うわ、ありがとう」
「いえ、俺は何も。あっ、俺、秋斗っていいます」

 長老の孫娘は丁寧に挨拶をしてくれた。言葉遣いや立ち居振る舞いを少し見ただけだが、ちゃんとしていて信用できる人だと思った。
 エマさんは二十歳ぐらいの白人系で、赤みがかった茶髪のミディアムヘアと青い瞳、顔は動物で例えるなら犬系でアイドル級に可愛い。フープイヤリング、バングル、チェーンネックレス、指輪、アクセサリーは全てゴールドで統一している。
 身長は165センチぐらい。スポーツで鍛えている感じのガチムチの体は健康的で、GかHカップはあるだろう巨乳の存在感が凄い。上半身は白いビキニとベージュのベスト、下は水色デニムのホットパンツ、足はグラディエーターサンダルを履いている。小さめのウエストポーチを付けているが恐らく魔法の道具袋だ。
 ラフすぎる格好で社長って感じはない。この街は南国の気候で港の側だし、それほど不自然じゃないのかも。働いていた人もみんな薄着だったし。
 てかエマさん可愛すぎる。この世界に来てから会った人間の女性の中で一番可愛いと思う。しかも仕事ができて金持ちとか完璧超人すぎだろ。
 こんな年上のお姉さんを彼女にしたいものだ。半獣人やエルフもいいんだけど、やっぱ秘密の関係にしなくていい人間の彼女が欲しい。
 ただいまは目のやり場に困る。ベストのボタンをかけていないので胸の存在感がヤバいんですよ。




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