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第11章『新たな仲間』

1話

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 腰のあたりに激痛が走った後、ふわりと宙に浮いた感覚があったかと思うと、どこかに思い切り腰を打ちつけた。
「いってっ……」
 涙目になりながらぼんやりと目を開ける。いつもよりも天井が高く見えた。
「あれ?」
 腰に痛みを感じながらもタクヤは不思議そうに首を傾げた。
「ぶっ……」
 すると突然何か柔らかい物が顔面に当たり、再び顔を顰める。
「てめぇっ、調子に乗ってんじゃねぇよっ!」
 頭上からイズミの怒鳴り声が聞こえ、タクヤは顔を押さえながらゆっくり体を起こす。その拍子にぽすんと先程の柔らかい何かが膝に落ちた。
 宿屋の枕のようだった。恐らくイズミがタクヤに投げたものだろう。
「いってぇ……もうっ、何するんだよ」
 顔と腰を摩りながら情けない顔でベッドの上に座っているイズミを見上げる。
 そこで初めて自分が床にいることと、イズミに蹴り落されたであろうことを理解した。
「うるせぇっ。また勝手に横で寝やがって」
 じろりとタクヤを睨み付けた後、イズミは不機嫌な顔で横を向いてしまう。
「なんでだよ。いいじゃんか」
 床の上で胡坐をかくと、タクヤは口を尖らせながら文句を言う。
「あ? ふざけんなっ。今度したら殺すからな」
 鋭い目で睨み付けると、イズミは横になり布団を頭まで被ってしまった。
「えぇー。そんなこと言って、毎回俺が入り込んでも何もしないくせに」
 立ち上がると、タクヤは布団を捲り、再びイズミの横に潜り込んだ。
 その瞬間、何か冷たくて硬い物が額に当てられた。
「じゃあ、今ここで殺してやろうか?」
 冷ややかに話すイズミの言葉で、そっと上目遣いに自分の額に当てられている物を見る。
 部屋が暗くてぼんやりとしか確認できないが、黒くて細長い筒状のもの。
 すぐにタクヤの頭の中に『拳銃』の二文字が浮かんだ。
「ま、またまたぁ。そんなこと言って、イズミ1回も撃ったことないじゃん」
 一瞬動揺しながらも、タクヤがへらっと笑いながら話した瞬間、目の前に突然枕を当てられたかと思うと、バスッと鈍い音が耳元で聞こえてきた。
 ひやりと額から汗が流れる。
 ゆっくり体を起こしてベッドを見ると、黒い小さな穴が開いているのが見えた。
 タクヤの頭のすぐ横辺りを弾が通ったのだ。ぞくりと体が芯まで冷えたように固まった。
 普段からイズミの持つ拳銃にはサイレンサーが付いている為、あまり大きな音はしないが、枕を使ったのは音を消す為というよりもタクヤから見えないよう『敢えて』使ったのだろう。
「ちょっ……」
 焦った顔でイズミを見ると、今度は直接額に拳銃を突き付けられた。
「次はそのバカな頭を風通し良くしてやろうか?」
「ごっ、ごめんなさいっ! もうしませんっ!」
 慌ててベッドから下りると、タクヤは床の上で何度も土下座しながら謝った。
「ったく、お前の頭はどうやったら理解するんだ?」
 ベッドの上からイズミは呆れた顔で見下ろす。
 拳銃はどこかへとしまったようだった。
「……だって。イズミと一緒に寝たいんだもん」
 床に胡坐をかいた姿勢でタクヤが口を尖らせながら呟いた途端、再びイズミが拳銃を構えた。
「うわっ! ちょっと待ったっ! ここ宿屋だしっ、今夜中だしっ! そんな怒るなってばっ!……っていうか、なんでダメなんだよ」
 慌てて正座すると、タクヤは再び必死に謝る。そして周りを見ながらなんとか宥めようとした。
 しかしそこまで怒る理由が分からず再び口を尖らせじっとイズミを見上げた。
「嫌だから。……それにお前、寝相悪いからやだ。……抱きついたりするし。言っとくが俺はお前の恋人でもなんでもないんだ。あんまり調子に乗るな」
「別に俺はっ……俺は調子に乗ってるとかそういうんじゃねぇよ。イズミに好きって言ってもらえたからとか、キスしたとか……そりゃ、少しは期待したりするけど……。別に変なことしようってんじゃないんだから、一緒に寝るくらい、いいじゃんか」
「変なことってなんだよ。……とにかくっ、勝手に俺のベッドに入るなっ」
「じゃあ、了解取ればいい?」
「するわけねぇだろっ」
 懇願してくるタクヤを本気で嫌そうな顔でイズミが怒鳴り付ける。
「ちぇっ……」
 むすっと口を尖らせタクヤはそのまま黙り込んだ。
 そしてイズミも布団に入ってしまった為、タクヤは仕方なさそうに自分のベッドへと戻る。
 しかし、今までイズミの布団で眠っていた為、自分のベッドの布団がすっかり冷え切っている。思わずぞくりと体が震えてしまった。
「うわっ、冷てっ……イズミぃ。こっち布団冷たくて寒いよぉ」
「うるせぇ、知るか」
 悲しげな声で訴えてみたが、イズミからは鬱陶しそうな声が返ってきただけであった。
「うぅ……寒いぃー……」
 体を丸め、ぶつぶつと文句を言いながら体を震わせる。
 イズミの所までタクヤが歯を鳴らしながら体を震わせている音が聞こえてきていた。
 額に手を当てながらイズミは大きく溜め息を付く。
「ったく、うるせぇな。……くっつかないんだったら隣で寝ることを許可してやるよ」
 そして仕方なさそうにぼそりと話した。
「ほんとに? やったっ!」
 がばっと体を起こし、タクヤは嬉しそうに声を上げる。
「うぜぇ」
「なんでだよっ」
 ぼそりと嫌そうに呟いたイズミの言葉を聞き逃さず、タクヤはベッドを下りながら文句を言う。
 しかし、許可してもらったことが嬉しくて、先程までの寒さはどこかへいってしまったようだった。
 嬉しそうな顔でイズミの布団の中へと入った。
「えへへっ」
 更に嬉しそうに顔を綻ばせ、タクヤはにやにやとしていた。
「キモっ……」
 ちらりとタクヤの顔を見たイズミが眉間に皺を寄せながらぼそりと呟いた。
「ちょっと、だからなんでキモいんだよっ」
 ハッとした顔をすると、先程までの嬉しそうな顔から一転、タクヤは顔を真っ赤にしながら怒る。
「うるせぇ黙れ。静かにしねぇと黙らせるぞ」
 再び額にひやりと冷たくて硬い物が当たる。
「うっ……ごめんなさい……寝ます」

 深夜2時。ゆっくりと夜が流れていった……。



 ☆☆☆



「リョウっ。待ちなさいっ。リョウっ!」

 家の中から母親らしき女性の声が響くが、少年は黙って勢いよく家を飛び出した。
 リョウと呼ばれたその少年は、年齢15、6歳くらい。身長はさほど高くはない。いや、どちらかというと低い方であろう。
 柔らかそうな茶色い髪が風に揺れ、瞳からは涙が零れ落ち、風に乗って舞っていた。
 家が見えないくらいまで走った所で、少年はピタリと足を止めた。
 そして大きく息を吐く。
「俺だって……」
 小さくぼそりと呟く。ぎゅっと拳を握り締め、じっと町の方を睨むように見ていた。
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