転生少女は元に戻りたい

余暇善伽

文字の大きさ
8 / 56

第7話

しおりを挟む
 「疲れた~」
 全身の筋肉がピクピクしている。少しでも動いたらどこか攣っちゃいそうだ。
 「あのくらいで情けねぇな」
 「あのくらいって仁は地面に埋まってただけでしょ」
 カインから受けていた修行メニューは二人で違った。魔導士向きの仁は、魔力を制御する訓練と称して首から下を地面に埋められていた。それが一体何の訓練になるのか見てるだけじゃ分からなかったが、本人曰く効果はあったらしい。
 「こっちは動き回って大変だったんだから」
 一方僕が受けていた訓練はもっと実戦的な物だった。木剣を振り回したり、走らされたり、筋トレさせられたり。そんな違いがあれば当然疲れにも差が出ている。
 「はぁ、いつまで続くんだろうこの生活…」
 「そりゃお前、戻る方法を見つけるまでじゃね」
 仁の返事からはちっとも反省の色が見られない。そもそも誰のせいでこんなことになっていると思っているのか。
 そんな話をしていると部屋に軽いノックの音が響く。
 「どうぞ、開いてますよ」
 「失礼します~、お風呂の用意が出来てますよ~」
 シアンが着替えを持って入ってくる。いやそれより待って、お風呂?お風呂だって?
 「ねぇシアン、お風呂って個別じゃないよね?」
 「はい~、でも男女別の大浴場ですから安心してください~」
 それはちっとも安心できない答えだった。つまり女湯に入れと?僕に?
 「ぼ、僕はお風呂はいいかな~」
 「ダメですよ~、お風呂は週三回しか張られないので~次は明後日まで入れないんですから~」
 「そうだそうだ、汗臭くなっても知らねえぞ」
 事態に気づいた仁が揶揄ってくる。こいついつか恨みを晴らしてやるからな…
 「じゃあ、僕も男湯に…」
 「ダ~メ~で~す~よ~、バラバラで寂しいのは分かりますが~皆さん優しいので大丈夫ですって~」
 僕一人が恥ずかしい目に遭えば済む苦肉の策だったが、それもシアンに止められてしまう。その皆さんの為にも僕は一緒に入らない方がいいのに。
 「は~い、それじゃ行きますよ~」
 あれやこれやの必死の抵抗も虚しく、シアンに半ば強引に連れ出されてしまう。こうなったら僕も男だ、腹を括ろうじゃないか。なるべく周りを見ないようにしてどうにか乗り切ろう。
 脱衣所に着くと当然ながら数人の先客がいた。カイン曰く、女騎士は珍しいがいないわけでもないらしいのでこの城にもそういう人たちがいるだろうし、単純に住み込みで働いてる人たちもいるのだろう。と言うか、このお城ってどのくらい人が住んでるんだろ?
 だが、あまりキョロキョロする訳にはいかない。なるべく誰とも目を合わせずに適当な籠に着替えを入れて素早く服を脱ぎ、ついでに朝結ばれた髪も解き、さっさと浴場に入る。
 浴場の中にもやはり数人の先客がいるが、こちらもなるべく見ない様に洗い場の端っこで体を洗い始める。固形だが一応石鹸もあるみたいだ。
 そういえばまだ自分の裸を一度も見ていなかったけど、いくら自分の体とはいえ、幼い少女の裸を見るのは罪悪感が半端ないのでなるべく見ない様にしよう。
 幸い、洗い場に鏡は付いていないので前を向いていれば見ることはない。体を洗っていて所々敏感でくすぐったかったりする場所もあったが、無事洗い終わる。
 次はこの長い髪の毛を洗って仕舞えば終わりだ。長い髪の手入れってしたことがないけど、とりあえずシャンプーすればいいのかな?
 「ちょっとちょっと、アスカちゃん!」
 くそっ、ここまで順調だったのに誰かに捕まってしまった。
 「え~っと、朝食堂で会った…」
 「騎士のエルゼよ、エルゼ。それよりアスカちゃんダメじゃない髪の毛そんな洗い方したら。せっかく長いんだからちゃんとお手入れしないと。ほらお姉さんに任せない」
 そういうとエルゼに後ろから髪を解かれる。これ自体は気持ちいいのだが、申し訳ないのでなるべく前だけを見る。時折柔らかい何かが背中に当たってる気がするがきっと気のせいだ。それより長い髪の洗い方を覚えておかないと。
 「私の妹もねアスカちゃんたちと同い年くらいで、よく髪を洗ってあげてたんだ。その子も騎士になるって言ってるんだけど、妹は魔法の才能がなくてね、騎士はちょっと難しそう」
 やはり魔法の才能が無いと女騎士は難しい物らしい。まぁ体格差とかもあるからそれも仕方ないよね。
 「はいできた、アスカちゃんも湯船に入って行くでしょ?髪結っといてあげるね」
 「え、いや僕は髪と体を洗ったから上がろうかと…」
 湯船の中に一緒に入るのは流石にマズいから洗い終わったらすぐ上がろうと思ってたんだけどエルザに止められてしまう。
 「ダメダメ、ちゃんと暖まらないと湯冷めしちゃうでしょ。ほら入った入った」
 結局また強引に連れて行かれ隣に座らされてしまう。湯気と水面で見難いとは言え、罪悪感が…
 「今日修行付けられてたの見てたよ、頑張ってたねー偉いねー」
 「あ、ありがとうございます」
 目のやり場に困るのでとりあえず下を向いておくことにしたが、それはそれで自分の体が見えて落ち着かない。うぅどうしよう。
 「あれ?顔赤いけど大丈夫?のぼせちゃった?」
 「そ、そうかもしれないので先に上っちゃいますね」
 これはチャンスとばかりに湯船から抜け出し、逃げるように脱衣所に戻る。
 (ごめんなさいエルゼさん…)
 本当のことは口が裂けても言えないので心の中でエルゼに謝りながら早々に着替える。シアンに渡された着替えは昨日のとはまた違うネグリジェと、廊下を歩く間に着る物だろう丈の長いアウターだった。下着のフィットする感覚や、こういった服を着る抵抗感が段々薄れてきたのが悲しい。長い髪の毛を拭くのには時間が掛かりそうなので、雫が垂れない程度に拭いたら、なるべく更衣室にいないで済むように残りは廊下で部屋に戻る道中歩きながら拭くことにして、早々に更衣室を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...