【リメイク版連載開始しました】悪役聖女の教育係に転生しました。このままだと十年後に死ぬようです……

ヒツキノドカ

文字の大きさ
42 / 43

教皇様とお話

しおりを挟む
「よくきたね。ミリーリア、アイリス」

 穏やかな声でそう言うのは、エルヴィオ・ドーナ教皇猊下。
 ウェインライト教のトップに立つ人物だ。年はホーリッツよりさらに高齢で、もう七十歳を過ぎている。白髪と眼鏡が印象的な優しそうな雰囲気の人物だ。

「お久しぶりです、教皇様」

「こんにちは、きょうこうさま」

 挨拶をするアイリスを見て、教皇様はにっこり笑う。

「アイリスはずいぶんといい顔つきになったようだ。やはりミリーリアに預けて正解だったかもしれないね」

「はい。せんせいには、よくしていただいています」

「そうか。君がそんなふうに言えるなら、やはりそれが正しかったのだろうね」

 にっこりと微笑む教皇様は孫を可愛がるおじいちゃんのような顔をしている。まあ、教皇様は誰に対してもこんな感じなんだけど。教会内人気ナンバーワンなのはこのあたりが理由だろう。
 ちなみにこの場にはもう一人いる。

「……で、なぜフローラがここに?」

「二日ぶりですね、ミリーリア様、アイリス様」

 にっこり笑って猫かぶりモードのフローラが教皇様の隣からそんなことを言ってくる。
 ここは教会にある教皇様の執務室なんだけど、私とアイリスがそこに着いた時、教皇様と一緒にフローラが待っていた。
 今日の話に何か関係があるんだろうか。

「ミリーリアとアイリスを呼び出した理由に関係があるんだよ。……フローラを呼び戻した理由は聞いているかね?」

「王妃殿下の病気を癒すためだと」

 教皇様は頷く。

「そうだ。ここから先は、フローラに話してもらった方がいいかもしれないね」

「わかりました、教皇様。――先日私が王城に向かった際、王妃殿下はたいへん苦しそうにしておられました。侍医の言葉によれば、王妃殿下に持病はなかったとのこと。また、私が診たところ、毒物などが体に入り込んでいる形跡もありませんでした。一見して、体調を崩した理由がわからなかったのです」

 フローラの言葉に私は眉をひそめる。

「じゃあ、フローラでも王妃殿下を治せないということ?」

「そうとも言えません。というのも、わずかに王妃殿下からは呪いの痕跡を感じ取ったからです」

「呪い……厄介ね」

 呪いというのは、魂に対して作用する毒のようなものだ。特殊な加工を施した魔力を流し込むことで、相手に害を及ぼすことができる。呪いの効果は幅広く、相手を苦しめるだけでなく、洗脳、魅了といった特殊な効果をもたらすこともある。

「フローラでも呪いそのものは見つけられなかったの?」

「残念ながら……私が察知したのは、あくまでその名残りのみ。長年呪いと向き合ったことによる勘のようなものです。呪いが王妃殿下を苦しめていることはわかっても、その具体的な効果まではわかっていませんし」

「つまり、間違っている可能性もある?」

 フローラは首を横に振った。

「私の主観に過ぎませんが、おそらくそれはないかと。この場合、呪いを隠ぺいする効力が極端に強く働いていると考えるべきでしょう」

「呪いを、隠す……聞いたことがないわね」

「魔物がもたらす呪いであれば、滅多にありませんね。しかし呪いは人間が使うこともあります。王妃殿下の立場となればなおさら、害そうとする相手は多いでしょうね」

 フローラによると、この話はすでに国王陛下にもなされているそうだ。現在王城では王妃殿下に呪いをかけている可能性のある者をリストアップし、術者を探し出そうとしているらしい。

 呪いは術者によって解除される、術者が死亡する、などによって消滅する。
 どちらにせよ、術者を特定することには大きな意味がある。

「私はしばらく王都に滞在し、王妃殿下の浄化をすることになりました。呪いの効果が特定できない限りは難しいでしょうが……必ずやってみせます」

 フローラはそう言って決意の炎を瞳に灯した。
 さて、と教皇様が言う。

「フローラが言った通り、王妃殿下の治療のため、彼女はしばらく王都に留まります。その際、私は一つ彼女に頼みごとをしました」

「頼みごと?」

「教会にいる聖女候補たちに、“浄化”の力の扱いを教えてほしいと」

「……? フローラは王妃殿下の治療で忙しいのでは?」

「“浄化”の力は受け手にも負担を強います。術者の魔力によって体内を探られ、毒や呪いを分析されるわけですからね。長時間行えば、魔力酔い等の症状が現れることもあります。一人に対して、一度に“浄化”の力を注げる量は限られているのです」

 そういえばそうだった。“浄化”は相手の症状が重ければ、何度かに分けて行わなくてはならないのだ。王妃殿下は呪いの効果の特定もまだされていないので、余計に時間はかかるだろう。
 その空き時間を使ってフローラは“浄化”の力の扱いを聖女候補たちに教えてくれるようだ。

「その講義に、アイリスも参加しないかと思いましてね」

「わたし、ですか?」

「ええ。教会を見回しても、たった一つの能力に限ってさえ、ミリーリアを超える者はほとんどいません。“浄化”に関しては、フローラは数少ないその例外です。教わればきっと意味があるでしょう」

 アイリスは少し考えるような素振りをしつつ、チラッと私を見た。目がキラキラしている……! これはフローラの元で教わりたいようだ。
 ここは私も度量を見せる時だろう。

「わか、わかっ、わかっ……たわ。フローラに教わってきてね……ッッ」

「ミリーリア。顔に弟子が取られて寂しいと書いてありますよ」

 アイリスは立派な聖女になることを夢見ているし、“浄化”の力を教わるならフローラ以上の適任はいない。頭ではわかっているのに、なぜか受け入れられない自分がいる。

「はい! せんせいを、まもれる、つよいせいじょになるために、がんばります!」

「アイリス……!」

 すごい。少女漫画に出てくる理想の男性みたいなことを本心から言ってる。きゅんきゅんしてしまったわ!

 少し真面目に考えてみるけど、今のアイリスには腕輪の魔道具がある。あれがアイリスの身を守る以上、屋敷から出てもそこまで危険はないはずだ。教会まではうちの馬車で送り迎えすればいいし。

「それじゃあ、お願いできるかしら、フローラ」

「お任せください、ミリーリア様。私がアイリス様に“浄化”の力の扱いを完璧に教え込んで差し上げます」

「……ちょっとくらい私が教える余地を残してくれてもいいのよ?」

「往生際が悪いですわよミリーリア様」

 聖女モード口調のまま呆れたようにフローラに言われてしまった。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...