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第七章
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杉崎愛美は、拍子抜けするほどあっさりとみつかった。彼女は、体育館裏のベンチの上に体育座りをして何やら遠くを見ているようだったが、その瞳は虚ろで、焦点は定まっていない。ご丁寧に、犬飼東中の制服を着ているので、小太りの守衛にも呼び止められなかったのだろう。管理台帳には彼女の名前は書かれていなかった。体育館では、バスケットボールの授業が行われているらしく、キュキュっというバッシュのスキール音が鳴り響き、
「ナイッシュー、ヒデキー!」
という威勢の良い声がこだましていた。
(さて、どうしたらよいものか……)
考えがまとまる前に俺は、彼女の方へ歩み寄り、隣に腰掛けた。俺が隣に腰掛けるまで、俺の存在にすら気付いていなかったらしい彼女は、突然湧いて出てきた男を訝しむような眼で一瞥して、再び、視線を下へと落とした。数分間の沈黙の後、彼女は、俯いたままの状態で、
「私に何か用?」
と、ぶっきら棒に言葉を放った。杉崎南加子の話によると、娘は、とても真面目で礼儀正しくて、明るくて素直な子……だということだが、初対面の他人に対する態度は、母が語る娘の印象とはかけ離れていた。ただ単に俺を警戒しているだけなのか? それとも、こっちの杉崎愛美がデフォルトで、母親の前では、いい子を演じていたのか? どちらが真実なのかは判らないけれども、第一印象は最悪だと思った。
「杉崎愛美さん、ですよね?」
「そうだけど。だったら?」
高圧的な態度でそう言い放つと、彼女は、初めて顔を上げて俺の方を見た。その表情は、まるで、世界中で自分が一番不幸とでも言いたそうな救い難い表情で、泣きはらした目は、赤く充血し、瞼は腫れ上がり、目を開けていることさえ辛そうだった。
「あなたのお母さんに頼まれて、あなたを連れ戻しに来たんですよ」
「母に?」
「はい」
「アンタ、母とはどんな関係なの?」
「職場友達……といったところですかね」
「母の職場に男はいない筈だけど?」
「ああ……あなたのお母さんとは違う店舗で働いています。お母さん、よくうちの店に買いに来てくれるんですよ。休憩室でもしょっちゅう行き会うので、よく話をするようになりました。まあ、そんな感じです」
俺は、彼女の警戒心を解くために、少々話を盛った。なんで、俺が、初対面のこんな小娘に気を遣わなければならないんだと思うと、少々不愉快になってきた。
「ナイッシュー、ヒデキー!」
という威勢の良い声がこだましていた。
(さて、どうしたらよいものか……)
考えがまとまる前に俺は、彼女の方へ歩み寄り、隣に腰掛けた。俺が隣に腰掛けるまで、俺の存在にすら気付いていなかったらしい彼女は、突然湧いて出てきた男を訝しむような眼で一瞥して、再び、視線を下へと落とした。数分間の沈黙の後、彼女は、俯いたままの状態で、
「私に何か用?」
と、ぶっきら棒に言葉を放った。杉崎南加子の話によると、娘は、とても真面目で礼儀正しくて、明るくて素直な子……だということだが、初対面の他人に対する態度は、母が語る娘の印象とはかけ離れていた。ただ単に俺を警戒しているだけなのか? それとも、こっちの杉崎愛美がデフォルトで、母親の前では、いい子を演じていたのか? どちらが真実なのかは判らないけれども、第一印象は最悪だと思った。
「杉崎愛美さん、ですよね?」
「そうだけど。だったら?」
高圧的な態度でそう言い放つと、彼女は、初めて顔を上げて俺の方を見た。その表情は、まるで、世界中で自分が一番不幸とでも言いたそうな救い難い表情で、泣きはらした目は、赤く充血し、瞼は腫れ上がり、目を開けていることさえ辛そうだった。
「あなたのお母さんに頼まれて、あなたを連れ戻しに来たんですよ」
「母に?」
「はい」
「アンタ、母とはどんな関係なの?」
「職場友達……といったところですかね」
「母の職場に男はいない筈だけど?」
「ああ……あなたのお母さんとは違う店舗で働いています。お母さん、よくうちの店に買いに来てくれるんですよ。休憩室でもしょっちゅう行き会うので、よく話をするようになりました。まあ、そんな感じです」
俺は、彼女の警戒心を解くために、少々話を盛った。なんで、俺が、初対面のこんな小娘に気を遣わなければならないんだと思うと、少々不愉快になってきた。
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