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第63話 警告の鐘
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作業は急ピッチで進められた。城から拝借した剣を潰し、鍛冶屋がソリのエッジを作っていく。それを強化した馬車の底に取り付け、少量の物資を乗せた後、馬に牽引させた。防寒具と食糧を大足の中に詰め込み、ソリ班の各々が用意を終える。
「では先発します」
「お気をつけて。エイヴァ様をどうかよろしく……」
ルチアは騎士団の統率を任されている身で、彼らについていくことができない。見送る彼女はじっと勇者たちの姿を見つめていた。
燃料と食糧を運ぶ後発がまだ用意を続けている中、イーサンたちはクロウマークスワイバーンへと出発することになった。
慌ただしくことが運んだが、ここまでは何事もなく予定通りに進んでいた。しかし思うようにはいかないのが現実。彼らの乗った船が城下の港から出航した後、郊外で不穏な動きが確認される。後発が用意を続ける中、見張りの1人が駆け込んで言った。
「報告!! 上空から無数の飛来物が王宮に向かって進んでいるとの情報が入りました!!」
騎士たちは空を見上げ、空に点々とつけられた黒い鳥のような影を目に入れる。
「魔物だ……!!」
ルチアは倉庫を飛び出し、騒つく騎士たちを一括する。
「後発を任されている者たちは用意を続けよ! 決して物資を届けるのを遅らせてはならない!! 残りの者は馬に乗って私に続け!!」
馬は騒然となり、騎士たちが一斉に動き始める。
城下町に、けたたましく警告の鐘が鳴り響く。城の上空では何処からか飛来した魔物たちが天窓を突き破り、王宮内に入り込もうとしていた。
最も高い位置にある王の間の上で、人一倍体格の良い魔物が翼を広げて怒り叫んでいる。
何処かで見た面影。
「ヴェスパジアーノー!! どこにいやがる!!」
聞き覚えのある声。マテオ・スカラッティだ。
城下町は魔物の到来により大混乱となっており、人々があらゆる方向へ逃げ惑っていた。
大門を閉めた所で魔物は空から入り込む。衛兵だけでは対処ができず、統率はすでに乱れ、市民を守る以前に自分の身すら守れていない。かろうじて剣が当たっても魔物の皮膚は傷付かず、相手は高笑いして人々を追いかけていた。
「ガハハハ! オレたちに人間の武器は通じねえよ!!」
魔物に通じる武器を持つ騎士団が到着するまで、まだ時間がかかる。来た所で人数も足りないのは分かっていたが、それでも魔物討伐は騎士の務めと古くから定まりがある。
街道では幼い弟を庇った少年が追い詰められて行き場を無くし、老いた母親が怪我した息子を抱き起こそうと必死に腕を取り、少女が崩れた瓦礫から逃げ出そうともがいている。
どこを見ても魔物がおり、戦う者が足りない。
すると騒動を聞きつけたのか、酒場からふらふらと出てきた冒険者風の女が剣を抜き、酒瓶片手に戦いを始めた。郊外から走り込む者の中で軽業を使う男もまた、レイピアで魔物を追い払おうと奮闘を始める。ぽろぽろと冒険者たちが剣を抜き、弓を構え、魔物を相手に攻撃を始めた。
「何だこいつら!? どうして攻撃を防げる!?」
街灯の上へ避難した魔物の一匹が、老剣士と共にいる闘犬の牙が妙な光を湛えているのに気づいて叫びをあげる。
「耐魔鉱石じゃねえか!!」
ギャァギャァと雄叫びをあげながら上空に逃げ始める魔物を下から睨みつけ、冒険者たちは自らの武器を構える。
ここはコメツィエラアンボス。
変わり者のドワーフが経営する加工屋に、いつものように冒険者が立ち寄った。
奥にいたドワーフの男はビョルゴルグルで、その男の武器をカウンターの上へ投げ置く。
「できてんぞ」
男はそれを抜いて確かめ、眉間に皺を寄せた。
「相変わらず見事だが……前と刃の色が違うな? 何の加工をしたんだ?」
「貴重な鉱物を手に入れたんでな。『何でも』斬れるようにしておいた」
冒険者は不思議そうに首を傾げていたが、金貨を1枚カウンターの上へ置く。
「金貨1枚。確かに」
ビョルゴルグルはそれだけ答え、横のふいごを拳で叩いた。
王宮の最も高い塔。王の居る部屋の天窓をかち割り、マテオが中に顔を入れた。ジェームズ王は衛兵たちに守られてはいたが、彼らでは相手にならないことを百も承知していた。
「お前もヴェスパジアーノの仲間か」
天井から魔物が入ってくるのもこれで2度目だ。慣れた訳ではないが、しばらくヴェスパジアーノとやりとりをしていたおかげで耐性がついたらしい。
「ほう……? 奴を知ってるのか。奴は今どこにいる?」
「この城にはいない」
「どこへ行った」
王は話が少しおかしいのに気がつき、ヴェスパジアーノが口にしていた話を思い出すと鎌をかけるように答えた。
「……お前も魔王の力が欲しいのか?」
「アアン?」
マテオは急に不機嫌な表情になり、王を睨みつける。
「ヴェスパジアーノと何の契約を結んだんだ? 王よ」
「……世にそんな権限を与えてくれるとでも言うのか、お前たち魔族は」
マテオは王に雄叫びを返し、牙を剥く。
「俺はお前たち人間に興味はない。そしてヴェスパジアーノもそうだ。俺たち魔族が望むもの、それは力だけ。魂を抜かれたくなければ正直に答えろ。奴が行った場所はどこだ!!」
その数分後、王宮の屋根からマテオが飛び立ち、北の空へと飛び去って行った。
「では先発します」
「お気をつけて。エイヴァ様をどうかよろしく……」
ルチアは騎士団の統率を任されている身で、彼らについていくことができない。見送る彼女はじっと勇者たちの姿を見つめていた。
燃料と食糧を運ぶ後発がまだ用意を続けている中、イーサンたちはクロウマークスワイバーンへと出発することになった。
慌ただしくことが運んだが、ここまでは何事もなく予定通りに進んでいた。しかし思うようにはいかないのが現実。彼らの乗った船が城下の港から出航した後、郊外で不穏な動きが確認される。後発が用意を続ける中、見張りの1人が駆け込んで言った。
「報告!! 上空から無数の飛来物が王宮に向かって進んでいるとの情報が入りました!!」
騎士たちは空を見上げ、空に点々とつけられた黒い鳥のような影を目に入れる。
「魔物だ……!!」
ルチアは倉庫を飛び出し、騒つく騎士たちを一括する。
「後発を任されている者たちは用意を続けよ! 決して物資を届けるのを遅らせてはならない!! 残りの者は馬に乗って私に続け!!」
馬は騒然となり、騎士たちが一斉に動き始める。
城下町に、けたたましく警告の鐘が鳴り響く。城の上空では何処からか飛来した魔物たちが天窓を突き破り、王宮内に入り込もうとしていた。
最も高い位置にある王の間の上で、人一倍体格の良い魔物が翼を広げて怒り叫んでいる。
何処かで見た面影。
「ヴェスパジアーノー!! どこにいやがる!!」
聞き覚えのある声。マテオ・スカラッティだ。
城下町は魔物の到来により大混乱となっており、人々があらゆる方向へ逃げ惑っていた。
大門を閉めた所で魔物は空から入り込む。衛兵だけでは対処ができず、統率はすでに乱れ、市民を守る以前に自分の身すら守れていない。かろうじて剣が当たっても魔物の皮膚は傷付かず、相手は高笑いして人々を追いかけていた。
「ガハハハ! オレたちに人間の武器は通じねえよ!!」
魔物に通じる武器を持つ騎士団が到着するまで、まだ時間がかかる。来た所で人数も足りないのは分かっていたが、それでも魔物討伐は騎士の務めと古くから定まりがある。
街道では幼い弟を庇った少年が追い詰められて行き場を無くし、老いた母親が怪我した息子を抱き起こそうと必死に腕を取り、少女が崩れた瓦礫から逃げ出そうともがいている。
どこを見ても魔物がおり、戦う者が足りない。
すると騒動を聞きつけたのか、酒場からふらふらと出てきた冒険者風の女が剣を抜き、酒瓶片手に戦いを始めた。郊外から走り込む者の中で軽業を使う男もまた、レイピアで魔物を追い払おうと奮闘を始める。ぽろぽろと冒険者たちが剣を抜き、弓を構え、魔物を相手に攻撃を始めた。
「何だこいつら!? どうして攻撃を防げる!?」
街灯の上へ避難した魔物の一匹が、老剣士と共にいる闘犬の牙が妙な光を湛えているのに気づいて叫びをあげる。
「耐魔鉱石じゃねえか!!」
ギャァギャァと雄叫びをあげながら上空に逃げ始める魔物を下から睨みつけ、冒険者たちは自らの武器を構える。
ここはコメツィエラアンボス。
変わり者のドワーフが経営する加工屋に、いつものように冒険者が立ち寄った。
奥にいたドワーフの男はビョルゴルグルで、その男の武器をカウンターの上へ投げ置く。
「できてんぞ」
男はそれを抜いて確かめ、眉間に皺を寄せた。
「相変わらず見事だが……前と刃の色が違うな? 何の加工をしたんだ?」
「貴重な鉱物を手に入れたんでな。『何でも』斬れるようにしておいた」
冒険者は不思議そうに首を傾げていたが、金貨を1枚カウンターの上へ置く。
「金貨1枚。確かに」
ビョルゴルグルはそれだけ答え、横のふいごを拳で叩いた。
王宮の最も高い塔。王の居る部屋の天窓をかち割り、マテオが中に顔を入れた。ジェームズ王は衛兵たちに守られてはいたが、彼らでは相手にならないことを百も承知していた。
「お前もヴェスパジアーノの仲間か」
天井から魔物が入ってくるのもこれで2度目だ。慣れた訳ではないが、しばらくヴェスパジアーノとやりとりをしていたおかげで耐性がついたらしい。
「ほう……? 奴を知ってるのか。奴は今どこにいる?」
「この城にはいない」
「どこへ行った」
王は話が少しおかしいのに気がつき、ヴェスパジアーノが口にしていた話を思い出すと鎌をかけるように答えた。
「……お前も魔王の力が欲しいのか?」
「アアン?」
マテオは急に不機嫌な表情になり、王を睨みつける。
「ヴェスパジアーノと何の契約を結んだんだ? 王よ」
「……世にそんな権限を与えてくれるとでも言うのか、お前たち魔族は」
マテオは王に雄叫びを返し、牙を剥く。
「俺はお前たち人間に興味はない。そしてヴェスパジアーノもそうだ。俺たち魔族が望むもの、それは力だけ。魂を抜かれたくなければ正直に答えろ。奴が行った場所はどこだ!!」
その数分後、王宮の屋根からマテオが飛び立ち、北の空へと飛び去って行った。
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