White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Because there was you~2人の本当の出逢い~

第3話

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「ひどい……」
 海斗の話を聞きながら、俺は何とも言えない怒りが込み上げていた。
 親子なのに、家族なのに……。
「そうかもな。でもうちはそれが普通だったんだ。俺にとって家族は赤の他人よりも遠い存在だったよ……」
 俺の心の声が聞こえたかのように、海斗は公園で遊んでいる何組かの親子を、目を細めて眺めながらそう言った。
「そんなのって……」
 海斗になんて言って声を掛けたらいいのか分からなかった。
 そして、なんでこんな話をしてくれるんだろうって思ってた。
 確か、俺のことをいつから好きになったのかって話だったはずなのに――。
「中学に入ってから……親父は仕事の拠点をパリに移したんだ」
 俺が不思議に思っていると、海斗は再び話し始めた。
「母さんと兄貴も、一緒にパリに行っちまった。……親父は使用人達も、あの家にいる全員を連れてパリに行ったんだ」
「え?」
 ぼそりと話した海斗の言葉に俺は驚いた。全員って……。
 でも、その言葉は俺が不思議に思っていた謎が解けた瞬間でもあった。
 海斗の家に橘さんと海斗しかいないように思えたのは、勘違いでも気のせいでもなかったんだ。
 本当に2人だけだったんだ……。
「……俺は、高校を卒業してから来いと言われてた。……橘は親父の執事だったんだが、あいつが志願して俺の為に残ってくれたんだ。俺が唯一話せる相手でもあったからな……」
 海斗は公園を眺めたまま話を続ける。
「唯一話せる相手って……まさか……」
 俺は不思議だった。
 確かに海斗はクールなイメージだけど、すぐ俺にちょっかい出してきてたっていうか、まぁただバカにされていただけなんだけど、誰とも話さないっていうタイプでもなかったから。
「あの家の中では……俺はまるで腫れ物にでも触れるかのような扱いだった。兄貴とも年が離れていたし、親父も母さんも俺を構うことはなかったしな。使用人達も俺に気を遣っていたんだろう。俺はそれが嫌だったんだ。だから、皆に酷いこと言ったり、無理な要求をしたりしてた……。でも橘だけは違ってた。優しくもしてくれるし、言うことも聞いてくれた。でも、ちゃんと叱ってくれたんだ……」
 海斗の話を聞いて、俺は海斗っていう人間が少し分かった気がした。
 きっと、海斗は愛情が欲しかっただけなんだ。
 ちゃんと自分をひとりの人間として接して欲しかったんだ。
 だからいつもわざと怒るようなこと言ったりして……。
 俺はじっと海斗を見つめた。
「優希。覚えてないか? お前と逢った時のこと」
 俺の視線に気付いてか、海斗はふと俺を見た。
 そして再び俺との出逢いの話をしてきた。
 ここで逢ったって……いつだっけ?
 俺は思い出せなくて首を傾げる。
「13歳の時……中1の春休みに入った頃だ。ちょうど親父達がパリに発った日に、俺はこの公園に来た。橘にも内緒で。夕方の……暗くなる少し前くらいの時間。この公園で捨てられてた子猫を見つけたんだ」
「え?」
 昔を思い出すように遠い目をした海斗を見つめながら、俺は海斗の言葉でふと昔見た風景を思い出した。
 まさか……。
「真っ白な子猫で。必死に鳴いてるその姿が、子供の頃の自分と重なって……。でも手を差し出すこともできずに、ただじっと見てた……その時に光を見たんだ」



 ――海斗過去編――



「可愛いっ!」

 俺が子猫を見下ろしていると、急に明るい声がすぐ横で聞こえて驚いた。
 ふわりとその声の主は何の躊躇いもなくその場にしゃがみ込んで子猫を抱き上げたんだ。
「うわぁっ。ちっちゃーい。可愛いっ。ねっ?」
 急に振り返られ、俺はどうしていいか分からなかった。
 天使かと思った……。
 率直な感想。
 子猫ではなく、そのキラキラとした存在が天使だと思ったんだ。
 茶色い柔らかそうな髪。大きな瞳。満面の笑み。
 俺には全てが眩しかった。
 初めて逢ったばかりだというのに、その子は俺に笑顔を向けている。
 今まで見てきた笑顔とは違う。
 俺の周りの人間は、俺という存在に笑顔を向けていたんじゃない。
 藤條という名前にだ。
 クラスメイトも先生も――皆。
 前までいた使用人達も皆一緒だ。
 笑顔の裏で何を考えているかなんて分からない。
 誰も信じられなかった。
 その人の中に黒い何かを見た気がしたから……。
 でも……今目の前にいるこのキラキラした存在は俺を見て笑っている。
 本当に嬉しそうに。無邪気に。可愛く。
 きっと真っ白なんだろうな……。
「ねぇ、この子、おにいさん飼ってあげるの?」
 ぼんやりしていた俺にその子はじっと見上げてそんなことを言ってきた。
「え? あ、いや……うちは……」
 やっぱり無理だろうな……俺と橘しかいないし……。
 困った顔で見下ろすと、その子は子猫をぎゅっと抱き上げたまま俺をじっと見上げる。
「ダメなんだ?」
 ちょっと悲しげな顔になる。
 そんな顔をしないでくれ……。更に困る……。
「んー……じゃあ、うちで……お母さんに頼んでみるっ!」
 悲しげな顔が一転。また眩しいくらいの笑顔になった。
「飼えるのか?」
「うー……分かんない。でも、もしダメでも俺が飼ってくれる人探すから、大丈夫だよっ。心配しないでねっ」
 不安そうな俺の顔を満面の笑みで見上げる。
 なんでこんな眩しい笑顔ができるのだろう……。
 俺は思わず見惚れていた。
「探すって……」
 ぼんやりとしながらも、気になった言葉に反応する。
「だって……おにいさん、泣きそうな顔でこの子を見ていたから……。こんなにちっちゃいもんね。可哀想だよね」
 じっと子猫を抱き上げたまま悲しそうに見つめる。
「捨てるなんてヒドイよね……」
 そう言って子猫をぎゅっと抱きしめた。
 ニャーンと小さな声で子猫が鳴いた。
「大丈夫だよ。お前をひとりには絶対にしないからね。心配しないでね」
 そう言って子猫の頭に頬擦りしていた。
 その言葉と行動に俺はまるで何か電気のようなものが全身を駆け巡ったような感覚に襲われた。
「あ、ねぇっ。この子に名前を付けてあげてっ」
 突然俺を見上げて嬉しそうにそう言ってきた。
「え?」
 何を言われたのかとぎょっとした。
「だって……おにいさん、ほんとはこの子、飼ってあげたかったんでしょ?」
 ぎゅっと子猫を抱きしめたまま、再び満面の笑みをキラキラとさせながら俺を見上げてきた。そして子猫もニャーンと再び鳴く。
「……俺が、付けていいのか?」
 その子を見下ろしながら、どうしていいか分からず問い掛けた。
「うん。付けてあげてっ」
 その子の天使のような輝いている笑顔と、そして真っ白な子猫をじっと見下ろす。
「……じゃあ、『ユキ』っていうのは?」
 なんとなく頭に浮かんだ名前を言ってみた。
「え?」
 意外にもきょとんとした顔をしていた。
 おかしかったんだろうか?
「……うん。いいよっ。『ユキ』ねっ! へへっ。お前は今日からユキだよっ。良かったねっ。しかも俺の名前に似てるしっ」
 不安そうな俺の顔を目をぱちぱちして見上げていたが、すぐにまた笑顔になって話した言葉に、今度は俺が驚いた。
「え? 似てるって……」
「へへ。俺、『ユウキ』っていうのっ。ね? 似てるでしょ? えへへっ」
 嬉しそうに『ユウキ』は笑っていた。
 いい名前だな。素直にそう思った――。

「こんなところにっ」

 そこへ聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、息を切らせながら走ってきた橘の姿が見えた。
「あ……橘」
 そうだった……。黙って出てきたんだった。心配させてしまったな……。
 ちょっと申し訳なさそうに俯く。
「あ、おにいさん、お迎え?」
 ユウキはきょとんとして俺を見上げる。
「あ……あぁ」
 もう少し一緒にいたい。話がしたい。そう思った。
「そっか……。じゃあ、またねっ。ユキのことは俺にまかせてねっ」
 俺に手を振る。天使のような笑顔と一緒に。
「あぁ……ありがとう。それじゃあ、また」
 そう言って俺達は別れた。

 だが、そこで離れてしまったことを俺は後悔した。
 次の日も、そのまた次の日も、公園に行ったがユウキはいなかった。
 そのまま会えなくなってしまった。
 もう一度、あの笑顔が見たかった。話をしたかった。

 それから俺はずっとユウキのことを想っていた。
 もちろん自分の家の名前を使えばきっと探し出すこともできただろう。
 でも、それじゃあ意味がないんだ。自分で探さなきゃ。
 もう一度、ユウキに逢いたい……。



 ☆☆☆



 神は――本当にいるのかもしれない。そう思った。

 俺は親父の薦めを無視して近くの公立高校へと入学した。
 その入学式が終わった帰り。
 橘が迎えに来てるであろう場所まで歩いていた時。
 ふと聞こえてきた話し声に俺は耳を疑った。

「ユウキっ。ちょっと待ってよっ」
 女子の声。
 ユウキ……? まさか……。
 俺は思わず声が聞こえた方を見た。

「もう、ユリ……おっせぇ……」

 追い掛けてくる女子を不機嫌そうに振り返ったその姿に、俺は今度は自分の目を疑った。
 柔らかそうな茶色い髪。大きな瞳。小柄なその姿。
 しかし……その『ユウキ』と呼ばれた子は……男子だった。
 俺はあの時のユウキをずっと女の子だと思っていたんだ。
 でも、俺は自分の目を信じた。間違いない。
 あれは『ユウキ』だ。やっと見つけた。また……逢えたんだ。
 あの時の笑顔はなかったけど、俺は確信していた。
 しかし、俺はユウキに声を掛けることはできなかった。
 すぐそばにいるのに。ユキのことも聞きたいのに。どうすればいいか分からなかった。
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