5 / 88
5.母との思い出の場所
しおりを挟むそしてただただ足を進めた先にあったのは母と来たことがある食堂だった。
5歳だった私が覚えているほど印象的な外観のお店。
建物を緑の蔓が覆いつくしていて、店だなんて思えないようなお店。
でも祖母と同じ年くらいの女の人が出してくれる食べ物は暖かくて、とても美味しかった。
死ぬ前に母との思い出の温かい食事を食べたいと思った。
静かにドアを開けるとそこは思い出の中にあるような大きな店ではなくて、こじんまりした店だった。
思い出の中の店はもっと大きかった気がする。これは私が大きくなったと言うことなんだろうか。
そんなことに思いを巡らせながらキョロキョロと店の中を見渡していると奥から女性が出てきた。
「おや、いらっしゃい。客なんて久しぶりだよ。よくこの店がわかったね」
「あのすみません、ずいぶん前に母ときた記憶があって。もうお店はやってらっしゃらないんですか?」
「いや、客が来なかっただけで店はやってるよ。お望みのものはなんだい?」
「えと…。
商品名はわからないのですが…以前いただいたスープと本当はステーキをいただきたいんですが、ステーキは食べられそうにないのでスープだけでもいいですか?」
「わかったよ。じゃぁできるまで好きなところに座ってな」
そう言って奥に行った女性はスープを持って戻ってきてくれた。
「はいよ。本当は具がたくさんあるんだけど、あんたの様子じゃ、それもしんどそうだから具は少なめね。次のときには具だくさんのスープを出してやるから今日はそれで我慢しな」
そう言われて差し出されたスープはなんだかとても懐かしい匂いがした。
「ありがとうございます」
そう言ってスープを口に入れると、なんだか今までの気持ち悪さが嘘のように体中がすっきりしたような気がする。今まで何を食べてもすぐに吐きたい衝動に駆られていたのにこのスープを食べてもそんな衝動に襲われる事は無い。そのことが嬉しくて次々とスープを口に運ぶとあっという間にスープがなくなってしまった。
本当はもう少し食べていたい気持ちもある。でも今までほとんど食べてこなかった体はさすがにそんなに受け入れてくれはしなさそうだ。だから静かにスプーンを机の上におろすと、それを見越して女性が話しかけてきた。
「おや、食べ終わったのかい?想像よりも食べれてよかったよ。一度にあまり多くを食べると体が驚いてしまうからまた後で軽く食べればいいさ。その間に私と昔話をしようか」
そう言って女性は私の席の前に座って話を始めた。
244
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる