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はじめての贈り物
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それは美しい鞘に収められたナイフ。漆黒の鞘は鏡のように私の姿を映し出す。柄には複雑な金色の模様が彫り込まれてあった。
鞘を外して現れた刃の部分は細長く、光の加減で鋭さが際立ち、まさに一振りで切れ味を実感させるような精巧な作りだ。
そして、その美しいナイフが突然、私に向けて突きつけられる。
「渡しておくわ」
声は鋭く、まるで命令のように響いた。私は思わず息を呑む。本物の刃を今まで持ったことは無かったのだ。
エレノアお姉様の目は感情を一切見せることなく、私をじっと見据えている。その視線が私を無言で問い詰めているかのようだった。
そして、冷たいナイフを鞘に納めて私の手のひらに押し込むように渡される。私は自然と震える手でそれを受け取り、落とさないようにしっかりと握りしめる。
「外に出掛けるときはこれを持っていなさい……ヴィクトル様には知られないように」
ヴィクトル様の存在が急に大きく感じられた。エレノアお姉様が教える通り、ヴィクトル様がこれを知ればこのナイフは取り上げられてしまうのは間違いない。エレノアお姉様には鋭い洞察が感じられている。
「あの人はまだユミルリアを子供だと思っているわ。もう大人なのに」
ナイフを手にした瞬間、私はエレノアお姉様が言う通り、もう子供ではないことを強く実感し、私が前進するために必要な道具として、この刃物を受け入れる。
「軍人の妻として恥を晒さないようにしなさい」
それはただの忠告ではなく、私の今後の生き方を決定づけるような重みを感じさせた。
◆
エレノアお姉様が部屋を後にした後、私の心はしばらくその場に留まり、頭の中でさまざまな思考が渦巻いていた。
部屋に残された静けさの中で、私は手にしたナイフをじっと見つめていた。冷たい金属の光沢が照明に反射して微細に輝き、まるで生きているかのようにその刃先がほんのりと光を帯びていた。
指を切るのが怖くて、そっとナイフを鞘に納める。これがエレノアお姉様から贈られたものだということを深く意識する。
「エレノアお姉様から、私への贈り物」
自分に言い聞かせるように呟いた。金属の冷たさが何とも心地よく感じられる。エレノアお姉様からこんな形で物をもらったことはこれまで一度もなかった。
私たちの関係はどこか遠く感じられ、会話さえもほとんどなかった。しかし、このナイフは私にとって特別な意味を持つものになった。それは単なる贈り物ではなく、エレノアお姉様の深い意図が込められた証だと思う。
『軍人の妻として恥を晒さないようにしなさい』
最後のエレノアお姉様の言葉と一緒に私はふと、本で読んだことを思い出す。
軍人の妻には絶対的な忠誠と誠実が求められ、不貞を犯せばそれは穢れとなり、妻としての存在自体が消されるという掟。
ただひたすらに忠実でなければならない。それが軍人の妻としての道だと。
「もしかして、このナイフで?」
手が震えるのを感じた。エレノアお姉様がくれたナイフ。それはただの道具ではない。
お姉様が私に与えた意味がだんだんとわかってきたような気がした。今、刃物を手にしているという事実が予想以上に恐ろしいものに感じられる。
何かを切り裂くために作られているそれは、私の手の中で何かを終わらせるための道具にも思えた。命を奪うもの、その恐ろしさが不意に怖くなった。
とりあえず隠しておかないと。
部屋の中を歩き回り、ナイフをしまうための場所を探し始めた。目立たない場所、誰にも気づかれない場所がいい。
ヴィクトル様がここに来ることもあるから絶対に見つかってはならない。それを胸に私は慎重にそして静かに歩を進めた。
やがて、小さな引き出しの中にナイフをそっとしまうことにした。布で包み、できる限り目立たないように。これで少なくともヴィクトル様に気づかれることはないと思う。
その引き出しにはもう一つ小さな箱が置かれている。それは結婚指輪が収められたものだ。私はそれを指にはめることはなかった。
なぜなら、それは本来ならミーティアお姉様のものであり、私がそれを着けることは許されないと思っていたからだ。
結婚指輪はあくまでミーティアお姉様のものであり、私にはその資格はないと思っていた。どうしてもそれをつけることができなかった。
それを言ってしまえばこの部屋もミーティアお姉様の部屋の予定だったけど、だけど、せめて指輪とヴィクトル様の心はミーティアお姉様の物だから。
指輪はそれを象徴するもの、そしてその思い出を私はどうしてもミーティアお姉様のものとして置いておきたかった。
引き出しをしっかりと閉め、その上から何度も手を触れて確認した。
エレノアお姉様からの贈り物が私にとってどれほど大きな意味を持っているのかを私は今、確かに感じている。
このナイフが私にとって新たな一歩を踏み出させるものであることを胸の中で強く確信していた。それは単に物理的な道具じゃない。
私に何かあればヴィクトル様はなんて言うのかは知っている。私に向かって死ねばよかったと言っていたあの人は、きっと自分から命を終わらせることを望んでいたから。
鞘を外して現れた刃の部分は細長く、光の加減で鋭さが際立ち、まさに一振りで切れ味を実感させるような精巧な作りだ。
そして、その美しいナイフが突然、私に向けて突きつけられる。
「渡しておくわ」
声は鋭く、まるで命令のように響いた。私は思わず息を呑む。本物の刃を今まで持ったことは無かったのだ。
エレノアお姉様の目は感情を一切見せることなく、私をじっと見据えている。その視線が私を無言で問い詰めているかのようだった。
そして、冷たいナイフを鞘に納めて私の手のひらに押し込むように渡される。私は自然と震える手でそれを受け取り、落とさないようにしっかりと握りしめる。
「外に出掛けるときはこれを持っていなさい……ヴィクトル様には知られないように」
ヴィクトル様の存在が急に大きく感じられた。エレノアお姉様が教える通り、ヴィクトル様がこれを知ればこのナイフは取り上げられてしまうのは間違いない。エレノアお姉様には鋭い洞察が感じられている。
「あの人はまだユミルリアを子供だと思っているわ。もう大人なのに」
ナイフを手にした瞬間、私はエレノアお姉様が言う通り、もう子供ではないことを強く実感し、私が前進するために必要な道具として、この刃物を受け入れる。
「軍人の妻として恥を晒さないようにしなさい」
それはただの忠告ではなく、私の今後の生き方を決定づけるような重みを感じさせた。
◆
エレノアお姉様が部屋を後にした後、私の心はしばらくその場に留まり、頭の中でさまざまな思考が渦巻いていた。
部屋に残された静けさの中で、私は手にしたナイフをじっと見つめていた。冷たい金属の光沢が照明に反射して微細に輝き、まるで生きているかのようにその刃先がほんのりと光を帯びていた。
指を切るのが怖くて、そっとナイフを鞘に納める。これがエレノアお姉様から贈られたものだということを深く意識する。
「エレノアお姉様から、私への贈り物」
自分に言い聞かせるように呟いた。金属の冷たさが何とも心地よく感じられる。エレノアお姉様からこんな形で物をもらったことはこれまで一度もなかった。
私たちの関係はどこか遠く感じられ、会話さえもほとんどなかった。しかし、このナイフは私にとって特別な意味を持つものになった。それは単なる贈り物ではなく、エレノアお姉様の深い意図が込められた証だと思う。
『軍人の妻として恥を晒さないようにしなさい』
最後のエレノアお姉様の言葉と一緒に私はふと、本で読んだことを思い出す。
軍人の妻には絶対的な忠誠と誠実が求められ、不貞を犯せばそれは穢れとなり、妻としての存在自体が消されるという掟。
ただひたすらに忠実でなければならない。それが軍人の妻としての道だと。
「もしかして、このナイフで?」
手が震えるのを感じた。エレノアお姉様がくれたナイフ。それはただの道具ではない。
お姉様が私に与えた意味がだんだんとわかってきたような気がした。今、刃物を手にしているという事実が予想以上に恐ろしいものに感じられる。
何かを切り裂くために作られているそれは、私の手の中で何かを終わらせるための道具にも思えた。命を奪うもの、その恐ろしさが不意に怖くなった。
とりあえず隠しておかないと。
部屋の中を歩き回り、ナイフをしまうための場所を探し始めた。目立たない場所、誰にも気づかれない場所がいい。
ヴィクトル様がここに来ることもあるから絶対に見つかってはならない。それを胸に私は慎重にそして静かに歩を進めた。
やがて、小さな引き出しの中にナイフをそっとしまうことにした。布で包み、できる限り目立たないように。これで少なくともヴィクトル様に気づかれることはないと思う。
その引き出しにはもう一つ小さな箱が置かれている。それは結婚指輪が収められたものだ。私はそれを指にはめることはなかった。
なぜなら、それは本来ならミーティアお姉様のものであり、私がそれを着けることは許されないと思っていたからだ。
結婚指輪はあくまでミーティアお姉様のものであり、私にはその資格はないと思っていた。どうしてもそれをつけることができなかった。
それを言ってしまえばこの部屋もミーティアお姉様の部屋の予定だったけど、だけど、せめて指輪とヴィクトル様の心はミーティアお姉様の物だから。
指輪はそれを象徴するもの、そしてその思い出を私はどうしてもミーティアお姉様のものとして置いておきたかった。
引き出しをしっかりと閉め、その上から何度も手を触れて確認した。
エレノアお姉様からの贈り物が私にとってどれほど大きな意味を持っているのかを私は今、確かに感じている。
このナイフが私にとって新たな一歩を踏み出させるものであることを胸の中で強く確信していた。それは単に物理的な道具じゃない。
私に何かあればヴィクトル様はなんて言うのかは知っている。私に向かって死ねばよかったと言っていたあの人は、きっと自分から命を終わらせることを望んでいたから。
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