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十二、疑問
しおりを挟む「また戦、今日もまた戦です。なぜ、仲良くできないのでしょうか……」
ユタは会原の顔を見た。
「それが男の性だからだ。男は子孫を残すため、自分の縄張りを示すために、むやみに衝突しあう生き物なのだ」
歴史書に目を落とした。このところ、ずっと戦の歴史が続いている。初めこそ二神のもとで平和に暮らしてきた四つの国であったが、それぞれの国同士で小競り合いが始まった。次第に戦は大きくなり、四つあった国の二つは滅び、今は二つの国が競い合っている。
「お前は珍しいな。この話を聞かせると、たいていの男たちは目を輝かせる。戦うことこそ本能だとばかりにな」
「ぼ、僕はけんかが弱いし……。できれば戦いたくありません……」
「そうか、逃走も生き延びる知恵だな。だが、裾の宮でもこの歴史と同じことが繰り返されている。西と東はいつも勢力闘争をしているだろう。男は戦うことが好きなのだ」
「だけどそれは、官吏様の派閥が影響しているのだと聞きました」
「ふん、それはお前たちの見方に過ぎない。わたしたちから見れば、西も東も大して変わりがないのだ」
「そ、そうなんですか……」
「先に進むぞ。あと数日は戦が続く」
「戦が終わったらどうなるのですか?」
「それは読んでいけばわかる」
ゼロの部屋でも全く同じ話を口にしていた。
「戦の話ばかり続くのです。戦の間、誰が稲を育て、木を倒すのでしょうか。たった一文で、千人もの人が一気に亡くなってしまうんです。こんなにたくさん死んでしまっては、国から人がいなくなってしまいます。それとも、一日千五百とかの子どもが生まれているのでしょうか?」
「数字もわかるようになってきたのだな」
「はじめは数が大きくなると途方に暮れてしまいましたが、今はとても便利なものだと思います」
「そうか、ではお前にこれをやろう。同室の者と平等に分けるとひとりいくつになる?」
ゼロが指した宗和膳には、豆菓子が載っていた。
「……ええと、全部で二十六粒ありますから、三人で分けると……。まず、五個ずつ配って、残りが十一。今度は、三個ずつ配って、残りが二。ひとり八個ずつ、余りが二個です、ゼロ様」
「よくできたな。そのうち割り算も教えてもらうといい」
「はい。二個余るのはどういたしましょう」
「わたしとお前でひとつずつだ」
そういうと、ゼロが豆菓子をふた粒取り上げ、ひと粒をユタの手に持たせ、もうひと粒を口に含んだ。
(ゼロ様……)
「う、うれしゅうございます……」
宿暮らしでマナホとふたり、稀に手に入った果物などをわけあったり譲りあったりしたのを思い出す。頬を染めたユタの頭をゼロがよしよしとなでた。マナホの時には思わなかったが、今はその手に頬を擦りよせ、口づけしたいと強く感じた。
豆菓子の包みを懐に忍ばせて戻る間、ユタはふと思いついた。
「三人で分けると八個ずつだけど、四人で分けると六個ずつ。どっちも同じ、二十四個だ……!」
ユタは部屋に戻るとさっそく菓子を小分けにした。
(ヒノリ様に持って行ってあげよう。マチホ様がもうすぐ良くなるって言ってたし)
「俺達だけで分ければいいのに。気前がいいなあ、お前」
「ゼロ様からもらったお菓子だから、きっとヒノリ様も元気が出るんじゃないかと思うんだ」
「まあ、いいけど……」
御勤めに出ているコミカに代わって、タシホが共についてくれた。
東部屋のヒノリとマチホの部屋の前にやってくると、なにやら様子がおかしかった。御用郎たちが部屋に詰め掛けていた。
タシホが、はっとして近くの御用郎の肩を掴んだ。
「おい、まさか……」
「ヒノリ様が亡くなられた……」
「えっ……?」
思わず、ユタの手から紙包みが滑り落ち、豆菓子が一気に散らばった。その音で御用郎たちが一斉に振り返った。
「ユタか?」
御簾を上げてマチホが顔を出した。
「マ、マチホ様……。嘘ですよね……? だって、この前までもうすぐ良くなるって……」
マチホは静かに視線を落とした。
「水上様の話では、時が遅すぎたらしい……。もう少し……早ければ……」
(なんで……?)
「しかたない……。これも御用郎の定めだ……」
(しかたない……、しかたない……?)
ユタは知らぬ間に歯を食いしばっていた。
「なんで……、なんで……なんで……」
頭ではわかっている。この国では男に生まれたものは誰もがもれなく、ふるいにかけられる。ふるい落とされた者にはなんの価値もない。価値がないのだ。それはわかっている。だが、この胸の切なさは、どこへもって行けばいいのだろう。
「うっ……ぐっ……うえっ、えっ……」
こらえきれず、ユタは腕で顔を覆った。
(わからない、わからないよ……。マナホ、どうして、女は強くて、男の立場はこんなに弱いの……?)
「ユタ……、最後にヒノリに会ってくれるか」
床に就いたまま冷たくなったヒノリの顔はいつかの美麗さはどこにもなく、ただ青黒く頬はこけていた。タシホがユタの落とした豆菓子を拾って持ち、ヒノリの枕元に置いた。涙が止まらなかった。
しばらくして、タシホがユタに離席を促した。
「待て、これをもらってくれ、ユタ」
マナホが包みを差し出した。
「ヒノリの硯と、俺の文鎮だ。俺ももう、ここにはいられないかもしれない。せめてもの感謝のしるしだ」
その言葉がさらにユタの心を締め付けた。うわぁと声を上げると、あたりの御用郎からもらい泣きの声が聞こえた。
部屋に戻った後、ユタは包みを広げてしばらくじっと見ていたかと思うと、ぷっつりとなにも言わなくなった。
(わからない、わからないよ……)
ユタはこれまでの暮らしを思い返していた。淘汰された男たちの、粗末な宿暮らし。ごく簡単な採集や罠猟以外は狩りもできず、ごくごく小さな畑を耕し、湖で魚を獲るという貧しい暮らし。それも、それらすべての活動や生産を許されているわけではなく、宿の位置や規模によって生きていかれるか行けないかのギリギリのところで制限されているのである。宿の者たちが暮らしていくためには、国からの施しが不可欠であった。すなわち、属する宿から種を排出すること、それが男たちの生き残る主たる営みなのだった。生まれてすぐ宿に送られたユタは、それが当たり前だと思っていた。
宿の男たちは管理され見張られていた。槍と剣、そして弓を持った役人たちに。なにか文句を言ったり不都合なことがあれば、役人たちは一声かけることもなく男たちを切り捨てた。理不尽だと思うことはしばしばあったが、この勢力や体制を塗り替える方法はなかった。
宿で暮していたとき、一番つらかったことは、マナホが自分の代わりに傷つけられたときだ。滓児として体も小さく立場の弱かったユタは、ときに男にも女にも目を付けられることがあった。そのとき、決まってマナホが間に入り、身を挺し、ときには身代わりになって守ってくれた。役人の機嫌を損ねたユタの代わりに、マナホがむち打ちに処されたときは、自分が打たれた方が楽だと思った。
男に生まれたというだけで、このような立場に置かれ冷遇を強いられ、虐げられなければならない理由は何なのか。マナホが守ってくれていた間は、それほど強く思わなかった。ただ、いら立ちや恨みに感じることはあったが、それはそれとして受け入れてきた。だが今は……。
(ゼロ様はあんなにお優しいのに、なぜ……?)
国司長官というこの国での最上位に位置する者、それがゼロだ。これまで接してきた間、ゼロは少なくとも、男だからという理由でをむやみに虐げたりはしなかった。それどころか、保護者として無償の愛をくれたマナホのような温かさや慈しみすら感じる。
(歴史もそうだ。国の始めは豊春古米女神と天津常照男神が仲良く手を携えて、人の世を作ったのに……)
マナホにもわからなかったあの疑問が、ユタの胸にふつふつと色濃く湧き上がっていた。
(なぜ男は、女より虐げられなければならないのだろう……)
こちらもぜひお楽しみください
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