さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ

文字の大きさ
47 / 71

浮遊島②

しおりを挟む

「助かりましたぞ冒険者どの」
「気まぐれでこっちが勝手にやってるだけだ。気にすんな」

 がらがらがら、と荷車を押しながらシグは老婆の感謝に適当な返事をする。

 シグが引く荷車には、樽三つと果物入りのカゴと、荷車の持ち主である老婆本人が乗っている。

「そちらのお嬢ちゃんも力持ちだねえ」
「まあね。このくらいなら何ともないさ!」

 シグの隣では、クゥが大樽二つを重ねて運んでいる。事実、クゥからすれば中身がたっぷり詰まった酒樽二つを運ぶくらいたいした苦労ではない。

「いやあ、儂は宿をやっとるんですが、何やら貴族の学生様たちが泊まるとかで一番大きな宿が借り切られてしまいましてなあ。おかげでうちにもお客様が押し寄せて、あっという間に食糧庫が空になってしもうて」

 貴族の学生、という言葉でシグはだいたいの事情を察した。

「その一番大きな宿ってのは『朝陽の音色亭』か?」
「ええ、そうです」

 つまりは冒険者たちを押しのけて一番大きな宿を占領した貴族学院組のしわ寄せを食らった、ということだろう。

 老婆の宿は客が増えて大盛況かもしれないが、シグとしては少し困る。

「一番大きな宿が埋まったってことは、他の宿もだいたい満員って感じか?」
「そうですなあ。今から宿を取るのは難しいでしょうな」

 やはりそういうことらしい。

「冒険者様。うちでよければ、何とか一室ご用意いたしますぞ」
「いいのか?」
「そのくらいの礼はさせてくだされ。少々手狭になってしまいますが……」
「屋根と扉があれば構わねえ。野宿は面倒だからな」

 主に手荷物を狙ってくる盗人への対策が。
 そんな話をしている間に目的地にたどりつく。

「わあ……!」

 街並みを見て、クゥが一番に目を輝かせた。

 浮遊市街『メリオール』。

 水平に視線を向けた限りは、迷宮市街と似た景観だ。
 幅の広いメインストリートが伸び、その両端に宿や商店が並ぶ。
 はるか奥に見える高い塀のようなものは、おそらく魔物たちからこの街を守るためのものだろう。

 しかし頭上に視線を向ければ、そこにはメリオール特有の光景が広がっている。

「……建物が浮かんでやがる」
「ほほ。地上ではなかなか見られない光景でしょう」

 街のいたるところに直方体状のブロックが浮き、延々続くそれを目で追っていくと、なんと空中にいくつも建物が存在している。

 建物の『底』を見る、というのはシグにとって初めての経験だった。
 階段のように並ぶブロックは、宙に浮く建物どうしをつなぐ空中回廊の役目も果たしているようだ。

「この街の大きさは、浮遊島全体の二十分の一ほどしかありません。その狭さをどうにか補おうとした結果、開拓した場所の上を使うことにしたわけです」
「……そんなことができるもんなのか?」
「浮遊島以外では不可能でしょうな」

 聞けば、建物を浮かせるには『浮遊石』というマナ鉱石が必須らしいのだが、浮遊島ではその効力がなぜか増幅されるとか。

 浮遊島はそもそも浮遊石が大量に採れること、さらにその効力を増幅させられる場所であることが合わさって、初めて可能な荒業らしい。

「儂の宿はあれです。真下の近くに階段がありますので、近くまでお願いできますかな」

 そう言って老婆が指さしたのは――なんと見渡す限りもっとも高所に経つ建物だった。
 目を輝かせてきょろきょろするクゥを連れて荷車を引き、指示された場所まで行く。

 薄く伸ばしたような板が、確かに階段上に浮かんでいる。

 それを見ながらシグは呟いた。

「これを上るのか」
「いかにも」
「……落ちたり動いたりしねえだろうな」

 支えなど何も存在しない。本当にただただ石製の板が普通に宙に浮かんでいるだけだ。
 しかも目的地ははるか頭上。うっかり落ちたらただでは済まない。

「動かないよう『加工』してあります。乗っているほうが足を滑らせたらそりゃあ落ちますが、案外大丈夫なものですよ」

 と、老婆は果物入りのカゴを持って荷車から降り、自然な足取りで浮遊階段を上り始めた。

 シグとクゥも樽を抱えてそれを追う。
 荷車にはまだ樽とカゴが残っているが、後で取りに来ればいいだろう。仮に盗もうとする人間がいても、頭上からは丸見えだ。飛び降りて追いかければいい。

「すごい! いい眺めだね!」

 浮遊階段を上りながらクゥが歓声を飛ばす。
 確かにいい眺めだった。街の向こうの危険域が一望できる。
 斜め上から老婆の声が降ってくる。

「うちの『眠り梟亭』は一番高い場所にある宿ですから、見晴らしには自信がありますよ。まあ、たまに魔物が飛んできたりしますがね」
「おい、それは大丈夫なのかよ」

 頻繁に魔物が襲ってくる宿屋などおちおち眠ってもいられない。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...