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2話 魔法薬の効能1
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昼食もそこそこに、私達は午後の業務に戻る。
友人はお裾分けして貰った子から所謂惚れ薬ではなく合法な血行促進剤だと説明されたらしいが、恋が成就するカラクリの説明としては不十分に感じる。
(……細かい成分分析が必須なのは当然だよね。時間経過で効果は薄れるなんて言ってたけど、本当なのか疑わしい。)
私の研究分野は人間の感情を制御する薬品で、主に鎮静剤や、睡眠導入剤といったリラックスできる薬を研究している。今回の「恋する魔法のジュース」は息抜きの研究題材として前から探していた条件にピッタリだ。恋人ができるということは、恐らく興奮剤、精力剤、媚薬といった、普段のテーマと真逆である可能性が高いため、何かしら参考になるのではないかと考えたのだ。毒が作れるなら薬が作れるのと一緒で、今回の薬と普段の薬は表裏一体の関係性である可能性がある。その手段で新たな鎮静剤を生み出せるかもしれない。
まあこんなのは研究者としての建前で、本音は「効果があるなら好きな人に使ってみたい」という巷の恋する乙女達と同じものだ。
どう考えても怪しい物だが、怪しすぎて研究意欲が沸々と湧き上がってくる。今日の業務は主に上層部へ提出する報告書作りなので、かなり急げば定時の2時間前には終わるだろう。
「なあアン、なんか今日すごくスピード早いけど、この後予定でもあるのか?」
向かい合わせの席に座るリックから私の勢いがよく見えるらしく、疑問を問いかけてきた。
「うん、ちょっと研究したいことがあって。」
馬鹿正直に説明するとややこしくなりそうだったので、適当にはぐらかす。
「じゃあこの後もしばらく研究室に残るのか?」
「そうだね。でも調べること自体はすぐ終わりそうだから定時には帰るよ。」
「なら、俺もそれまでにやること終わらせるか。流石に街中がお祭りモードなのに残業する気力はない。」
気合いを入れるためなのか、腕を頭の上まで勢いよく伸ばしながら残りの書類の山を見る。
よし、私の研究が終わるまで残ってくれるのは大変ありがたい。尚更仕事を早急に終わらせて準備に取り掛からねば。
提出物をひとまとめにし、机の上でトントンと書類の束を叩いて整頓していると、外が騒がしいことに気付く。窓の外の様子を伺うと、敷地内に併設されている初等部が下校時間を迎えたらしく、生徒達が中央広場で雪合戦をしていた。まだ日は建物群より上に出ており、予定通りの時間配分をできたことに内心ガッツポーズをする。
今すぐ経理部に書類を持って行ったら仕事を追加されそうなので一旦後回しにする。
席から立ち上がり、壁にズラリと並ぶ天井に届く高さの備品管理棚から必要な物を取り出していく。集気びん、三角フラスコにガスバーナー。一般的な実験器具から、魔力の結晶石や魔法陣を安定させる為の触媒まで、様々な器具を実験用デスクの上に並べていく。
何かしらの魔法が付与されている可能性を考慮して、精神系魔法の解呪法が記載される魔道書も隣に用意しておく。
ーーふむふむ、友達が聞いた話の通り、血行促進効果はありそうだね。精力剤によく見られる反応も起こしているから、栄養剤であることは間違いない。とりあえず偽物ではないことは確定っと。
明らかになった事実を次々と端末に入力していく。この端末はディスプレイが魔法によって空中に表示されていて、汚れた手で触っても問題ないところが非常に魅力的だ。通信機能さえ有れば書類もこれ一つで完了するのに。
分析も最終段階まで進み、大まかな構造は把握できたのだが、一点だけ不可解な点があり、行き詰まってしまう。どうやら最後の仕上げとして強力な魔法が掛けられているようだが、肝心の魔法が解析できない。一般の魔法薬学では使用しない魔法を使っているのだろうか。いくら魔導書を捲っても欲しい情報が出てこない。
ーー今日中にササっと終わりそうと思ってたのに、とんでもない隠し罠があるなんて!!
ああでもない、こうでもない、と頭を悩ませていたその時。
「それってなんの魔法薬なんだ?なんかすっごく変な色してるけど。」
私の背後からリックが物珍しそうな表情をしてヒョコッと顔を覗かせた。
「ふぇっ!?きゅ、急に耳元で喋らないでよ!」
突然の出来事に身体が大きく跳ね、抗議するために後ろへ振り向く。お互いの頬が当たりそうな距離に、防護マスク越しに顔が真っ赤に染まる。
「友達に依頼されて魔法薬が違法じゃないか調べてるんだ。その子も人から貰ったらしくて詳しいことがはっきり分かってないんだよねー。」
「お人好しかよ。」
眉を寄せながらフラスコに出されたピンク色の液体を見つめる。
「私も興味あったからwin-winの関係なので大丈夫!」
ふーんと呟きながら、リックはそばに置いてあった小瓶を持ち上げ、クルクル回して容器の形状を確認する。
説明書きは貼っていないので正体はバレないはずだが、見ていてヒヤヒヤする。使う前に効果を知られてしまうとプラセボ効果等によって、本来とは異なる結果が出てしまう。
「そういえば報告書提出しなくて良いのか?」
リックがふと思い出したように尋ねる。時間はまだ大丈夫なはずでは……と室内の時計を見る。私が想像していた時刻より30分も進んでいた。
「あれ!?もうこんな時間!?後回しにしてたら完全に忘れてたー!ありがとう!!」
積み上げていた提出物を引っ掴み、大急ぎで研究室を後にする。
「……アイツ、この魔法薬の本性を知らないのかな。」
そう呟く声は私の耳には届かなかった。
友人はお裾分けして貰った子から所謂惚れ薬ではなく合法な血行促進剤だと説明されたらしいが、恋が成就するカラクリの説明としては不十分に感じる。
(……細かい成分分析が必須なのは当然だよね。時間経過で効果は薄れるなんて言ってたけど、本当なのか疑わしい。)
私の研究分野は人間の感情を制御する薬品で、主に鎮静剤や、睡眠導入剤といったリラックスできる薬を研究している。今回の「恋する魔法のジュース」は息抜きの研究題材として前から探していた条件にピッタリだ。恋人ができるということは、恐らく興奮剤、精力剤、媚薬といった、普段のテーマと真逆である可能性が高いため、何かしら参考になるのではないかと考えたのだ。毒が作れるなら薬が作れるのと一緒で、今回の薬と普段の薬は表裏一体の関係性である可能性がある。その手段で新たな鎮静剤を生み出せるかもしれない。
まあこんなのは研究者としての建前で、本音は「効果があるなら好きな人に使ってみたい」という巷の恋する乙女達と同じものだ。
どう考えても怪しい物だが、怪しすぎて研究意欲が沸々と湧き上がってくる。今日の業務は主に上層部へ提出する報告書作りなので、かなり急げば定時の2時間前には終わるだろう。
「なあアン、なんか今日すごくスピード早いけど、この後予定でもあるのか?」
向かい合わせの席に座るリックから私の勢いがよく見えるらしく、疑問を問いかけてきた。
「うん、ちょっと研究したいことがあって。」
馬鹿正直に説明するとややこしくなりそうだったので、適当にはぐらかす。
「じゃあこの後もしばらく研究室に残るのか?」
「そうだね。でも調べること自体はすぐ終わりそうだから定時には帰るよ。」
「なら、俺もそれまでにやること終わらせるか。流石に街中がお祭りモードなのに残業する気力はない。」
気合いを入れるためなのか、腕を頭の上まで勢いよく伸ばしながら残りの書類の山を見る。
よし、私の研究が終わるまで残ってくれるのは大変ありがたい。尚更仕事を早急に終わらせて準備に取り掛からねば。
提出物をひとまとめにし、机の上でトントンと書類の束を叩いて整頓していると、外が騒がしいことに気付く。窓の外の様子を伺うと、敷地内に併設されている初等部が下校時間を迎えたらしく、生徒達が中央広場で雪合戦をしていた。まだ日は建物群より上に出ており、予定通りの時間配分をできたことに内心ガッツポーズをする。
今すぐ経理部に書類を持って行ったら仕事を追加されそうなので一旦後回しにする。
席から立ち上がり、壁にズラリと並ぶ天井に届く高さの備品管理棚から必要な物を取り出していく。集気びん、三角フラスコにガスバーナー。一般的な実験器具から、魔力の結晶石や魔法陣を安定させる為の触媒まで、様々な器具を実験用デスクの上に並べていく。
何かしらの魔法が付与されている可能性を考慮して、精神系魔法の解呪法が記載される魔道書も隣に用意しておく。
ーーふむふむ、友達が聞いた話の通り、血行促進効果はありそうだね。精力剤によく見られる反応も起こしているから、栄養剤であることは間違いない。とりあえず偽物ではないことは確定っと。
明らかになった事実を次々と端末に入力していく。この端末はディスプレイが魔法によって空中に表示されていて、汚れた手で触っても問題ないところが非常に魅力的だ。通信機能さえ有れば書類もこれ一つで完了するのに。
分析も最終段階まで進み、大まかな構造は把握できたのだが、一点だけ不可解な点があり、行き詰まってしまう。どうやら最後の仕上げとして強力な魔法が掛けられているようだが、肝心の魔法が解析できない。一般の魔法薬学では使用しない魔法を使っているのだろうか。いくら魔導書を捲っても欲しい情報が出てこない。
ーー今日中にササっと終わりそうと思ってたのに、とんでもない隠し罠があるなんて!!
ああでもない、こうでもない、と頭を悩ませていたその時。
「それってなんの魔法薬なんだ?なんかすっごく変な色してるけど。」
私の背後からリックが物珍しそうな表情をしてヒョコッと顔を覗かせた。
「ふぇっ!?きゅ、急に耳元で喋らないでよ!」
突然の出来事に身体が大きく跳ね、抗議するために後ろへ振り向く。お互いの頬が当たりそうな距離に、防護マスク越しに顔が真っ赤に染まる。
「友達に依頼されて魔法薬が違法じゃないか調べてるんだ。その子も人から貰ったらしくて詳しいことがはっきり分かってないんだよねー。」
「お人好しかよ。」
眉を寄せながらフラスコに出されたピンク色の液体を見つめる。
「私も興味あったからwin-winの関係なので大丈夫!」
ふーんと呟きながら、リックはそばに置いてあった小瓶を持ち上げ、クルクル回して容器の形状を確認する。
説明書きは貼っていないので正体はバレないはずだが、見ていてヒヤヒヤする。使う前に効果を知られてしまうとプラセボ効果等によって、本来とは異なる結果が出てしまう。
「そういえば報告書提出しなくて良いのか?」
リックがふと思い出したように尋ねる。時間はまだ大丈夫なはずでは……と室内の時計を見る。私が想像していた時刻より30分も進んでいた。
「あれ!?もうこんな時間!?後回しにしてたら完全に忘れてたー!ありがとう!!」
積み上げていた提出物を引っ掴み、大急ぎで研究室を後にする。
「……アイツ、この魔法薬の本性を知らないのかな。」
そう呟く声は私の耳には届かなかった。
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