泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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中庭の調査②

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「剣の腕はともかく、学院の中に侵入してきたなら仮面の剣士は学院の関係者かもしれないね」
「確かにそうですね。今はオズワルドさんの作った結界がありますし」

 『第一学院』は現在、二枚の結界に守られている。

 夜間に寮を覆うものと、日中から学院全体を覆うものだ。
 後者の存在によって無関係の人間が学院の中に入ることは不可能となっている。

 よって仮面の剣士本人が学院の関係者である可能性はある。

「ロゼさん、学院の中に剣術が得意な人はいますか?」

 そう思ってロゼさんに尋ねてみると――

「…………本当に、あんなに普通に……あのハルク様と……」
「ロゼさん?」

 ロゼさんはなぜか呆気にとられたような表情で私たちを見ていた。

 それから、はっと我に返って聞き返してくる。

「す、すみません。なんですか?」
「あ、はい。学院の中に剣術が得意な人はいないかと……仮面の剣士が学院の関係者である可能性もありますから」

 私が繰り返すと、ロゼさんは少し考えてから言った。

「……そうですね。魔術剣技を探求する研究会もありますし、実技指導の先生の中にも剣術を使う人がいます」

 何人か学院の中にも剣を扱える人がいるらしい。

 今から話を聞きにいってもいいけど……まあ、オズワルドさんとも話し合ってからのほうがいいかな。

「セルビア、ここに別の手がかりはあるかな?」
「……なさそうですね。呪いの気配があるのはあの木だけです」

 残念ながら中庭で得られる情報はこれですべてのようだ。

「まだ何か調べるなら護衛を続けるけど」
「いえ、今日はもうやめておきます。ハルクさんは街の警備もありますし」
「わかった。じゃあ、僕はもう行くよ。また何かあったら呼んでね。ロゼさんもお疲れ様」
「は、はい。お疲れ様です!」

 そんなやり取りを最後にハルクさんはいきなり姿を消した。

「き、消えた……!?」
「たぶん目で追えないような速度で移動したんだと思いますよ」

 驚いているロゼさんにそう言っておく。ハルクさんならそのくらい朝飯前だ。
 ひと目につかないために、【気配遮断】あたりの技も使ったかもしれない。

「……セルビアさんは平然としていますね」
「最初は驚きましたけど、もう慣れました」
「本当に、対等の仲間なんですね。あのハルク様と」
「……? ま、まあ、パーティは組んでいますけど」

 困惑する私にロゼさんは首を横に振った。

「すみません。変な意味ではないんです。
 ただ、わたしと同じくらいの年なのに、あのルーカス様にも模擬戦で勝って、ハルク様と同じ立場で調査をして……セルビアさんは本当に凄いです。
 ……わたしなんかとは、全然違います」

 俯いて呟くように言うロゼさん。
 その姿は苦しそうで、打ちのめされているようで――私は、ふと記憶の中のある人物を思い出した。


『――セルビアはすごいね。こんなに小さいのに何時間も平気で祈祷ができて……私とは比べ物にならない』


「……」

 それは教会にいた頃の記憶だ。

 その人物の姿が、目の前のロゼさんに重なった。

 そう思ったとき、気付けば私はロゼさんの手を取っていた。

「ロゼさん。今から少し時間をもらえますか」
「え?」
「案内したい場所があるんです」





『グルルアアアアアアアッ!』
「あ、シャン! あまりスピードを出しすぎないでくださいね! 今日は私だけが乗っているわけじゃないんですから!」

 夕陽に染まる空の上で、私はまたがっているシャンにそう言った。

 普段ならともかく今はあまり速度を出すわけにはいかない。
 シャンは少し面倒臭そうな雰囲気ながらも言うことを聞いてくれた。

 うんうん、このくらいの速さなら問題ないかな。

「どうですかロゼさん! 気持ちいいでしょう!」

 私は目の前、つまりシャンの首あたりに座るロゼさんに声をかけた。
 すると硬い声でロゼさんのコメントが返ってくる。

「そ、そうですね。気持ちいいですね」
「それならよかったです!」
「で、でも、あの、…………これはどういう状況なんですか……!?」

 私と一緒にシャンに乗って夕空を飛びながら、ロゼさんは本気で困惑したような声を出すのだった。
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