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第14章『新たな敵』

3話

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 ドアを軽くノックする。中からの反応は……ない。
 今度はもう少し強めにノックしてみる。
 しかし、反応がないどころか部屋の中から人の気配すら感じることができない。
 まさか部屋にはいないのか?
 首を傾げながらタクヤは困った顔でイズミを振り返る。
「どこかに行ったのか……。念の為、受付で確認してみるか」
 顎に手を当てながら考えると、イズミは軽く溜め息を付きながらタクヤを見上げる。
「え? 確認って?」
 ぽかんとした顔でタクヤは更に首を傾げる。
「食堂であいつの姿を見なかった。こんな時間に外に出掛けるとは考えられない……となると、もしかしたら……」
 顎に手を当てたまま、イズミはアキラが泊まる部屋のドアをじっと見つめている。
「もしかしたら?」
 イズミが何を言おうとしているのか。何かに気が付いているのか?
「……いや、まだ分からない……。ただ、あいつは何かを隠している」
 考え込みながらイズミはタクヤを見ることなくぼそりと呟くように答える。
「何か……」
 ふと、再びアキラが言っていた言葉を思い返す。
 一体何を知っていて、何を隠しているのか。
 じっと誰もいない部屋のドアを見つめた。



 ☆☆☆



「その方でしたら、宿泊はキャンセルされていますよ?」

 アキラの所在を確認しようとしたが、受付で信じられないような回答が返ってきた。
「えっ? でも……」
 宿屋に入って暫くしてからアキラに会っている。
 いつの間にいなくなっていたのか。
「彼は、いつキャンセルを?」
 唖然としているタクヤの横からイズミが受付の女性に問い掛けた。
「一度、部屋には行かれたみたいですが、お知り合いの方から連絡があったとかで。1時間もいらっしゃらなかったので、料金も頂いておりません」
「…………」
 ふたりは思わず顔を見合わせる。
 恐らくタクヤと会った後、すぐにこの宿屋を出たのだろう。
 まさかいなくなるとは考えもしなかった。
「そうですか。ありがとうございました」
 淡々と礼を言うと、イズミはくるりと向きを変えて客室へと続く廊下を歩き出した。
「あっ、ちょっとっ」
 慌てて受付の女性にぺこりと頭を下げるとイズミの後を追った。


「逃げた……か」
 階段を上りながらイズミが呟くようにぼそりと話した。
「え? まさかっ! なんでっ?」
 思いもよらない言葉に、ぎょっとしてイズミを覗き込むようにして尋ねる。
「本当に逃げたかどうかは分からない。……ただ、何も言わずにいなくなるのは変だろう?」
「変って?」
 別に知り合いでもなんでもない相手なのだから、勝手に出て行っても不思議はないように思える。
「あれだけしつこくついて来るような奴だぞ?」
 じろりと睨むようにイズミがタクヤを見た。
「へ?……あ、イズミのこと?」
 一瞬なんのことを言われたのかとぽかんとしたが、すぐに気が付く。
 確かにイズミのことを気に入った様子だったアキラが、何も言わずにいなくなるのはおかしい。
「ふんっ」
 すると、なぜだかイズミの機嫌が悪くなっていた。
「え? 何怒ってんだよ?」
 慌ててイズミを覗き込む。
「うるせぇ」
 不機嫌な様子のまま、タクヤから顔を逸らして足早に歩いて行ってしまう。
「もう……」
 いつものように答えてくれないイズミにそれ以上聞くのは諦めた。
「確かに知り合いから連絡あったって変だよな。あいつ、俺に仲間がいるって言ったら『勇者は独りでいるもんだろ』って言ってたくせに。自分だって独りじゃなかったんじゃねぇか」
 そして少し後ろを歩きながら、タクヤは独り言のように不機嫌に話す。
「は? なんだそれは」
 部屋の前に辿り着くと、ドアノブを掴んだまま、イズミは眉間に皺を寄せながらタクヤを見た。
「え? あぁ、俺がイズミ達の話をしたからだと思うんだけど、急に『勇者は独りでいるもんだ』なんて言ってきてさ。なのに自分もちゃっかり仲間がいたなんてって思って」
 急に振り返ったイズミに驚いたが、先程話したことをもう一度説明する。
「あいつも勇者なのか?」
 ふむ、とイズミは顎に手を当て考え込む。
「そうだと思うよ? 剣持ってたし」
「……そうか」
 森でのことを思い出しながら答えたが、イズミはタクヤから目を逸らし、ぼそりと返事をしただけだった。
「イズミ?」
 どうかしたのかとイズミのすぐ横から声を掛ける。
「……本当に知り合いがいたのか、それとも別の用事が?」
 しかしドアの方を見たまま、何やらぶつぶつとひとりで考えながら呟いている。
「うーん……魔物退治に行ったとか?」
 なんとなく腕を組みながら自分も考えてみる。
「阿呆。だったらわざわざ宿をキャンセルする必要はないだろう。そのまま朝まで戦う気か? 正義の味方でもあるまいし、そんな訳ないだろう」
 ちらりとタクヤを見るとイズミは心底呆れたような顔をした。
「そっか……そうだよなぁ……」
 イズミの答えに再びうーんと頭を悩ませる。
 首を傾げながら考えていると、急にアキラに言われた言葉が頭に浮かんだ。
「あっ!」
 思わず声を上げる。
「なんだよ?」
 面倒臭そうな顔でイズミがじっとタクヤを睨み付けている。
「いや、もしかしたら、ほんとに知り合いがこの町にいたのかもって思って」
 あの時はカイのことを言われて頭に来ていたが、『勇者でもないのに他の町に知り合いがいる』というのがおかしいことなのだとしたら、勇者であればいてもおかしくはない、ということなのか? と考えたのだ。
「……お前、やっぱりあいつに何か言われたんだろう?」
 思い付いたことをイズミに話したものの、再び疑われることになってしまった。
 じっと大きな瞳で見つめている。
「あ、いや、そういう訳じゃ……なんかそんなようなこと言ってたようなって」
 慌ててイズミから目を逸らすと、これ以上探られないように必死になっていた。
「ふんっ……まぁいい。もしもあいつが俺たちに関係しているのだとしたら、いずれ分かることだろ」
 じろりとタクヤを睨み付けたが、不機嫌に鼻を鳴らしイズミはそのまま部屋へと入っていく。
「え? あ、ちょっとっ」
 後ろを向きながら冷や汗をかいていたが、いつの間にかイズミがいなくなっていたことに気が付き、慌ててタクヤも部屋の中へと入った。
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