さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ

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浮遊島③

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 老婆はあっけらかんと言った。

「警報はございますし、案外何とかなるものですよ」

 頼もしい言葉だが、あの荷車を動かせるかどうかという実力では、精霊は下級か中級の中でも低位といったところだろう。浮遊島の魔物相手に太刀打ちできるかは微妙なところだ。

 推測になるが、適宜泊っている冒険者が駆り出されるのではないだろうか。
 シグとしては面倒だが、野宿と比べればマシかと適当に自分を納得させた。

 ちらりと眼下を見る。
 斜め下方にはわりと近くにやたら大きな建物がある。地上だが、空中回廊を利用すれば数分でたどりつけるだろう。

「おい婆さん。あのでかい建物ってまさか……」
「ああ、あれが『朝陽の音色亭』で――おや冒険者様、どうしましたそんなげんなりと」
「……色々あってな」

 図らずもエイレンシアの指示通りになってしまった。しかし今更どうしようもない。

 浮遊階段をのぼりきると、そこにあったのは二階建ての木造宿屋だった。
 階段のブロックをそのまま巨大化させたような岩の板に建物が乗っかり、しかも蔵や庭まである。看板には木に止まって居眠りをするフクロウが彫られている。

 庭にたどり着くと、シグとクゥはその場に樽を下ろした。

 老婆は慣れているのか、息ひとつ切らせていない。

 がちゃっと宿の扉を開けて、「帰ったよ!」と声を上げている。

 すぐにぱたぱたと足音が近づいてきた。

「やっと帰ってきた! お婆ちゃんもう年なんだから荷物運びなんて無理だって言ってるのに」
「年寄扱いすんじゃないよ。それよりセリア、お客さんだ。『上』使えるようになってるかい?」
「え? うん、さっき掃除終わったけど……」
「そらよかった。荷物運び手伝ってもらったお礼にそこ泊まってってもらおうと思ってたからね」
「それは構わな――待ってお婆ちゃん! お客さんに手伝わせたの!?」

 扉が開き、中から老婆と会話していたらしい人物が飛び出してきた。

 その姿を見て、シグが凍り付く。
 クゥも目を見開いた。

「すみませんお客様、祖母がお世話になったようで……」

 少女だ。年はおそらくシグと同じか、少し上くらいだろう。珍しい黒い髪をしている。

「……」
「……あの、どうかなさいましたか?」

 黒髪の少女に尋ねられ、シグはようやく我に返る。

「あー、悪い。まだ樽が下に残ってるから、それ取りに行ってくる」
「え? そんな、お客様にそこまでしていただくわけには!」
「忙しい中部屋空けさせるんだから、そのくらいはする。気にすんな」

 そう言って、シグはさっさと背を向けて浮遊階段を下り始める。

 その後ろ姿を見ながら、黒髪の少女――セリアは不思議そうな顔をしていた。




 夕食後、シグとクゥは『眠り梟亭』の屋根裏にいた。

 屋根裏といっても天井はそれなりに高く、掃除もされており、ベッドや小さなテーブルもある。
 物置代わりに使っていたのを片付けた、と老婆は言っていたが、もともと客室として作られた場所なのだろう。

 壁には小さな丸い窓が開けられており、クゥがへばりついて夜景を眺めている。

「いい宿だね、ここ」

 窓の外を見たままクゥが言った。

 メリオールは冒険者の街であり、日中探索をしていた彼らが酒場で騒いでいる時間帯だ。
 街で一番の高所にある『眠り梟亭』の最上階なのだから、それらの明かりは綺麗に映る。

「料理はおいしかったし、景色は綺麗だし……」

 半ば独り言のように、クゥは言った。

「……セリアって、少しだけカナエに似てるよね」

 シグは老婆の孫だという黒髪の少女のことを思い出す。

 東方出身者に特有の黒髪。
 『祖母を助けてくれたお礼です』と食後に果物たっぷりのパイを持ってきてくれた甲斐甲斐しさ。

「……ああ」

 それらを思い出して、シグはクゥの言葉に小さく頷いた。
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