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ヴィクトルサイド6
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両親と共に馬車で出かけた先で足を悪くした商人の男が道端で困っているのを見た。両親は慈善事業の一環として、商人を助けて馬車に乗せてやった。
しかし、その男はただの商人ではなかったのだ。奴は盗賊だったのだ。
盗賊は両親をナイフで両親を刺し殺し、俺にも重症を負わせた。奇跡的に命は助かったが脇腹にはその時の傷が残っている。
親を失った俺は無力さと絶望に打ちひしがれながらも親戚を頼ろうとしたがすぐにその冷たい現実を突きつけられた。親戚たちは俺を引き取るどころか面倒だと言って手を差し伸べることはなかった。
奴らの言葉は冷たく、俺の存在など無視された。もう他に頼る者は誰もいなかった。
だから一人で生きていく道を選んだ。他人の優しさなど期待できない世界で俺はただひたすら力を求めた。だれにも支えられず、孤独に苛まれながらも、必死に生き延びていった。
後ろ盾が無い時には食い物にされそうになることもあったがその度に力だけで戦い抜いた。肉体的な強さもさることながら、心の中には強烈な決意と怒りが燃えていた。それこそが俺を支え、成長させた。
そして、時が経ち、俺は戦場に身を投じた。若干の歳月を重ね、軍の一員となり、戦の中で実力を発揮した。初めての戦場ではただ生き残ることだけを考えていたが次第にその中で自分の力を確かなものにしていった。戦場での俺の名は少しずつ広まり、戦績が積み重なるごとに周囲は次第に俺の実力を認めるようになった。
俺はその力を駆使し、戦の成果を上げていった。周囲の期待に応えるべく、戦においては常に先頭に立ち、敵を蹴散らし、無数の戦果を上げた。
その名は知られるようになり、ついには公爵にまで昇りつめることができた。戦場ではもはやただの兵士ではなく、指導者としての立場を確立し、名実ともに力を持つ人物へと変貌した。
過去の苦しみと失ったものはすべてが俺の力になり、無慈悲に戦うための燃料となった。
そして、公爵の位を手に入れた俺はかつての親戚たちを見返すことができた。誰もが俺を見下し、捨てたあの頃とは違った。世界は力で支配するものだということを俺は身をもって証明したのだ。
後から「済まなかった」と言われても、もう遅い。全ての縁を切った俺にとって、過去の人々の言葉など何の意味も持たなかった。
他人がやっと後悔の言葉を口にしてもどんなに謝られようともう俺はその言葉に耳を貸すことはなかった。
あの時、誰も俺を助けなかった。無視し、見捨て、孤独の中で傷つきながらも、俺は必死に生き抜いた。
誰もが俺を無力だと思っていたがその思い込みはすぐに覆された。戦場で無慈悲な戦いの中で俺はひとりで這い上がった。だからこそ、信じられるものがある。それは他でもない自分自身の力だけだ。
他人に優しくするなどあってはならない。優しさは弱さと同義であり、弱さは他人に付け入る隙を与えるだけだ。誰かに助けを求めたり、与えたりすることはない。信じるべきは自分だけだ。情けをかけることはもはや俺の中には存在しない。
◆
ユミルは静かに手を伸ばし、そっとハンカチを取り出すと優しく俺の額の汗を拭った。手のひらが俺の肌に触れ、その温かさがわずかに伝わる。その瞬間、俺は無言で驚いてしまった。
死ねばよかっただなんて酷いことを言った最悪な男に気を使う必要などまったくないはずだ。俺には他人の優しさを受け入れる余裕などもうとっくに無くしてしまったのだから。そんな俺の思いを知らないかのようにユミルは淡々と世話を焼いてくれる。
いつものように彼女は怯えて、俯いていればいい。俺の前で無理に気を使うようなことは一切する必要はないはずだ。
そんな思いが渦巻くがふと気づくと顔を上げるとユミルが俺をじっと見つめていた。その目が何も言わずに語りかけてくるような気がした。
俺はその目を避けるように視線を下げて目を閉じた。複雑な気持ちが胸の奥で絡まり、無言でその感情を押し込める。
自分がどんな気持ちでいるのか、どうしてこんなに心が揺れ動いているのか、理解できないまま。
◆
マーシャル邸に足を踏み入れると歓迎の言葉が俺を迎えた。マーシャル夫妻とその長男はまるで数年ぶりに再会したかのように笑顔を浮かべて歓迎の意を示す。
しかし、ユミルに対してはその態度はまるで異なった。娘に目を向けることなく、軽く「そうか、いたのか」程度の反応しか返ってこない。まるで、そこにいることすら忘れられているかのように無関心だ。
一応ユミルはマーシャル家の末娘であり、その立場を考えればもう少し気を使っても良いはずだがその残酷さに思わず苦笑が漏れた。
言葉にできないほどのものを感じた。だが、俺もそれに何も言うことはなかった。この家の中で俺がユミルのために何かを言ったところで何も変わらないことを知っていたからだ。
ユミルの姿が静かに俺の視界に映る。空気のように扱われる態度に動じることなく、あたかもそれが当たり前であるかのように気丈に振る舞っている。
それがユミルなりの強がりであり、脆さを隠そうとする防衛本能なのだろう。それに気づかないふりをしながらも俺の胸の奥では、何かがじわじわと煽られていくのを感じた。
ユミルは自分の置かれた立場を理解している。ここで一歩間違えれば誰にも守られず、切り捨てられる可能性があることを。
他人に弱みを見せないように気丈に振る舞おうとしている。それが俺には痛々しくも感じられる。
俺はその手を離すことは決してない。たとえ他の男との間に子供ができようと、それでもユミルを手放すつもりはない。
しかし、その男はただの商人ではなかったのだ。奴は盗賊だったのだ。
盗賊は両親をナイフで両親を刺し殺し、俺にも重症を負わせた。奇跡的に命は助かったが脇腹にはその時の傷が残っている。
親を失った俺は無力さと絶望に打ちひしがれながらも親戚を頼ろうとしたがすぐにその冷たい現実を突きつけられた。親戚たちは俺を引き取るどころか面倒だと言って手を差し伸べることはなかった。
奴らの言葉は冷たく、俺の存在など無視された。もう他に頼る者は誰もいなかった。
だから一人で生きていく道を選んだ。他人の優しさなど期待できない世界で俺はただひたすら力を求めた。だれにも支えられず、孤独に苛まれながらも、必死に生き延びていった。
後ろ盾が無い時には食い物にされそうになることもあったがその度に力だけで戦い抜いた。肉体的な強さもさることながら、心の中には強烈な決意と怒りが燃えていた。それこそが俺を支え、成長させた。
そして、時が経ち、俺は戦場に身を投じた。若干の歳月を重ね、軍の一員となり、戦の中で実力を発揮した。初めての戦場ではただ生き残ることだけを考えていたが次第にその中で自分の力を確かなものにしていった。戦場での俺の名は少しずつ広まり、戦績が積み重なるごとに周囲は次第に俺の実力を認めるようになった。
俺はその力を駆使し、戦の成果を上げていった。周囲の期待に応えるべく、戦においては常に先頭に立ち、敵を蹴散らし、無数の戦果を上げた。
その名は知られるようになり、ついには公爵にまで昇りつめることができた。戦場ではもはやただの兵士ではなく、指導者としての立場を確立し、名実ともに力を持つ人物へと変貌した。
過去の苦しみと失ったものはすべてが俺の力になり、無慈悲に戦うための燃料となった。
そして、公爵の位を手に入れた俺はかつての親戚たちを見返すことができた。誰もが俺を見下し、捨てたあの頃とは違った。世界は力で支配するものだということを俺は身をもって証明したのだ。
後から「済まなかった」と言われても、もう遅い。全ての縁を切った俺にとって、過去の人々の言葉など何の意味も持たなかった。
他人がやっと後悔の言葉を口にしてもどんなに謝られようともう俺はその言葉に耳を貸すことはなかった。
あの時、誰も俺を助けなかった。無視し、見捨て、孤独の中で傷つきながらも、俺は必死に生き抜いた。
誰もが俺を無力だと思っていたがその思い込みはすぐに覆された。戦場で無慈悲な戦いの中で俺はひとりで這い上がった。だからこそ、信じられるものがある。それは他でもない自分自身の力だけだ。
他人に優しくするなどあってはならない。優しさは弱さと同義であり、弱さは他人に付け入る隙を与えるだけだ。誰かに助けを求めたり、与えたりすることはない。信じるべきは自分だけだ。情けをかけることはもはや俺の中には存在しない。
◆
ユミルは静かに手を伸ばし、そっとハンカチを取り出すと優しく俺の額の汗を拭った。手のひらが俺の肌に触れ、その温かさがわずかに伝わる。その瞬間、俺は無言で驚いてしまった。
死ねばよかっただなんて酷いことを言った最悪な男に気を使う必要などまったくないはずだ。俺には他人の優しさを受け入れる余裕などもうとっくに無くしてしまったのだから。そんな俺の思いを知らないかのようにユミルは淡々と世話を焼いてくれる。
いつものように彼女は怯えて、俯いていればいい。俺の前で無理に気を使うようなことは一切する必要はないはずだ。
そんな思いが渦巻くがふと気づくと顔を上げるとユミルが俺をじっと見つめていた。その目が何も言わずに語りかけてくるような気がした。
俺はその目を避けるように視線を下げて目を閉じた。複雑な気持ちが胸の奥で絡まり、無言でその感情を押し込める。
自分がどんな気持ちでいるのか、どうしてこんなに心が揺れ動いているのか、理解できないまま。
◆
マーシャル邸に足を踏み入れると歓迎の言葉が俺を迎えた。マーシャル夫妻とその長男はまるで数年ぶりに再会したかのように笑顔を浮かべて歓迎の意を示す。
しかし、ユミルに対してはその態度はまるで異なった。娘に目を向けることなく、軽く「そうか、いたのか」程度の反応しか返ってこない。まるで、そこにいることすら忘れられているかのように無関心だ。
一応ユミルはマーシャル家の末娘であり、その立場を考えればもう少し気を使っても良いはずだがその残酷さに思わず苦笑が漏れた。
言葉にできないほどのものを感じた。だが、俺もそれに何も言うことはなかった。この家の中で俺がユミルのために何かを言ったところで何も変わらないことを知っていたからだ。
ユミルの姿が静かに俺の視界に映る。空気のように扱われる態度に動じることなく、あたかもそれが当たり前であるかのように気丈に振る舞っている。
それがユミルなりの強がりであり、脆さを隠そうとする防衛本能なのだろう。それに気づかないふりをしながらも俺の胸の奥では、何かがじわじわと煽られていくのを感じた。
ユミルは自分の置かれた立場を理解している。ここで一歩間違えれば誰にも守られず、切り捨てられる可能性があることを。
他人に弱みを見せないように気丈に振る舞おうとしている。それが俺には痛々しくも感じられる。
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