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32.デート?
しおりを挟むイライラしながら男が待つという玄関ホールに向かうと、そこには普段と違い、髪型もびしっとセットして、きれいな服を着て、よそ行きの格好で花束を持って立っているセドリック様がいた。
「どうしたの?そんな格好して。
今日は誰かとデート?その前に来るなんてよほど急ぎなの?」
私がからかいっぽくそう言っても男はいつもみたいな悪態をつくわけでもなく、ただ黙ってこちらを見つめたまま私が近づくのを待っているかのよう。
普段と違うその様子に、私はそれ以上口を開かず、ただ近くに歩いて行く。
私が目の前まで来ると、セドリックは急に片膝をついて、抱えていた花束を私に差し出した。
そして私を見つめながら言った。
「キュリール殿、……私と……デートしていただけませんか?」
いきなりのことに驚いたけれど、そういえば前もこんなことがあったなあと懐かしく思う。
「セドリック様、お誘い光栄に思います、喜んでお受けいたします」
これはお姫様役をしたときに、何かと文句をつけてきたこの男が1度だけ、雑草の花を1輪手に持って私にこうやってデートの誘いをしてきたことがあった
あの時は私も幼くて、いきなりのことに驚き、戸惑いで顔を真っ赤に染め、言葉に詰まってしまった。
それを見たこの男もなぜか顔を真っ赤にして固まったのだ。
その時ショーン様とジョーイ様がやってきて何かをこの男の耳元で言った。
すると男は顔を真っ赤にしたまま言ったのだ。
「ばかじゃねーの!!こんなの冗談だ!!冗談に決まってるだろう!!
誰が、誰が、お前なんかと2人で!………」
小さな1輪の花をぎゅっと握りしめながらそういった男。
何を言われたのかは知らないけれど、今となっては恥ずかしさもあったのだろうと思う。
でもその時の私は、騙されたんだと思うとそのことが悲しくて悲しくて。
でもセドリックの前では泣きたくなくて涙を必死にこらえながら家に帰って部屋で大泣きした。きっと泣きすぎたんだろう。その後熱が出て、私は結局1週間も寝込んでしまった。
どうしてあの時あんなに泣いてしまったのか。幼かったとは言え恥ずかしい思い出。
それでも今はもうあの時を思い出して笑うこともできるようになったのだとなんだかおかしくなってしまう。
1人懐かしくて微笑んでいると、目の前の男ははっとした顔をして顔を上げたかと思うと、次には険しい顔をしてまたうつむいてしまった。
声のかけ方が悪かったのか、嫌だったのか、腹が立ったのか、不服だったのかもしれない……
この男の事だから、あの時みたいに泣くことを期待したとか?
期待されたとしても、そんな事は絶対にありえない。
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