「お前が死ねばよかった」と言われた夜【新章スタート】

白滝春菊

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ヴィクトルサイド7

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 昼食を終えるとユミルを席から外させることになった。ユミルはマーシャル夫人に言葉をかけられながら静かに部屋を出て行った。その背中が見えなくなると俺はマーシャル子爵と二人だけで話すことにした。

 ミーティアの死について調べていると告げるとマーシャル子爵は突然、言葉を詰まらせ、目に涙を浮かべながら震える声を漏らす。
 その表情は先程の穏やかで、温かみのある笑顔とはまるで異なり、かつて見たこともないほどの痛々しさを湛えていた。

「ミーティアは……大切な娘だったんだ」

 嗚咽を漏らしながら、しばし言葉を続けられなかった。ユミルに対しては無関心であったがミーティアに対しては深い愛情を抱いていたのだろう。
 その想いが言葉の端々に滲み出ているのを感じる。やがて泣き崩れながらも彼は必死に声を振り絞って言葉を続けた。

 俺は静かに相槌を打ちながら、その情報を吸収していった。話の内容が進むにつれ、ミーティアという人物がどれほど周囲に好かれ、尊敬されていたかが見えてきた。
 子爵が言うにはミーティアは誰からも愛され、その優しさと知恵で尊敬されていた。それでも、彼女の優れた才能に対する反感や妬みもまた、少なからずあったらしい。

「それとミーティアの件とは別なのだが……」

 俺は一度視線を向けてから、改めて口を開いた。

「先ほどの食事の際、ユミルの皿に載っていた料理についてだ。俺の目には他の者たちの皿と比べて何か違う食材が使われているように見えた。それはいつもこのようなものなのか?」

 マーシャル子爵はその問いに少しだけ驚いた表情を浮かべた後、しばらく黙って考えてから、ゆっくりと答えた。

「ああ、あの料理のことか。実はユミルリアは食事に関して少し特殊な取り決めをしているんだ。健康状態に配慮したものが多くて他の者たちとは違う食材を使っている」
「それは具体的にどういった理由からだ?」
「実は子供の時からミーティアがユミルの為に消化が難しいものを避け、栄養の偏りがないように工夫したレシピを考えてくれたのだ。妹想いのあの子はユミルリアの食事にも非常に気を使っている。本当に素晴らしい娘だったよ……」

 他の者たちと違った食事を摂っているのは単に好みや無頓着なものではなく、彼女自身の健康を守るためであった『美しい姉妹愛の結果』だそうだ。

 ◆

 話し合いを終えた俺は調理場に向かった。マーシャル子爵との会話は長引き、ユミルの食事に対する疑念はますます深まっていた。ユミルが食べる料理にどんな意図があるのか、ただの気配りなのか、それとも他に理由があるのか。俺はその答えを見つけたかった。

 調理場に入るとシェフたちが忙しそうに料理を仕上げていた。俺は一瞬、シェフたちの動きを観察した後、目を向けるべき人物を見つけた。シェフの一人がレシピを広げていた。

 今後の為にユミルが食べている料理について少し知りたい。そのレシピを見せてもらいたいと頼めばシェフは一瞬ためらった後、すぐにレシピ帳を差し出した。俺はレシピ帳を受け取ると目を通し始めた。

 ページをめくるたびに俺の眉が徐々にひそめられていった。ユミルの食事に使われている素材は栄養価が低いものが多く、特にタンパク質や炭水化物が不足している。野菜や果物が中心で、そのバランスの悪さに俺は違和感を覚える。

 ユミルの食事を決めていたのはミーティア。ミーティアが意図的にユミルの成長を妨げようとしたのではないかと俺は思った。

 ミーティアは一見、ユミルに対して確かに優しく、親身になって接していたように見えた。しかし、あの食事の内容から推測するにミーティアは何らかの理由でユミルの成長、更に未来を遮ろうとしたのかもしれない。

 ユミルがレーゲンブルク家に嫁いでからしばらくの間、いつも顔をしかめながら食べていたのを思い出す。その原因が食べ物の変化によるものだと俺はすぐに気づいた。
 あの食事はユミルがこれまで慣れ親しんできたものとは全く異なっていたからだ。

 ◆

 マーシャル子爵から有力な情報を得られなかったまま、頭の中は次々と湧き上がる疑念で埋め尽くされる。ミーティアの部屋に何か手掛かりが残っているのではないか、と考えながら廊下を進むその途中で予期せぬ人物と出会った。

「ヴィクトル様、何か私にご用ですか?」

 エレノアの冷静な声が響いた。無表情な顔がいつものように感情を読み取らせない。

「いや、少しミーティアの部屋に用事があってな」
「……そうですか」

 言葉を発したがエレノアは何か考えるように少しだけ間を置いた。その一瞬の沈黙がなぜか気になったが気にせずにミーティアの部屋に行こうとすればエレノアもついてきた。何か他に用があるのかと思えば階段の踊り場で足を止める。

「あの……お聞きしたいことがあります」

 その言葉に俺は足を止めた。エレノア表情に隠された感情を読み取ろうとしたが無表情な顔からは何も感じ取れない。人のことは言えないがこの女も愛想が無さすぎる。

「ユミルリアのことはどうお思いですか?」
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