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第11章『新たな仲間』

12話

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「なぁーんかおかしいと思ったんだよね。イズミって美人だけど、カイ兄の好みじゃないし?」
 にやりと笑いながらリョウはカイをちらりと見上げる。
「え? なになに? どういうこと?」
 なぜかレナが目を輝かせながらタクヤとカイを交互に見た。
「だって、タクヤって似てるしね、カイ兄の――んんっ」
 にやっと笑って楽しそうに話し始めたリョウの口を、カイが慌てたように右手で塞ぐように押さえる。
「余計なことを言うな」
 右手でリョウの口を押えたまま、カイは後ろに回ると左腕でぐっとリョウの体を自分に引き寄せた。
 今までのような笑顔はなく、しかし怒っているというよりは困った顔をしている。
「んんんっ……」
 なんとか逃れようと、リョウは必死にカイの手を両手で掴むがびくともしない。
 身長差もあるが力の差も大きいのだろう。
「タクヤ君がどうしたの?」
 相変わらず楽しそうにレナはじっとリョウの答えを待っている。
「似てるって何が? 俺と誰かが似てるってこと?」
 訝し気な顔でタクヤはリョウとカイをじっと見る。
「はぁっ……誰かじゃなくてっ……んぐっ」
 なんとかカイの手を口から離すと、リョウが答えようとした。
 しかしすぐにカイの両手で再び口を塞がれてしまった。
「なんだよっ、気になるじゃんかっ!」
 むっとした顔をしてタクヤはふたりを睨み付ける。
 悪口を言われているようで気に入らなかった。
「痛っ……」
 すると、リョウがカイの手に噛み付き、カイは声を上げて手を離してしまった。
「もうっ! 別に言ってもいいじゃんっ!」
 パッとカイから離れると、リョウはじろりとカイを睨み付けながら文句を言う。
「犬だよっ。カイ兄が飼ってた犬っ」
 そして今度はタクヤに向き直ると、にかっと笑って答えた。
「は? 犬っ?」
 唖然とした顔でタクヤが問い返すと、後ろで誰かが吹き出すのが聞こえた。
「イズミっ!」
 すぐに犯人が分かったタクヤはむっとして振り返る。
「まんまじゃねぇか……犬っ」
 手で口を押さえながら笑いを堪えていたイズミだったが、ついに堪え切れずに笑い出してしまっていた。
 何度も「犬……」と呟きながら、涙を流して笑っている。
 余程可笑しかったのだろう。
「もうっ! 笑いすぎっ!」
 真っ赤な顔で悔しそうにタクヤが怒鳴る。
 しかし、ツボに入ったのかイズミの笑いが止まらない。
「揶揄うとすぐ怒るとこなんてそっくりっ」
 ふふっと楽しそうに笑いながらリョウはタクヤを見る。
「はぁっ?」
 リョウにまで揶揄われ、タクヤは更に顔を赤くしながら頬を膨らませる。
 なぜこんなに皆に馬鹿にされなければならないのかと腹が立つ。
「カイ兄すっごく可愛がってたよねっ。……でも、6年前に死んじゃって……」
 先程までは本当に楽しそうにしていたリョウだったが、急に沈んだ表情になる。
「そうだったの……。でも、タクヤ君に似てる犬なんて可愛かったんでしょうね。名前はなんていうの?」
 じっとやり取りを見ていたレナは、落ち込んでしまったリョウを見つめながら優しい表情で問い掛けた。
「レオだよ」
 パッと再び嬉しそうな顔でレナを見るとリョウが答える。
「へぇー、可愛い名前ね。何か由来とかあるの?」
 ふわりと笑うとレナは口元に人差し指を当て、リョウを見つめる。
「うん、レオはね、体が大きくて毛が茶色くて長い犬種でね。なんかライオンぽかったからレオって名前を付けたんだって。付けたのはカイ兄だよねっ」
 そう言ってリョウはカイをじっと嬉しそうな顔で見上げる。
「……そうだね。子供の頃から大きかった訳じゃないけど、なんとなくライオンの赤ちゃんに似ていたからそう名付けたんだ。見た目はライオンみたいだったけど、性格は優しくて臆病でちょっとおバカだったね」
 仕方なさそうな顔で大きく溜め息を付くと、リョウの横でカイは優しく微笑む。
 そして、リョウのことを優しい顔で見下ろしながら、昔を思い出すように答えた。
「やだぁ、ますますタクヤ君みたいねっ」
 カイの話を聞いてレナも嬉しそうに反応していたが、それを聞いたタクヤが更に怒り出す。
「ちょっとっ! レナ、どういう意味だよっ!」
「えぇー? だって、優しくっておバカさんな所がそっくりじゃない」
 うふっと笑うと、更に揶揄うようにレナはタクヤの頬を人差し指でつんと触る。
「もうっ! うるさいっ! バカじゃねぇよっ! ったく、イズミ、行こうぜっ」
 すっかり機嫌を損ねたタクヤは、イズミの腕を掴み歩き出した。
 先程あれだけ大笑いしていたイズミは揶揄うのにも飽きたのか、すっかり平静な状態に戻っていた。
「おいっ、掴むなっ」
 しかし、タクヤに腕を掴まれ嫌そうな顔でタクヤの手を叩く。
 全く効いていないかのように、タクヤはぎゅっとイズミの腕を掴んだまま歩き続ける。
 相当頭にきているのか、イズミの方を見向きもしない。
「…………」
 まったくこいつは……と、溜め息を付きながらイズミも仕方なさそうにそのまま歩いて行く。
「えっ、ちょっと待ってよっ! 俺も行くっ!」
 慌てたリョウがふたりを追い掛ける。
「ふむ……。おねえさんは行かないんですか?」
 残されたカイは、にこにこと笑いながら3人の背中を見ているレナに問い掛けた。
「私? 私はいいの」
 人差し指で自分を指差すと、レナはにっこりと笑って答えた。
「そうなんですか?」
 つられたかのようにカイもにっこりと笑って問い返す。

(……この人……)

 笑顔で見つめ合いながらも、レナは心の中でカイのことを探っていた。
 しかし何を考えているのかさっぱり読めない。

「では、僕もここで失礼します」
 そう言うとカイはレナに軽く会釈し、3人の方へと歩いて行った。

「う~ん。吉と出るか、凶と出るか……」
 ぼそりと呟くと、レナは首を傾げながら去っていく4人をじっと見つめていた。

 新たな仲間を加え、タクヤとイズミの旅は続いていく。
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