「お前が死ねばよかった」と言われた夜【新章スタート】

白滝春菊

文字の大きさ
48 / 125

ヴィクトルサイド7

しおりを挟む
 昼食を終えるとユミルを席から外させることになった。ユミルはマーシャル夫人に言葉をかけられながら静かに部屋を出て行った。その背中が見えなくなると俺はマーシャル子爵と二人だけで話すことにした。

 ミーティアの死について調べていると告げるとマーシャル子爵は突然、言葉を詰まらせ、目に涙を浮かべながら震える声を漏らす。
 その表情は先程の穏やかで、温かみのある笑顔とはまるで異なり、かつて見たこともないほどの痛々しさを湛えていた。

「ミーティアは……大切な娘だったんだ」

 嗚咽を漏らしながら、しばし言葉を続けられなかった。ユミルに対しては無関心であったがミーティアに対しては深い愛情を抱いていたのだろう。
 その想いが言葉の端々に滲み出ているのを感じる。やがて泣き崩れながらも彼は必死に声を振り絞って言葉を続けた。

 俺は静かに相槌を打ちながら、その情報を吸収していった。話の内容が進むにつれ、ミーティアという人物がどれほど周囲に好かれ、尊敬されていたかが見えてきた。
 子爵が言うにはミーティアは誰からも愛され、その優しさと知恵で尊敬されていた。それでも、彼女の優れた才能に対する反感や妬みもまた、少なからずあったらしい。

「それとミーティアの件とは別なのだが……」

 俺は一度視線を向けてから、改めて口を開いた。

「先ほどの食事の際、ユミルの皿に載っていた料理についてだ。俺の目には他の者たちの皿と比べて何か違う食材が使われているように見えた。それはいつもこのようなものなのか?」

 マーシャル子爵はその問いに少しだけ驚いた表情を浮かべた後、しばらく黙って考えてから、ゆっくりと答えた。

「ああ、あの料理のことか。実はユミルリアは食事に関して少し特殊な取り決めをしているんだ。健康状態に配慮したものが多くて他の者たちとは違う食材を使っている」
「それは具体的にどういった理由からだ?」
「実は子供の時からミーティアがユミルの為に消化が難しいものを避け、栄養の偏りがないように工夫したレシピを考えてくれたのだ。妹想いのあの子はユミルリアの食事にも非常に気を使っている。本当に素晴らしい娘だったよ……」

 他の者たちと違った食事を摂っているのは単に好みや無頓着なものではなく、彼女自身の健康を守るためであった『美しい姉妹愛の結果』だそうだ。

 ◆

 話し合いを終えた俺は調理場に向かった。マーシャル子爵との会話は長引き、ユミルの食事に対する疑念はますます深まっていた。ユミルが食べる料理にどんな意図があるのか、ただの気配りなのか、それとも他に理由があるのか。俺はその答えを見つけたかった。

 調理場に入るとシェフたちが忙しそうに料理を仕上げていた。俺は一瞬、シェフたちの動きを観察した後、目を向けるべき人物を見つけた。シェフの一人がレシピを広げていた。

 今後の為にユミルが食べている料理について少し知りたい。そのレシピを見せてもらいたいと頼めばシェフは一瞬ためらった後、すぐにレシピ帳を差し出した。俺はレシピ帳を受け取ると目を通し始めた。

 ページをめくるたびに俺の眉が徐々にひそめられていった。ユミルの食事に使われている素材は栄養価が低いものが多く、特にタンパク質や炭水化物が不足している。野菜や果物が中心で、そのバランスの悪さに俺は違和感を覚える。

 ユミルの食事を決めていたのはミーティア。ミーティアが意図的にユミルの成長を妨げようとしたのではないかと俺は思った。

 ミーティアは一見、ユミルに対して確かに優しく、親身になって接していたように見えた。しかし、あの食事の内容から推測するにミーティアは何らかの理由でユミルの成長、更に未来を遮ろうとしたのかもしれない。

 ユミルがレーゲンブルク家に嫁いでからしばらくの間、いつも顔をしかめながら食べていたのを思い出す。その原因が食べ物の変化によるものだと俺はすぐに気づいた。
 あの食事はユミルがこれまで慣れ親しんできたものとは全く異なっていたからだ。

 ◆

 マーシャル子爵から有力な情報を得られなかったまま、頭の中は次々と湧き上がる疑念で埋め尽くされる。ミーティアの部屋に何か手掛かりが残っているのではないか、と考えながら廊下を進むその途中で予期せぬ人物と出会った。

「ヴィクトル様、何か私にご用ですか?」

 エレノアの冷静な声が響いた。無表情な顔がいつものように感情を読み取らせない。

「いや、少しミーティアの部屋に用事があってな」
「……そうですか」

 言葉を発したがエレノアは何か考えるように少しだけ間を置いた。その一瞬の沈黙がなぜか気になったが気にせずにミーティアの部屋に行こうとすればエレノアもついてきた。何か他に用があるのかと思えば階段の踊り場で足を止める。

「あの……お聞きしたいことがあります」

 その言葉に俺は足を止めた。エレノア表情に隠された感情を読み取ろうとしたが無表情な顔からは何も感じ取れない。人のことは言えないがこの女も愛想が無さすぎる。

「ユミルリアのことはどうお思いですか?」
しおりを挟む
感想 324

あなたにおすすめの小説

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

処理中です...