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ヴィクトルサイド5
しおりを挟む「最近、奥様が殿方を誘っているようなんです……」
ユミルが他の男に誘惑の手を差し伸べているという話をメイド長から耳にする羽目になった。俺がこの屋敷を離れている間にそんな無様な行動をするとは。
その理由はわかっていた。ユミルはあの日、俺が「勃たない」と言い捨てたことに腹を立てていたのだろう。あのことが原因でユミルが俺に対しての興味を失った。何故なら、それは俺自身が感じていたことだ。
メイドの一言に動かされ、ユミルはその浅はかな行動に身を委ねた。それが俺にとってはまさに耐え難い侮辱であり、信じられない裏切りだった。
他の男に媚を売らないよう、仕置きをしてやる。正面から抱こうとするが正面からではやはりミーティアの死んだ顔がフラッシュバックする。
しかし、顔を見ずにすればいいと気づけば後は狭すぎる中に入れて孕ませる予定だった。後ろから貫けば途中で折れることない……だが最後に中に出してやる前に終わる。妊娠をさせるなと言わんばかりに途中で終わるしかなかった。
その後、ユミルの態度の悪さとそれに対する不満をしきりに口にしていたメイドと同様にメイド長はクビにした。ユミルの行動を裏でそそのかしたという事実を知った時には決定は下されていた。
あの女が長年仕えようがどれだけ謝罪しようが俺の心には一切の温情は芽生えなかった。謝罪の言葉は耳に届くものの、それを受け入れる余地はない。
妻であるユミルの躾をするのは他ならぬ俺だけだ。それを第三者、ましてや使用人ごときが主人に口を出すことは許されない背信行為だ。
だがユミルに声を掛けられた男の使用人たちの処遇については迷いが生じていた。現状で男手が無くなれば俺が不在の間に家を守る者がいなくなる。そのためには一時的に彼らの処分を保留せざるを得ないと判断をしたが二度と不要な会話をするなと言いつけた。
本来、こういった使用人たちの扱いについては公爵夫人であるユミルが主導すべきことだと誰もが理解しているがそれを期待するのはあまりにも難しいと感じていた。
ユミルの存在を家の中でも外でも軽んじている者が多いのだろう。この屋敷で彼女が疎外感を感じているのはわかっていた。
ミーティアがダメになったなら、せめてエレノアにすればよかったと何度も周囲からそう言われてきた。
それでも俺はユミルを選んだ。誰か他の者を選ぶ理由なんてなかった。最初から決めていたのはユミルリアだった。
最初は一時的な気まぐれだったのかもしれない。彼女に興味を持ち、女としての堕ちていく姿を見たいという思いがあった。
ただの遊び、そう思っていた。だがその気持ちが徐々に歪んでいったことに気づく。彼女に対する感情が深く、そして捻じれたものになっていった。
それがどうしてこんなにも歪んでしまったのかわからない。しかし、それが今の俺だ。
その問いに答えを出すことはできない。だが心の奥底で確かに感じているのはあの時からずっと変わらぬ自分の欲望だ。それを否定することなく、俺はその道を歩んでいくしかない。
自分でもどうかしていると思う。こんなに歪んだ感情を抱いているのは自分が狂っているからだろうか。俺はもうその自覚を持ちつつ、ユミルを手に入れることを望んでいた。それが俺の答えなのだ。
◆
ミーティアの死に関する調査は未だに終息を見ない。先日捕らえた盗賊の背後にいる真の黒幕が誰であるのか今だに特定できていないからだ。
襲撃者が依頼を受け取った手紙の内容から、どうやら犯行の背後には他の者の手が絡んでいることが明らかになった。その手紙には「ここで待てば護衛の薄い貴族が通る。彼女を汚してほしい」と金と一緒に同封されて記されていた。宛先が不明なその一枚の手紙が事件の複雑さを物語っている。
ミーティアは社交界でも一際目立つ存在で、彼女の周囲には賛美する者もいれば嫉妬の眼差しを向ける者もいた。
そのため、彼女の人間関係を調べることが事件解明の鍵となると考えた俺はマーシャル邸を訪れることに決めた。
今回はユミルも同行させることにしたが役に立つのか、それとも余計な足手まといになるのか正直なところ不安である。
それでも、マーシャル夫妻も娘の顔を見たがっているかもしれないが……手紙ひとつ寄越さない奴らがどれほど気にしているのかは不明だが。
「大丈夫ですか?」
「ああ……」
ユミルの心配そうな声が静寂を破るように耳に届いた。その声音は相変わらず怯えている。その問いかけに俺は一瞬だけ、言葉を失ってしまった。思考がうまく整理できなかったからだ。
馬車の中は揺れ、外の景色がぼやけたまま流れ去っていく。馬車の窓から漏れる淡い光が唯一鮮明に映ったユミルの顔を照らす。彼女の目がわずかに不安げに揺れるのは見えた。
ユミルを連れてきたことは、やはり失敗だったと心の中で思う。馬車の移動中、普段使われない道に逸れてしまったせいで俺はひどく気分が悪くなった。あの日の記憶が俺の中で鮮明に蘇り、脇腹の古傷と心的外傷が再び俺を圧倒したのだ。
冷たい汗が背中を走り、息が詰まるような感覚に囚われる。ユミルが心配そうに俺に声をかけてくるが俺はそれに応えることなく、ただ無理に平静を保とうと努めていた。俺がこんなにも脆弱で弱い一面を見せてしまうことが耐えられなかった。特にユミルにはその弱さを知られたくなかった。
この通り……ああ、まだ子供だった時の記憶が蘇る。
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