White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

文字の大きさ
116 / 249
Wedding~消えた花嫁~

第5話

しおりを挟む
 ふたり分の靴を用意したルイが思い出したようにぽんと手を打った。
「すみません、私としたことが……ここで着替えてもらってもいいのですが、実はこれからまだやることがありまして。大変申し訳ないのですが、更衣室にご案内しますので移動をお願いできますか?」
 確かに新婦の兄であり、王族のルイが暇な訳はなかったのである。
 逆に申し訳なくなり、優希はふるふると首を横に振った。
「ううん。瑠依さんも忙しいよね。俺たちのせいでごめんね」
「いえいえ。おふたりをお呼びするのが私の大事な任務でしたから。では、ご案内しますのでついて来てください」
 にこりと微笑むと、ルイはそのまま扉に向かって歩き出した。
 優希と海斗はソファーから立ち上がると、ルイの後に続いた。

 部屋を出ると、ふと海斗は振り返って扉をちらりと眺める。
 思った通り、黒の魔女に捕まっていた時、エリスと一緒に来た部屋だ。
 あの時見た大きな木の扉は城が戻った時に掃除でもしたのか、以前見た時とは違い、淡く白っぽい茶色をしている。
 少しだけ懐かしい気持ちになる。
 しかしすぐに前を向くと、優希の隣に並びそっと手を握った。
「ちょっとっ!」
「何?」
「もうっ……」
 いつものように顔を真っ赤にして怒る優希を、何食わぬ顔で見つめる。
 そんな海斗を見ながら優希は頬を膨らませながら横を向いてしまった。しかし、手は繋がれたまま。
 ふたりの様子に気が付いたルイはちらりとだけ振り返り、ふふっと聞こえないくらいの声で笑っていたのだった。


「ルイ」

 3人で廊下を歩いていると、後ろから誰かに声を掛けられた。
 ルイを呼ぶ声、どこかで聞いたことがあるような? と優希は不思議に思いながら振り返った。
 顔を見てもピンと来ない。しかし、誰かに似ている。
「セバスチャン。どうしました?」
 優希と同じタイミングで振り返ったルイがすぐに返事をした。
 ルイが発した名前で優希は思わず「あっ!」と声を上げる。
「セバスチャンっ!?」
 そうだ。誰かに似ていると思ったのは、まさにルイだ。
 ふたりは従兄弟同士だとアリスから聞いていたことを思い出す。
 そして慌てて繋いだままだった海斗の手を離した。
「ん? ホワイトキャットか。それからカイト。お前たちも来ていたんだな」
 優希に呼ばれ、まるでそこで初めて気が付いたかのようにセバスチャンは特に表情を変えることなく答えた。
 初めてセバスチャンの人間の姿を見たが、ルイと顔は似ているが態度と表情は真逆の印象だった。
 そしてイケメンというよりはどこか中性的な美形である。銀色のふわりと柔らかそうな長い髪を後ろでひとつに結んでいるせいか、女性のようにも見える。
 ぽかんとしてしまった優希の顔を緑の瞳でじっとセバスチャンが見つめている。
「セバスチャン、私に何か用があったのでは?」
 じっと見られて緊張で固まってしまった優希を察したルイが、改めてセバスチャンに声を掛けた。
「あぁ、忘れていた。ダニーがお前を呼んでいたぞ。ゲストに出すメニューの最終チェックをして欲しいそうだ」
 思い出したようにセバスチャンがルイの隣に並び、再び話し始めた。
 ふたりが並んでいる姿を見ると、やはり似ている。銀髪とエメラルドグリーンの瞳が同じというだけではない。先程は真逆に感じたがやはり雰囲気も顔立ちもよく似ている。
「そうか。分かった……じゃあ、悪いがふたりを更衣室まで案内してくれないか?」
 セバスチャンの話を聞いて、急ぎの用事と判断したのか、優希と海斗の案内をセバスチャンに頼んだのだった。
 するとすぐにセバスチャンは眉間に深く皺を寄せる。
「は? 俺も忙しいんだが?」
「じゃあ、頼んだよ。優希君、海斗君、また後でね」
 睨み付けるセバスチャンにさらりと答えると、ルイはにこりと笑って手を振り、そのままどこかへ急ぎ足で行ってしまった。
「まったく……。はぁ……更衣室だったか?」
 眉間に皺を寄せたままルイの後ろ姿を見送ると、セバスチャンは深く溜め息を付き、優希をちらりと見た。
「あ、えっと、うん、そう。ごめんね。案内よろしくお願いします」
 初めて話す訳でもないのになぜか緊張してしまった優希はおどおどと答え、そして上目遣いでじっとセバスチャンを見つめた。
「はぁ……仕方ない。お前たちを放り出す訳にもいかんしな。ついてこい」
 再び深く溜め息を付くと、セバスチャンは仕方なさそうに話し、そして踵を返して歩き始めた。
 しかしルイと違って歩く速度が速く、さっさと先へと行ってしまう。
「わっ、待ってっ」
 優希が慌てて追いかける。
 この間、一切言葉を発していなかった海斗もそのまま黙ってセバスチャンの後を追う。
 そして優希の隣に並ぶと再び手を掴んだ。
「ちょっ」
 慌てた優希を無視し、海斗はそのまま歩き続ける。
 どこか機嫌が悪いように見えて、優希は不思議そうに首を傾げた。


「セバスチャン」

 再び廊下を歩いていると、今度はセバスチャンを呼ぶ声が聞こえてきた。
 聞いたことのあるようなないような、しかし低く良い男性の声だった。
 前を歩いていたセバスチャンがぴたりと止まった。そして振り返る。
 優希と海斗も一緒に立ち止まると同じように後ろを振り返った。声は後ろから聞こえていた。
「何してるんだ?」
 もう一度声の主は低い声でそう問い掛けた。
 顔を見た瞬間、誰だか分かった。以前会った時はマスクをしていたが、黒く切れ長の瞳、筋の通った高い鼻、そして色気のある唇。目は上がり目ではあるが、どこか雰囲気が海斗に似ている。
「イーサン……」
 溜め息交じりにセバスチャンが答える。
 そう、あの『黒の番人』だったイーサンだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...