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第29話
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「さあ、どこからでもかかって来い!」
昼下がりのいつもの庭、しかし今日はロバートではなく杖を持った仁が威勢よく啖呵を切った。
「いくよ仁!」
お言葉に甘えてこちらが仁目掛けて走り出すと、仁は杖を振り魔法を起動して迎撃体勢をとる。
「風よ!」
仁が叫ぶと正面に幾何学的な魔法陣が展開され、無数の風の刃が射出される。だが、まだまだ精度がイマイチなのかバラツキが酷いので、体の正面に来るものだけを避けながら速度を落とさずに突っ込む。
「クッソ!」
仁が悪態を吐きながら次の魔法の準備を始めるがもう遅い、既に僕との距離は肉薄している。この距離なら魔法の発動より先に木剣が届く。
「年貢の納め時だよ仁、日頃の恨み!」
隙だらけの仁のお腹目掛けて重い一撃を叩き込む。
「なんの!」
高い音と共に仁が慣れない手つきの杖で辛うじて受ける。しかし、所詮は付け焼き刃、結果さっきよりも大きな隙ができている。
僕がそこに次の一撃を叩き込もうとすると…
「おわっと!?」
戦闘に不慣れな癖に一丁前に距離を取ろうとしたせいか、足がもつれた仁が盛大にバランスを崩し転けそうになる。
「危ない!」
それをどうにか受け止めようとするが、体格差もあるのでそのまま押し倒されてしまった。
「仁、お、重いんだけど」
「わりぃわりぃ、あれ、杖はどこいった」
僕の上にのしかかる様に倒れた仁が落とした杖を探して周囲を弄る。
「ちょ、ちょっと仁!?変なとこ触らないでよ」
「いや杖が見つからなくてな、あ、あったあった」
杖を支えにして仁がようやく起き上がり、ようやく僕も重みから解放された。
「ふー、もう、先に起き上がったらすぐ見つかった話じゃん」
「いや起き上がるのに支えにしようと思ってな?」
「大丈夫、二人とも?」
周りで見ていたロバートがこちらに駆け寄ってきて手を差し伸べてくれる。
「ありがとロバート、この運動音痴のせいで酷い目にあったよ」
「悪かったな運動音痴で」
「本当に悪いと思ってるんだったらもっとちゃんと悪びれるんだね」
服についた汚れを払いながら、普段の意趣返しに悪態を吐く。普段散々心無い言葉をかけてくるんだからたまには良いよね。
「しかし、ジンの運動音痴っぷりは意外だな。もっと動けるやつだと思っていたが」
ロバートから遅れてきたカインがとどめの一言を刺す。良いよ良いよもっと言ってやって。
「良いんだよ、俺は頭脳労働担当だから動けなくても。大体魔法使いなんだから近接戦ができなくても仕方ないだろ」
「仕方なくてもできないといけないでしょ。入試は一対一の実戦形式があるんだから、今みたいな展開はきっと起こるよ。」
そう、なんで仁も実戦形式の特訓をしているのか。それは昨日のボルドーの授業に遡る。
「アルコーズ王立学校の入試科目でございますか」
「はい、僕たち入試科目に何があるのか知らなくて」
でしたらこちらをとボルドーが一枚の紙を差し出してくる。
「そちらは受験要項と受験学科毎の入試科目の一覧でございます」
紙の中には受験日や学科ごとの受験科目などが書いてある。
「結構多くの学科があるんですね」
「魔法使い専用の学科とかもあるのか」
「はい、アルコーズで最大にして一番歴史があり、唯一貴族科を備えた学校ですからね」
もらった紙に目を通していくと多くの学科の中から冒険者学科の名前を見つける。試験内容は筆記と実技で、筆記の科目は歴史と国語と算術、実技は試験者同士による実戦形式の一対一らしい。
「筆記の範囲はお二人とも申し分ないかと」
ボルドーが筆記については太鼓判をくれる。あとは実技だけど…
「そう言えば仁って魔法の訓練ばっかりして実戦らしい実戦の訓練してないよね?」
「俺は魔法使いだからな、実戦でも後方担当だろ?」
そうは言っても入試科目に受験生同士の一対一が行われる以上、戦闘は避けられない。
「こうなったら明日からでも特訓するしかないね」
「あまり泥臭いのは気乗りはしないけど仕方ないか、ちゃんと手加減しろよ?」
そういうことがあって今日、仁の戦闘訓練をしているのだが現実は厳しい。
「大体杖なんて持ってるのがいけないんじゃない?剣と盾でも持ってみたら?」
「鉄の塊は魔法を使う上で支障が出るんだよ、お前みたいな鈍い奴には分からないだろうがな」
「ふ、二人ともストップストップ、喧嘩はダメだよ」
お互い睨み合うが、あろう事かロバートに仲裁されてしまったので両者とも引き下がる。
「とりあえず喧嘩してたって強くはならないからな。入試までジンも数をこなして慣れていこう」
あんだけ穴を掘ってたんだし、基礎体力が無いわけでは無いはずだしなとカインが慰める。
入試は秋だというのにこんな調子で本当に大丈夫だろうか?不安ばかりが積もっていく。
昼下がりのいつもの庭、しかし今日はロバートではなく杖を持った仁が威勢よく啖呵を切った。
「いくよ仁!」
お言葉に甘えてこちらが仁目掛けて走り出すと、仁は杖を振り魔法を起動して迎撃体勢をとる。
「風よ!」
仁が叫ぶと正面に幾何学的な魔法陣が展開され、無数の風の刃が射出される。だが、まだまだ精度がイマイチなのかバラツキが酷いので、体の正面に来るものだけを避けながら速度を落とさずに突っ込む。
「クッソ!」
仁が悪態を吐きながら次の魔法の準備を始めるがもう遅い、既に僕との距離は肉薄している。この距離なら魔法の発動より先に木剣が届く。
「年貢の納め時だよ仁、日頃の恨み!」
隙だらけの仁のお腹目掛けて重い一撃を叩き込む。
「なんの!」
高い音と共に仁が慣れない手つきの杖で辛うじて受ける。しかし、所詮は付け焼き刃、結果さっきよりも大きな隙ができている。
僕がそこに次の一撃を叩き込もうとすると…
「おわっと!?」
戦闘に不慣れな癖に一丁前に距離を取ろうとしたせいか、足がもつれた仁が盛大にバランスを崩し転けそうになる。
「危ない!」
それをどうにか受け止めようとするが、体格差もあるのでそのまま押し倒されてしまった。
「仁、お、重いんだけど」
「わりぃわりぃ、あれ、杖はどこいった」
僕の上にのしかかる様に倒れた仁が落とした杖を探して周囲を弄る。
「ちょ、ちょっと仁!?変なとこ触らないでよ」
「いや杖が見つからなくてな、あ、あったあった」
杖を支えにして仁がようやく起き上がり、ようやく僕も重みから解放された。
「ふー、もう、先に起き上がったらすぐ見つかった話じゃん」
「いや起き上がるのに支えにしようと思ってな?」
「大丈夫、二人とも?」
周りで見ていたロバートがこちらに駆け寄ってきて手を差し伸べてくれる。
「ありがとロバート、この運動音痴のせいで酷い目にあったよ」
「悪かったな運動音痴で」
「本当に悪いと思ってるんだったらもっとちゃんと悪びれるんだね」
服についた汚れを払いながら、普段の意趣返しに悪態を吐く。普段散々心無い言葉をかけてくるんだからたまには良いよね。
「しかし、ジンの運動音痴っぷりは意外だな。もっと動けるやつだと思っていたが」
ロバートから遅れてきたカインがとどめの一言を刺す。良いよ良いよもっと言ってやって。
「良いんだよ、俺は頭脳労働担当だから動けなくても。大体魔法使いなんだから近接戦ができなくても仕方ないだろ」
「仕方なくてもできないといけないでしょ。入試は一対一の実戦形式があるんだから、今みたいな展開はきっと起こるよ。」
そう、なんで仁も実戦形式の特訓をしているのか。それは昨日のボルドーの授業に遡る。
「アルコーズ王立学校の入試科目でございますか」
「はい、僕たち入試科目に何があるのか知らなくて」
でしたらこちらをとボルドーが一枚の紙を差し出してくる。
「そちらは受験要項と受験学科毎の入試科目の一覧でございます」
紙の中には受験日や学科ごとの受験科目などが書いてある。
「結構多くの学科があるんですね」
「魔法使い専用の学科とかもあるのか」
「はい、アルコーズで最大にして一番歴史があり、唯一貴族科を備えた学校ですからね」
もらった紙に目を通していくと多くの学科の中から冒険者学科の名前を見つける。試験内容は筆記と実技で、筆記の科目は歴史と国語と算術、実技は試験者同士による実戦形式の一対一らしい。
「筆記の範囲はお二人とも申し分ないかと」
ボルドーが筆記については太鼓判をくれる。あとは実技だけど…
「そう言えば仁って魔法の訓練ばっかりして実戦らしい実戦の訓練してないよね?」
「俺は魔法使いだからな、実戦でも後方担当だろ?」
そうは言っても入試科目に受験生同士の一対一が行われる以上、戦闘は避けられない。
「こうなったら明日からでも特訓するしかないね」
「あまり泥臭いのは気乗りはしないけど仕方ないか、ちゃんと手加減しろよ?」
そういうことがあって今日、仁の戦闘訓練をしているのだが現実は厳しい。
「大体杖なんて持ってるのがいけないんじゃない?剣と盾でも持ってみたら?」
「鉄の塊は魔法を使う上で支障が出るんだよ、お前みたいな鈍い奴には分からないだろうがな」
「ふ、二人ともストップストップ、喧嘩はダメだよ」
お互い睨み合うが、あろう事かロバートに仲裁されてしまったので両者とも引き下がる。
「とりあえず喧嘩してたって強くはならないからな。入試までジンも数をこなして慣れていこう」
あんだけ穴を掘ってたんだし、基礎体力が無いわけでは無いはずだしなとカインが慰める。
入試は秋だというのにこんな調子で本当に大丈夫だろうか?不安ばかりが積もっていく。
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