あまみつつき君

さんといち

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二章 天満月くんの秘密

10.平凡で特別な一日

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 お隣さんが分身だったとか、妖精と友達になっただとか。

 不思議な出来事がいっぱい起こったけれど、次の日は平凡に訪れた。

 いつもより少し早く着いた朝の教室。
 妙に落ち着かないでいるのはクラスで私だけで。

 昨日の自分がそうだったように、みんなはだれも分身や妖精のこと、知らないんだなあ…。

 そんなことを思いながら、彼のことを机に伏せながら待っていた。
 こうすれば寝たフリをしながら入口を見張れる。

「…おはよ」

 ちゃんと、本物が来てくれるかな。

「…これ、あんたにやるよ」

 来てくれそうな雰囲気だったけど、はっきり約束したわけじゃないんだよね。

「おわびじゃねーけど、」

 もしも来てくれなかったら…、ちょっと、いやけっこう、切ないかも。

「気が向いたから、なんとなく……って聞いてる?」

 ん? 呼ばれた?

「……えっ?」

 顔を上げたら、うらやましいくらいぱっちりした目がすぐそこにあった。
 …間違いない、ここに来るのを待っていた人の。

「何その変な顔」
「ふえっ」

 へ、変⁉ 変って、どう変…⁉

「あんたが来いって言うから、来たんじゃん」
「いつの、間に…」

 いる。
 来ている。
 天満月くんが。

 気だるそうだけど、目に意思のある、天満月くんが!

「いつの間に、って…たった今」

 ちら、と彼は教室前方の入り口を見た。
 そっちから入ってきたんだ…、最後列の席だから後ろから入ってくるものだと。

 ふわあ、とあくびしながら天満月くんが隣の席に座る。
 分身はそんなことしなかったから、些細ささいな仕草も新鮮。

 本当の本当に、高校生活を送る仲間になれたんだ——

 そう実感したらたまらなくなって、

「ねえ! 天満月くん」
 元気に話しかけていた。

「…なに」
「ええっとね…」

 何話そう、と考えて。

 初めにこの言葉が浮かぶ。

「好きだよ」
「っ、はあっ⁉」

 一気に覚める眠そうだった目。ふふっ、良い反応じゃないの。

「あんた…、何言って…!」
「分身かどうか確かめようと思ったの」
「本体だって絶対わかってただろ…!」
「『変な顔』って言ったお返し。天満月くんもおもしろい顔してるよ~」
「あのなあ…!」

 顔を赤くして怒りながら恥ずかしがってる天満月くん。
 そうそう、こういう感情むき出しの表情が見たかったんだ……って私、ちょっとイジワルかな?

「気が変わった、それ返して」
「え、どれ…あっ!」

 机上にあった見覚えのないピンクの箱が、すうっと隣の方へ引っ張られた。
 すんでのところで私はそれを捕まえ阻止する。
 箱が勝手に動いたんじゃなくて、天満月くんの不思議な術のせいだ。

「だ、だれかに見られたら…!」
「端にあったから自然に落ちた風に見える」
「そう言っても…」
「俺が何年こっそり使ってきたと思ってるの。そうやってあたふたするほうが秘密はばれるんだ」
「…なるほど」

 圧倒的説得力に黙らされた私。大人しくして、捕まえた箱に目線を落とした。

 なんとそれは、昨日買ったチョコレートクランチのストロベリー味!

「く、くれるの? 私のを食べちゃったから?」
「さっき全部説明した」
「ごめん、聞いてなかった」
「まあ、からかった罰で返してもらうけど」
「それはだめ!」

 昨日もミルクチョコレートかこっちの味かで迷ったんだ。
 それにせっかく天満月くんにもらったのに、返品なんてもったいない!


 こんなやり取りをしていたら、人を待った後の朝の時間はあっという間に過ぎた。

 天満月くんは愛想あいそは良くないけど、昨日みたいに不機嫌でもない。
 新しい変化に気づいたクラスメイトはまたびっくりしていて、彼はほとんど常に誰かからの注目を受けていた。
 それでも気にしていなさそうに自分のペースでいたんだからすごい。久しぶりの教室なのに堂々としている。


 お昼休みに入って、清華ちゃんと鈴ちゃんは私に質問攻めだった。

「どういうこと⁉ 今日の天満月くん、普通にしゃべってるじゃない! 棒読み不気味くんからクールキャラになってる!」
「しかも美紀菜ちゃんと一番話してるよ! 隣だから? それとも別の理由? ねえねえ、妖精のおかげなの⁉」

 妖精のおかげ…? 

 あ、「甘いものを盗まれたら妖精が恋を叶えてくれる」ってウワサのことか…! 

「ちがうちがう! それじゃあ私が天満月くんに恋してることになっちゃうよ」

 妖精のおかげ、は間違ってないけど…!

「だって…、急に仲良くなってるんだもん!」
「鈴ちゃんも話しかけたらいいじゃない」
「ええ~⁉ 用もないのにむりむりむり!」

 鈴ちゃんは片手をぶんぶん振った。それがあまりに速くて私は吹き出してしまう。

 その後も話しかけるかどうかできゃいきゃい盛り上がって。

 天満月くんのおかげで、いつも話す友達との時間も特別に楽しくなっていたんだ。
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