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第3話 外へ出ろ!
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部屋の中で、イライジャとミアは落ち着かない様子だ。イーサンが何かしでかすのは目に見えている。
そのイーサンがアメリアに向かって口を開いた。
「どこまで聞いた」
アメリアはドアの前で、ばつが悪そうに右足の甲で左足首を掻きながら答える。
「えーと……『クロウマークスワイバーンで、ドラゴンが死んだ』?」
「ほとんどかよ」
「ごめんなさい……入りにくい雰囲気で、ノックできなかった」
イーサンは椅子に腰掛け直し、ため息をついて頭を掻く。
「アメリア。荷物をまとめて旅支度をしろ。明日の朝立つ」
「ああっ……!!」
イライジャは憤り、思わずため息と共に声を上げる。
「アメリアをどこへ連れて行くつもりですイーサン!」
「ゴーサホルツハマーだ」
「何故!?」
ミアも詰め寄った。
ゴーサホルツハマーとは、中央大陸にあたるアクシスの巨大都市で、世界で最も人口の多い王政国家である。
旅に出たこともない、この島から出たこともないアメリアは狼狽え、イーサンに不安な表情を向けた。
「私をここから追い出すの?」
「ちっげーよ、会いに行きたいヤツがいんだ。お前ぇにはオレのお供になってもらう」
「無茶です!」
「そうよ!」
イライジャとミアが口をそろえてイーサンを止めたが、言い出したら最後、このクソジジイが『やっぱりやめました』と改めるはずもなく。
「じゃあどうすんだ。デプスランドの一件は、若い連中に任せておくか?」
ミアが『それは……』と口ごもる。
「ゴーサホルツハマーに行って、エイヴァに会うつもりですか」
イーサンに問いかけるイライジャの言葉で、アメリアが息を呑む。
「エイヴァ……」
アメリアは彼らの名前を知っていた。それも当然、かつて起きた大戦の冒険譚、それを脚色したおとぎ草子に出てくる勇者達の名前だ。イーサン、ミア、イライジャ、エイヴァ。子供も大人も老人も、みんな知っている。
アメリアは子供の頃からずっと、『イーサンはよくある名前だし、ミアが揃っても偶然だ』と思っていた。実際『勇者のように』と子供にその名前を与える親は多かったので、人気の名前ではある。
だがリジー神父が『イライジャ』は、できすぎている。それに加え『エイヴァ』に会いに行く? もう間違いないではないか。彼らはかつての勇者達なのだと核心したアメリアは、半ば動揺し、半ば胸を高鳴らせて話を聞いていた。
アメリアの胸中はさておき、老人3名のうち1名は意見が合わず、狭間の空気がじりじりと焼け焦げそうだ。ミアが大きく両手で遮り、首を横に振った。
「エイヴァに会う!? アナタが!? ばかげてるわ!!」
憤りのあまり少し言葉を失い、振り絞って付け加える。
「会ったところで、アナタたち二人がマシなこと考えるとは思えなくてよ!?」
アメリアが眉間に皺を寄せて首を傾げる。
「いや、アメリアのことじゃないわ……。エイヴァよ、エイヴァ……」
大聖者イライジャ、大魔道師ミア、剣闘士イーサン、重騎士エイヴァ。要するに、イーサンとエイヴァは前衛で、脳筋なのだ。
「じゃあー、お前ぇもついて来たらいいじゃねえか」
「無茶言わないでよ! 孤児院はどうするの! アナタがアメリアを連れて行ってしまったら、誰が子供達の面倒を見るのよ!」
「イライジャがいんだろが」
それにイライジャが低い唸り声を上げる。
「ああー……無理ですよ……あなた方が揃ったらどうなるか目に見えてます……。誰がそれを止めるのですか? みなさんが行くというなら、私も行かなければ収集つきませんよ!?」
「全員来たら、ガキどもはどうすんだよ!?」
パンパン! と手を打つ音で老人会が止まり、若人に視線が流れた。
「あの子達なら大丈夫。みんな協力してしっかりやってくれるわ。自立できるように、毎日叩き込んでるもの」
老人3名はハッと息を飲み、アメリアがいつも子供達に細かく指示を出して動かしている姿を思い出す。
「よく分からないけど、何だか大変なことがおきようとしてるんでしょ? だったら、行かないと」
小さな子供だったアメリアが急に大人に見え、イーサン、イライジャ、ミアは言葉を失った。
それからイライジャが、その静寂をそっと破る。
「……さあアメリア、貴女はもう寝なさい。明日は早いのです。子供達には私から言っておきますから」
「リジー神父……」
大人しくアメリアがドアから退出すると、ミアはイーサンをじと目で睨みつけ、フンと鼻を鳴らして顔を背けた。
「とんでもないこと言い出してくれましたわね。全く……昔から物事を大きくするのが得意なんですから」
「へっ。局面を動かすのが得意って言ってほしいもんだ。昔から、お前ぇらがいつも机の上でネチこく論戦して進まねぇのを、オレが動かしてやってただろ」
「わたくしたち二人が尻脱ぐいをして、丸く収めて差し上げていたのが正解ですわね」
「ははは……」
「言っとけ。お前ぇらに全部任せてたら、いつまでも部屋から出られねぇんだよ」
その時のミアは、イーサンのいつもの悪態に言い返さず、口を閉じた。
「アメリアに外の世界を見せてあげるつもりでしょう? だったら、もっとスマートになさいよ」
「そんなこた考えてねぇよ。ただ……」
イーサンがそこで言葉を止めたので、ミアとイライジャは彼の顔色を窺う。
「ただ?」
「……アメリアを仕込めば、何とかなるかもしんねぇ」
そう言い残し、イーサンもまた同じ扉を抜けて出ていった。
イライジャとミアはその言葉の真意を察し、お互い顔を見合わせてから、無言のまま俯いた。
そのイーサンがアメリアに向かって口を開いた。
「どこまで聞いた」
アメリアはドアの前で、ばつが悪そうに右足の甲で左足首を掻きながら答える。
「えーと……『クロウマークスワイバーンで、ドラゴンが死んだ』?」
「ほとんどかよ」
「ごめんなさい……入りにくい雰囲気で、ノックできなかった」
イーサンは椅子に腰掛け直し、ため息をついて頭を掻く。
「アメリア。荷物をまとめて旅支度をしろ。明日の朝立つ」
「ああっ……!!」
イライジャは憤り、思わずため息と共に声を上げる。
「アメリアをどこへ連れて行くつもりですイーサン!」
「ゴーサホルツハマーだ」
「何故!?」
ミアも詰め寄った。
ゴーサホルツハマーとは、中央大陸にあたるアクシスの巨大都市で、世界で最も人口の多い王政国家である。
旅に出たこともない、この島から出たこともないアメリアは狼狽え、イーサンに不安な表情を向けた。
「私をここから追い出すの?」
「ちっげーよ、会いに行きたいヤツがいんだ。お前ぇにはオレのお供になってもらう」
「無茶です!」
「そうよ!」
イライジャとミアが口をそろえてイーサンを止めたが、言い出したら最後、このクソジジイが『やっぱりやめました』と改めるはずもなく。
「じゃあどうすんだ。デプスランドの一件は、若い連中に任せておくか?」
ミアが『それは……』と口ごもる。
「ゴーサホルツハマーに行って、エイヴァに会うつもりですか」
イーサンに問いかけるイライジャの言葉で、アメリアが息を呑む。
「エイヴァ……」
アメリアは彼らの名前を知っていた。それも当然、かつて起きた大戦の冒険譚、それを脚色したおとぎ草子に出てくる勇者達の名前だ。イーサン、ミア、イライジャ、エイヴァ。子供も大人も老人も、みんな知っている。
アメリアは子供の頃からずっと、『イーサンはよくある名前だし、ミアが揃っても偶然だ』と思っていた。実際『勇者のように』と子供にその名前を与える親は多かったので、人気の名前ではある。
だがリジー神父が『イライジャ』は、できすぎている。それに加え『エイヴァ』に会いに行く? もう間違いないではないか。彼らはかつての勇者達なのだと核心したアメリアは、半ば動揺し、半ば胸を高鳴らせて話を聞いていた。
アメリアの胸中はさておき、老人3名のうち1名は意見が合わず、狭間の空気がじりじりと焼け焦げそうだ。ミアが大きく両手で遮り、首を横に振った。
「エイヴァに会う!? アナタが!? ばかげてるわ!!」
憤りのあまり少し言葉を失い、振り絞って付け加える。
「会ったところで、アナタたち二人がマシなこと考えるとは思えなくてよ!?」
アメリアが眉間に皺を寄せて首を傾げる。
「いや、アメリアのことじゃないわ……。エイヴァよ、エイヴァ……」
大聖者イライジャ、大魔道師ミア、剣闘士イーサン、重騎士エイヴァ。要するに、イーサンとエイヴァは前衛で、脳筋なのだ。
「じゃあー、お前ぇもついて来たらいいじゃねえか」
「無茶言わないでよ! 孤児院はどうするの! アナタがアメリアを連れて行ってしまったら、誰が子供達の面倒を見るのよ!」
「イライジャがいんだろが」
それにイライジャが低い唸り声を上げる。
「ああー……無理ですよ……あなた方が揃ったらどうなるか目に見えてます……。誰がそれを止めるのですか? みなさんが行くというなら、私も行かなければ収集つきませんよ!?」
「全員来たら、ガキどもはどうすんだよ!?」
パンパン! と手を打つ音で老人会が止まり、若人に視線が流れた。
「あの子達なら大丈夫。みんな協力してしっかりやってくれるわ。自立できるように、毎日叩き込んでるもの」
老人3名はハッと息を飲み、アメリアがいつも子供達に細かく指示を出して動かしている姿を思い出す。
「よく分からないけど、何だか大変なことがおきようとしてるんでしょ? だったら、行かないと」
小さな子供だったアメリアが急に大人に見え、イーサン、イライジャ、ミアは言葉を失った。
それからイライジャが、その静寂をそっと破る。
「……さあアメリア、貴女はもう寝なさい。明日は早いのです。子供達には私から言っておきますから」
「リジー神父……」
大人しくアメリアがドアから退出すると、ミアはイーサンをじと目で睨みつけ、フンと鼻を鳴らして顔を背けた。
「とんでもないこと言い出してくれましたわね。全く……昔から物事を大きくするのが得意なんですから」
「へっ。局面を動かすのが得意って言ってほしいもんだ。昔から、お前ぇらがいつも机の上でネチこく論戦して進まねぇのを、オレが動かしてやってただろ」
「わたくしたち二人が尻脱ぐいをして、丸く収めて差し上げていたのが正解ですわね」
「ははは……」
「言っとけ。お前ぇらに全部任せてたら、いつまでも部屋から出られねぇんだよ」
その時のミアは、イーサンのいつもの悪態に言い返さず、口を閉じた。
「アメリアに外の世界を見せてあげるつもりでしょう? だったら、もっとスマートになさいよ」
「そんなこた考えてねぇよ。ただ……」
イーサンがそこで言葉を止めたので、ミアとイライジャは彼の顔色を窺う。
「ただ?」
「……アメリアを仕込めば、何とかなるかもしんねぇ」
そう言い残し、イーサンもまた同じ扉を抜けて出ていった。
イライジャとミアはその言葉の真意を察し、お互い顔を見合わせてから、無言のまま俯いた。
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