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教皇様とお話
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「よくきたね。ミリーリア、アイリス」
穏やかな声でそう言うのは、エルヴィオ・ドーナ教皇猊下。
ウェインライト教のトップに立つ人物だ。年はホーリッツよりさらに高齢で、もう七十歳を過ぎている。白髪と眼鏡が印象的な優しそうな雰囲気の人物だ。
「お久しぶりです、教皇様」
「こんにちは、きょうこうさま」
挨拶をするアイリスを見て、教皇様はにっこり笑う。
「アイリスはずいぶんといい顔つきになったようだ。やはりミリーリアに預けて正解だったかもしれないね」
「はい。せんせいには、よくしていただいています」
「そうか。君がそんなふうに言えるなら、やはりそれが正しかったのだろうね」
にっこりと微笑む教皇様は孫を可愛がるおじいちゃんのような顔をしている。まあ、教皇様は誰に対してもこんな感じなんだけど。教会内人気ナンバーワンなのはこのあたりが理由だろう。
ちなみにこの場にはもう一人いる。
「……で、なぜフローラがここに?」
「二日ぶりですね、ミリーリア様、アイリス様」
にっこり笑って猫かぶりモードのフローラが教皇様の隣からそんなことを言ってくる。
ここは教会にある教皇様の執務室なんだけど、私とアイリスがそこに着いた時、教皇様と一緒にフローラが待っていた。
今日の話に何か関係があるんだろうか。
「ミリーリアとアイリスを呼び出した理由に関係があるんだよ。……フローラを呼び戻した理由は聞いているかね?」
「王妃殿下の病気を癒すためだと」
教皇様は頷く。
「そうだ。ここから先は、フローラに話してもらった方がいいかもしれないね」
「わかりました、教皇様。――先日私が王城に向かった際、王妃殿下はたいへん苦しそうにしておられました。侍医の言葉によれば、王妃殿下に持病はなかったとのこと。また、私が診たところ、毒物などが体に入り込んでいる形跡もありませんでした。一見して、体調を崩した理由がわからなかったのです」
フローラの言葉に私は眉をひそめる。
「じゃあ、フローラでも王妃殿下を治せないということ?」
「そうとも言えません。というのも、わずかに王妃殿下からは呪いの痕跡を感じ取ったからです」
「呪い……厄介ね」
呪いというのは、魂に対して作用する毒のようなものだ。特殊な加工を施した魔力を流し込むことで、相手に害を及ぼすことができる。呪いの効果は幅広く、相手を苦しめるだけでなく、洗脳、魅了といった特殊な効果をもたらすこともある。
「フローラでも呪いそのものは見つけられなかったの?」
「残念ながら……私が察知したのは、あくまでその名残りのみ。長年呪いと向き合ったことによる勘のようなものです。呪いが王妃殿下を苦しめていることはわかっても、その具体的な効果まではわかっていませんし」
「つまり、間違っている可能性もある?」
フローラは首を横に振った。
「私の主観に過ぎませんが、おそらくそれはないかと。この場合、呪いを隠ぺいする効力が極端に強く働いていると考えるべきでしょう」
「呪いを、隠す……聞いたことがないわね」
「魔物がもたらす呪いであれば、滅多にありませんね。しかし呪いは人間が使うこともあります。王妃殿下の立場となればなおさら、害そうとする相手は多いでしょうね」
フローラによると、この話はすでに国王陛下にもなされているそうだ。現在王城では王妃殿下に呪いをかけている可能性のある者をリストアップし、術者を探し出そうとしているらしい。
呪いは術者によって解除される、術者が死亡する、などによって消滅する。
どちらにせよ、術者を特定することには大きな意味がある。
「私はしばらく王都に滞在し、王妃殿下の浄化をすることになりました。呪いの効果が特定できない限りは難しいでしょうが……必ずやってみせます」
フローラはそう言って決意の炎を瞳に灯した。
さて、と教皇様が言う。
「フローラが言った通り、王妃殿下の治療のため、彼女はしばらく王都に留まります。その際、私は一つ彼女に頼みごとをしました」
「頼みごと?」
「教会にいる聖女候補たちに、“浄化”の力の扱いを教えてほしいと」
「……? フローラは王妃殿下の治療で忙しいのでは?」
「“浄化”の力は受け手にも負担を強います。術者の魔力によって体内を探られ、毒や呪いを分析されるわけですからね。長時間行えば、魔力酔い等の症状が現れることもあります。一人に対して、一度に“浄化”の力を注げる量は限られているのです」
そういえばそうだった。“浄化”は相手の症状が重ければ、何度かに分けて行わなくてはならないのだ。王妃殿下は呪いの効果の特定もまだされていないので、余計に時間はかかるだろう。
その空き時間を使ってフローラは“浄化”の力の扱いを聖女候補たちに教えてくれるようだ。
「その講義に、アイリスも参加しないかと思いましてね」
「わたし、ですか?」
「ええ。教会を見回しても、たった一つの能力に限ってさえ、ミリーリアを超える者はほとんどいません。“浄化”に関しては、フローラは数少ないその例外です。教わればきっと意味があるでしょう」
アイリスは少し考えるような素振りをしつつ、チラッと私を見た。目がキラキラしている……! これはフローラの元で教わりたいようだ。
ここは私も度量を見せる時だろう。
「わか、わかっ、わかっ……たわ。フローラに教わってきてね……ッッ」
「ミリーリア。顔に弟子が取られて寂しいと書いてありますよ」
アイリスは立派な聖女になることを夢見ているし、“浄化”の力を教わるならフローラ以上の適任はいない。頭ではわかっているのに、なぜか受け入れられない自分がいる。
「はい! せんせいを、まもれる、つよいせいじょになるために、がんばります!」
「アイリス……!」
すごい。少女漫画に出てくる理想の男性みたいなことを本心から言ってる。きゅんきゅんしてしまったわ!
少し真面目に考えてみるけど、今のアイリスには腕輪の魔道具がある。あれがアイリスの身を守る以上、屋敷から出てもそこまで危険はないはずだ。教会まではうちの馬車で送り迎えすればいいし。
「それじゃあ、お願いできるかしら、フローラ」
「お任せください、ミリーリア様。私がアイリス様に“浄化”の力の扱いを完璧に教え込んで差し上げます」
「……ちょっとくらい私が教える余地を残してくれてもいいのよ?」
「往生際が悪いですわよミリーリア様」
聖女モード口調のまま呆れたようにフローラに言われてしまった。
穏やかな声でそう言うのは、エルヴィオ・ドーナ教皇猊下。
ウェインライト教のトップに立つ人物だ。年はホーリッツよりさらに高齢で、もう七十歳を過ぎている。白髪と眼鏡が印象的な優しそうな雰囲気の人物だ。
「お久しぶりです、教皇様」
「こんにちは、きょうこうさま」
挨拶をするアイリスを見て、教皇様はにっこり笑う。
「アイリスはずいぶんといい顔つきになったようだ。やはりミリーリアに預けて正解だったかもしれないね」
「はい。せんせいには、よくしていただいています」
「そうか。君がそんなふうに言えるなら、やはりそれが正しかったのだろうね」
にっこりと微笑む教皇様は孫を可愛がるおじいちゃんのような顔をしている。まあ、教皇様は誰に対してもこんな感じなんだけど。教会内人気ナンバーワンなのはこのあたりが理由だろう。
ちなみにこの場にはもう一人いる。
「……で、なぜフローラがここに?」
「二日ぶりですね、ミリーリア様、アイリス様」
にっこり笑って猫かぶりモードのフローラが教皇様の隣からそんなことを言ってくる。
ここは教会にある教皇様の執務室なんだけど、私とアイリスがそこに着いた時、教皇様と一緒にフローラが待っていた。
今日の話に何か関係があるんだろうか。
「ミリーリアとアイリスを呼び出した理由に関係があるんだよ。……フローラを呼び戻した理由は聞いているかね?」
「王妃殿下の病気を癒すためだと」
教皇様は頷く。
「そうだ。ここから先は、フローラに話してもらった方がいいかもしれないね」
「わかりました、教皇様。――先日私が王城に向かった際、王妃殿下はたいへん苦しそうにしておられました。侍医の言葉によれば、王妃殿下に持病はなかったとのこと。また、私が診たところ、毒物などが体に入り込んでいる形跡もありませんでした。一見して、体調を崩した理由がわからなかったのです」
フローラの言葉に私は眉をひそめる。
「じゃあ、フローラでも王妃殿下を治せないということ?」
「そうとも言えません。というのも、わずかに王妃殿下からは呪いの痕跡を感じ取ったからです」
「呪い……厄介ね」
呪いというのは、魂に対して作用する毒のようなものだ。特殊な加工を施した魔力を流し込むことで、相手に害を及ぼすことができる。呪いの効果は幅広く、相手を苦しめるだけでなく、洗脳、魅了といった特殊な効果をもたらすこともある。
「フローラでも呪いそのものは見つけられなかったの?」
「残念ながら……私が察知したのは、あくまでその名残りのみ。長年呪いと向き合ったことによる勘のようなものです。呪いが王妃殿下を苦しめていることはわかっても、その具体的な効果まではわかっていませんし」
「つまり、間違っている可能性もある?」
フローラは首を横に振った。
「私の主観に過ぎませんが、おそらくそれはないかと。この場合、呪いを隠ぺいする効力が極端に強く働いていると考えるべきでしょう」
「呪いを、隠す……聞いたことがないわね」
「魔物がもたらす呪いであれば、滅多にありませんね。しかし呪いは人間が使うこともあります。王妃殿下の立場となればなおさら、害そうとする相手は多いでしょうね」
フローラによると、この話はすでに国王陛下にもなされているそうだ。現在王城では王妃殿下に呪いをかけている可能性のある者をリストアップし、術者を探し出そうとしているらしい。
呪いは術者によって解除される、術者が死亡する、などによって消滅する。
どちらにせよ、術者を特定することには大きな意味がある。
「私はしばらく王都に滞在し、王妃殿下の浄化をすることになりました。呪いの効果が特定できない限りは難しいでしょうが……必ずやってみせます」
フローラはそう言って決意の炎を瞳に灯した。
さて、と教皇様が言う。
「フローラが言った通り、王妃殿下の治療のため、彼女はしばらく王都に留まります。その際、私は一つ彼女に頼みごとをしました」
「頼みごと?」
「教会にいる聖女候補たちに、“浄化”の力の扱いを教えてほしいと」
「……? フローラは王妃殿下の治療で忙しいのでは?」
「“浄化”の力は受け手にも負担を強います。術者の魔力によって体内を探られ、毒や呪いを分析されるわけですからね。長時間行えば、魔力酔い等の症状が現れることもあります。一人に対して、一度に“浄化”の力を注げる量は限られているのです」
そういえばそうだった。“浄化”は相手の症状が重ければ、何度かに分けて行わなくてはならないのだ。王妃殿下は呪いの効果の特定もまだされていないので、余計に時間はかかるだろう。
その空き時間を使ってフローラは“浄化”の力の扱いを聖女候補たちに教えてくれるようだ。
「その講義に、アイリスも参加しないかと思いましてね」
「わたし、ですか?」
「ええ。教会を見回しても、たった一つの能力に限ってさえ、ミリーリアを超える者はほとんどいません。“浄化”に関しては、フローラは数少ないその例外です。教わればきっと意味があるでしょう」
アイリスは少し考えるような素振りをしつつ、チラッと私を見た。目がキラキラしている……! これはフローラの元で教わりたいようだ。
ここは私も度量を見せる時だろう。
「わか、わかっ、わかっ……たわ。フローラに教わってきてね……ッッ」
「ミリーリア。顔に弟子が取られて寂しいと書いてありますよ」
アイリスは立派な聖女になることを夢見ているし、“浄化”の力を教わるならフローラ以上の適任はいない。頭ではわかっているのに、なぜか受け入れられない自分がいる。
「はい! せんせいを、まもれる、つよいせいじょになるために、がんばります!」
「アイリス……!」
すごい。少女漫画に出てくる理想の男性みたいなことを本心から言ってる。きゅんきゅんしてしまったわ!
少し真面目に考えてみるけど、今のアイリスには腕輪の魔道具がある。あれがアイリスの身を守る以上、屋敷から出てもそこまで危険はないはずだ。教会まではうちの馬車で送り迎えすればいいし。
「それじゃあ、お願いできるかしら、フローラ」
「お任せください、ミリーリア様。私がアイリス様に“浄化”の力の扱いを完璧に教え込んで差し上げます」
「……ちょっとくらい私が教える余地を残してくれてもいいのよ?」
「往生際が悪いですわよミリーリア様」
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