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第58話 枯渇した遺物
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サマナーホールを抜け、鷲獅子の飼育場へと出ると、受付が書類から顔を上げてこちらに挨拶をしてきた。
「お帰りですか」
ケヴィンがやりとりしている間、ミアが鷲獅子を観察しながらイライジャに話しかける。
「昔みたいに戦で使うことがなくなったせいか、穏やかな顔立ちの子ばかりね」
「元々の気性は荒いのですけれどね。今はもう足として活躍しているだけで、戦う訓練はしていないようです。賢い動物ですから何にでも順応できるのでしょう」
「飼育する数も減らしたのね。寝蔵もほとんどがらんどうだし」
「餌を調達するのも一苦労ですからね。慣れた相手からしか食べないと聞きましたし、死んでいる肉は食……べ……」
そう言いながら足元の餌桶を眺めていたイライジャの顔色が変わった。
「ミア……」
「ん? なあに?」
「あれ、ニュートラルグレイターでは!?」
「エ!?」
イライジャの視線の先を追えば、無数に置いてある鷲獅子の餌桶の中に、両手を輪にしたサイズの石造りの桶が見えた。それは他の餌桶と同じくらいのサイズで、パッと見では他と大差ない。慌ててそこに走り込んだ2人が間近で確認し、マレンを呼んだ。
「どうされました、そんな慌てて」
「マレン! あった! みつけた! これ、ニュートラルグレイターよ!」
「えっ!? この餌桶が!?」
「間違いないです。ビオコントラクトを枯渇して輝きを失ってはいますが、これは遺物です」
「ど、どうしてこんな場所に……」
「ここの飼育者に譲ってもらうよう、頼んで来て!」
「は、はい!」
マレンが飼育者を見つけて慌ててそちらに走っていくのを目で追い、受付から戻ってきたケヴィンが眉をひそめる。
「何かあったのですか?」
「あったのよ! これ! ニュートラルグレイターなの!」
「え!? この餌桶がですか!?」
そこにマレンが飼育者の1人を連れて戻ってくると、話は一気に加速した。ミアは高揚してうまく言葉が出せない。
「あの、あの、譲って頂けるかしら? これは歴史的に貴重な遺物なのです……!」
飼育者は特に問題にする様子もなく答えた。
「ああー……鷲獅子はクチバシが凶器みたいなもんですからねえ、石の器じゃないと餌を食べる時にあっという間に壊してしまうんですよ。誰かが丁度いいと思って使っちゃったんだろうなあ」
「ゆ、譲って頂けます……?」
「ええ、勿論です。そんな大事な物とは露知らず、長年餌桶にしてしまって申し訳ない。取り返しがつかない程壊れていなければいいのですが……」
イライジャが小さく拳を握って喜びに堪えている。
「鷲獅子に持たせましょう。今掴みやすいように荷造りしますので少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
そうは言っても夕日は隠れそうだ。慌ててイライジャがニュートラルグレイターを持って行こうとする飼育者を呼び止めた。
「あ! やはりそのままで大丈夫です! 陽が沈むまでに戻らねばならないので、鷲獅子の足に持たせて下さるだけで充分です……!」
「でも爪が鋭いですよお? 力も強いから握りつぶすかもしれないし、うっかり落とすかもしれないし……いいんですか?」
「大丈夫です、この遺物は特殊な鉱物で作られているの!」
「そうですか? じゃあ、まあ」
飼育者はニュートラルグレイターを床に置き直し、来る時に乗ってきた鷲獅子に指示を出した。
「じゃあ後は、搭乗訓練をしたことのある騎士様方にお任せしますので」
ケヴィンとマレンが鷲獅子に跨がり、イライジャとミアを背後に乗せて命綱を鞍にはめ込んだ。手綱で指示を出せば大きな羽根が広がって、そのまま横の空間から城の外へと飛び出した。上空の風は冷たいが、ようやく檻から出られたことで4人はほっと胸を撫で下ろす。
西陽が沈もうとしている。
最後の光で照らされて飛び立つ鷲獅子を上空に見つけ、城下町で待機していたイーサンたちはそれを合図に引き上げに入る。
「何事もなかったな。上出来だぜ」
空を見ているルーカスが目を細めた。
「鷲獅子が何かを足で掴んでるみたい。見える?」
「年寄りに無茶言うなよ。でかいか?」
「ここからじゃ何とも言えないかなー……」
「本部に戻って合流するぞ」
「アメリアたちは気が付いたかな?」
「ルチアがついてんだ、本職はこういうことに慣れてる。ほら、グズグズしてると大門が閉まっちまう」
行くぞと一声、彼らは城外へ向かって大通りを歩き出した。
「お帰りですか」
ケヴィンがやりとりしている間、ミアが鷲獅子を観察しながらイライジャに話しかける。
「昔みたいに戦で使うことがなくなったせいか、穏やかな顔立ちの子ばかりね」
「元々の気性は荒いのですけれどね。今はもう足として活躍しているだけで、戦う訓練はしていないようです。賢い動物ですから何にでも順応できるのでしょう」
「飼育する数も減らしたのね。寝蔵もほとんどがらんどうだし」
「餌を調達するのも一苦労ですからね。慣れた相手からしか食べないと聞きましたし、死んでいる肉は食……べ……」
そう言いながら足元の餌桶を眺めていたイライジャの顔色が変わった。
「ミア……」
「ん? なあに?」
「あれ、ニュートラルグレイターでは!?」
「エ!?」
イライジャの視線の先を追えば、無数に置いてある鷲獅子の餌桶の中に、両手を輪にしたサイズの石造りの桶が見えた。それは他の餌桶と同じくらいのサイズで、パッと見では他と大差ない。慌ててそこに走り込んだ2人が間近で確認し、マレンを呼んだ。
「どうされました、そんな慌てて」
「マレン! あった! みつけた! これ、ニュートラルグレイターよ!」
「えっ!? この餌桶が!?」
「間違いないです。ビオコントラクトを枯渇して輝きを失ってはいますが、これは遺物です」
「ど、どうしてこんな場所に……」
「ここの飼育者に譲ってもらうよう、頼んで来て!」
「は、はい!」
マレンが飼育者を見つけて慌ててそちらに走っていくのを目で追い、受付から戻ってきたケヴィンが眉をひそめる。
「何かあったのですか?」
「あったのよ! これ! ニュートラルグレイターなの!」
「え!? この餌桶がですか!?」
そこにマレンが飼育者の1人を連れて戻ってくると、話は一気に加速した。ミアは高揚してうまく言葉が出せない。
「あの、あの、譲って頂けるかしら? これは歴史的に貴重な遺物なのです……!」
飼育者は特に問題にする様子もなく答えた。
「ああー……鷲獅子はクチバシが凶器みたいなもんですからねえ、石の器じゃないと餌を食べる時にあっという間に壊してしまうんですよ。誰かが丁度いいと思って使っちゃったんだろうなあ」
「ゆ、譲って頂けます……?」
「ええ、勿論です。そんな大事な物とは露知らず、長年餌桶にしてしまって申し訳ない。取り返しがつかない程壊れていなければいいのですが……」
イライジャが小さく拳を握って喜びに堪えている。
「鷲獅子に持たせましょう。今掴みやすいように荷造りしますので少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
そうは言っても夕日は隠れそうだ。慌ててイライジャがニュートラルグレイターを持って行こうとする飼育者を呼び止めた。
「あ! やはりそのままで大丈夫です! 陽が沈むまでに戻らねばならないので、鷲獅子の足に持たせて下さるだけで充分です……!」
「でも爪が鋭いですよお? 力も強いから握りつぶすかもしれないし、うっかり落とすかもしれないし……いいんですか?」
「大丈夫です、この遺物は特殊な鉱物で作られているの!」
「そうですか? じゃあ、まあ」
飼育者はニュートラルグレイターを床に置き直し、来る時に乗ってきた鷲獅子に指示を出した。
「じゃあ後は、搭乗訓練をしたことのある騎士様方にお任せしますので」
ケヴィンとマレンが鷲獅子に跨がり、イライジャとミアを背後に乗せて命綱を鞍にはめ込んだ。手綱で指示を出せば大きな羽根が広がって、そのまま横の空間から城の外へと飛び出した。上空の風は冷たいが、ようやく檻から出られたことで4人はほっと胸を撫で下ろす。
西陽が沈もうとしている。
最後の光で照らされて飛び立つ鷲獅子を上空に見つけ、城下町で待機していたイーサンたちはそれを合図に引き上げに入る。
「何事もなかったな。上出来だぜ」
空を見ているルーカスが目を細めた。
「鷲獅子が何かを足で掴んでるみたい。見える?」
「年寄りに無茶言うなよ。でかいか?」
「ここからじゃ何とも言えないかなー……」
「本部に戻って合流するぞ」
「アメリアたちは気が付いたかな?」
「ルチアがついてんだ、本職はこういうことに慣れてる。ほら、グズグズしてると大門が閉まっちまう」
行くぞと一声、彼らは城外へ向かって大通りを歩き出した。
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